第414話 共に在る未来 13
「んだよアレ……!? あんなゴーレム見たこともねえぞ!」
「あたし達にトドメ差しに来たってわけかよ」
「…………似たようなのを見たことあったねそういえば。アレクシスと昔遠出した時だったか。まさか、ああいう風に動くものだったとは」
一部分に皮を残したスケルトンならばいざ知らず、見た目に生体的な要素が一切存在せず、ましてやひたすら機能的なフォルムに割り振られた様相で浮遊する機械など見たことがあるわけがない。
各々のリアクションの大きさに違いはあるものの、皆共通して驚く他無かった。
その中でも特に、様々な感情が入り乱れ驚愕していたのは、他でもないエルフィだった。
「あの野郎……あんなのまで動かしやがったのかよ」
アリアから生まれ、この世界の真実を知っているエルフィは、それが何なのかを知っていた。
何千年も前に、ARIAが人類を排除するべく量産製造した殲滅兵器。
ただひたすらに目標を抹殺し、確実に息の根を止める。
その目的の為だけに造られた過去の遺物であり、アリアが秘匿すべき歴史として封印した負の遺産である。
だが、これを廃棄せず封印に留めていたのには、B.O.A.H.E.S.の他にも、予期せぬ外敵の存在が発生した際の最終的な戦力として投入するという意図があった。
それはあくまで最終手段であり、なりふり構わず世界を守る為の最後の駒として残しておいたもの。
皮肉にも、世界を奪おうとする者の駒として使役されたのだった。
「避けろ!! あれの攻撃は一瞬で飛んでくる! 絶対に触れるな!!」
エルフィは、攻撃が飛んでくる前に叫んだ。
何もわからず予備動作が見えた時点ではもう遅い。特に、量産型の波と新たなる敵の襲撃によって傷ついた三人では、いつ被弾してしまうかもとても危うい。
さらに、もうティアという少女の皮を被る効果は薄いと判断されたのか、それとも繕う時間すら惜しい程に急造しているのか、それとも両方か。
自動兵器達と並ぶように接近する量産型達が、援護するように捨て身で接近してくる。
もとより破壊されることも厭わない存在。身を尽くして与えられた命令に忠実に従う兵士は、この状況をさらに悪化させるには充分すぎる存在だった。
そして、エルフィの叫びから間もなく、自動兵器に備わった小さな砲身の先が、一瞬だけ赤く光った。
「────っ!?」
その攻撃が己に向けられていると、エヴァンは察知した。
ほんの一瞬の、動作とすら言えないような現象の如き予備動作。殺意の無い殺意。
刹那、エヴァンは真っ先に標的にされたのが自分で良かったとすら思えた。
これが他の二人や焦りを見せているエルフィであれば、間違いなく為す術なく喰らっていただろう。
だからといって、自分に向けられて被害を避けられるかと言えばそうではない。最小限に出来るというだけなのだ。
エルフィは反射的に二本のナイフを構えつつ、ほんのわずかな時間で視認した砲身の角度から可能な限り直感的にコースを予測し、身体を傾けた。
ナイフは瞬時に一つになり、防御面を広げようと盾へと変わっていく。
だが、完全に変わり切る前に、自動兵器から放たれたレーザーは到達した。
「ぐっ……!」
「エヴァンさんっ!!」
「お兄ちゃん!!」
ナイフと盾の中間のような形状で受けたレーザー。貫通こそ免れたものの命中した箇所は黒く焦げており、その威力が伺いしれた。
「大丈夫だよ……けど、話してるヒマは無い!」
彼の言う通り、自動兵器群と量産型は、無機質な波のように押し寄せつつある。
そして、最初に接近したのは自動兵器側だった。
一体が内部機構を一部開放しながら、内蔵された刃が紅く光る切断武器をラントめがけて振り下ろした。
「この野郎!! やってやろうじゃ……っ!」
度重なる敵襲に辟易しそうになるが、そんなことは言ってられない。
こうなればもうとことん戦ってやるとばかりに、ラントは拳にマナを纏わせ、真正面から殴りぶつかろうとした。
だが、拳を振り抜く直前、ラントは直感的に危険を感じた。
今からでもカウンターで殴り抜けることは不可能ではない。しかし、本当に可能なのか。
とても嫌な予感がする。この敵が振ろうとしている刃には、終わりを感じさせる「何か」がある。
ラントは攻撃の意思を途中で無理矢理抑え込み、腕を振り抜かず、自動機械の攻撃コースを死ぬ気で凝視しながら強引に回避した。
刃に掠ることすらなく、なんとか完全に回避してみせた。
だが、刃が振り抜かれた先にあった瓦礫が、紅の刃によって真っ二つに両断された。
断面は赤く焼け焦げており、まさしく直感が正しかったことを証明した。
「あっっっぶねえ…………」
「離れろラントォ!!」
怒号にも近い名前呼びから、アリシアが開放された内部機構へ矢を正確に撃ち込み、爆発させた。
一瞬の判断から与えられた見事な致命傷。自動兵器の一体は、破損箇所からスパークを起こしながら痙攣し、爆発を起こし吹き飛んだ。
「よし、倒せるんなら問題は……」
「油断するなアリシア!! おおおりゃあああっっ!!」
倒すのも一苦労するような相手であれば、絶望しか無かった。しかし、アリシアの一撃によって倒せることを証明し、わずかに希望が灯った。
そんな彼女の背後を、量産型の一体が四足歩行の昆虫のような挙動で飛びかかり、組み付こうとした。
それを火球によって吹き飛ばし援護したのは、エルフィだった。
直撃を受けた量産型が、わずかしかないティアの要素である顔面の模造皮膚を溶かしながらばたばたと暴れ、がくんと跳ねた瞬間に爆発を起こした。
三人と一匹は確信した。戦えないわけではない。この追い打ちの如く流れ込む敵には真正面から戦えると。
だが、その数の力は、戦意を削ぐのには不愉快な程に強大だった。
「みんな、ここが踏ん張りどころだよ」
「はい! 散々てめえらを相手にしてきたんだ。今更負ける気もねえし、大我にも指一本触れさせねえ。あいつは俺が倒すまで死なせるかよ!」
「いい加減しつこいんだよ……! 全部まとめて、てめえらを吹き飛ばしてやる!」
「ようやく救いの手が見つかったんだ。ここで大我を殺されてたまるかよ!! 大我は、俺が守る!!」
しかし、それだけで心が砕けるのは並の戦士の場合である。
四人は折れない。闘志はさらに燃えている。
決して負けるわけには行かない。そして、大我には絶対に手出しさせない。
傷ついた四人の意思はさらなる炎となり、終わりの見えない持久戦へと立ち向かわせた。
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