第371話 あなたが誰であっても 13
瓦礫と残骸が混ざりあった、周辺が廃墟のようになった抉れた道を突き進む三人。
現在いるメンバーの中でも、パワーを用いた肉弾戦に特化したアレクシスと劾煉は、共に周囲とユミルセレナの全体に目測をつけつつ走る。
一方のルシールは、己の足で走りつつも、その身体には、クロエが付与してくれた膨大な冷気を纏っていた。
それは彼女の魔法でありながら、発動タイミングはルシールの意思で決められる。
それこそが、セレナの場所まで渡る鍵となるのだ。
「まさかこういう役回りを請け負うとは意外ね、迅怜」
「はっ、俺だって本来なら同じく突っ込みてえよ。あのデカブツを徹底的に一人で潰してやりてえくらいだ。だが、今は俺の無理を通すタイミングじゃねえってだけだ。いずれ来るだろうからな」
後方にて、遠距離サポートの役回りを請け負ったクロエと、本来はそちらには回らない迅怜。
クロエだけではおそらく保険が足りなくなるのではという判断もあった。
「やっぱそういうとこから迅怜らしいわね。どんなに自分に大きな壁が迫ろうとも諦めずにそれを砕く方向に行く。けど、ちゃんとタイミングは考えてる」
「これまでで学んだからな。壁をぶち破るには、愚直にやり続けるだけじゃ駄目だってな。だからこそ」
迅怜の周囲に電撃が走り、ゆっくりと両手を合わせて構えを作り出す。
全身に雷撃を纏い、常に自由に攻撃を花てる準備を整えつつ、右脚を後ろに下げていつでも走れるようにと他プランへの準備も怠らない。
「俺は正解を求めつつ、俺の道理で無理を貫く」
「迅怜らしいわ。強引に物事を突破するって、とても大きなカタルシスがあるものね。今にも首を落とされそうな友の処刑場に、無理やり乗り込んで助けるように」
「……お前の喩えはいつも捻り過ぎだっつうの」
「ふふっ、さてと……」
二人のやり取りには余裕をも感じさせるが、その裏には強い警戒心と仲間への信頼があった。
どこからでも攻撃できるならば、いつ自分に向かってきても不思議ではない。だからこそ、己への守りにも意識を向けなければならない。
そして、自分達は仲間の強さを知っている。
信頼と現実の天秤から、自ずとやるべきことを導き出されるのだ。
「私も全力を尽くさないと」
* * *
新たな攻撃が始まる前にと、全力で再度近づきに行くアレクシス、劾煉、そしてルシール。
二人はどこを打つべきか。どのようにして硬質な巨体を叩くべきか。風穴を開けるべく思考を巡らせていた。
一方のルシールの目線は、常にセレナの方へと向けられていた。
クロエの力を借りて、瓦礫や残骸ででこぼこどころではない地面を凍結させながら滑り、元々の脚力では絶対に追いつかない二人と肩を並べる。
強引な手段だが、セレナの元へと辿り着く手段は考えている。あとはどこでそれを行うべきか。
至らない自分が力を借りている以上、失敗は許されない。
絶対にセレナを助けないと。近づくまでに許されていたある程度の余裕を持つ思考は、ほんの小さな前触れから塗り潰された。
劾煉の視覚が、セレナの身体がわずかにがくんと揺れたのである。
「っ!! 備えよ、何かが来る!」
その一言に、二人は緊張した。
先程よりも短いペース。何が来るかもわからない攻撃。
一体どこから魔法がやってくる。
直後、ユミルセレナの巨体から大地を唸らせるような駆動音が鳴り響いた。
巨獣の咆哮の如き音は、威嚇するには充分過ぎた。
刹那、広域に展開された無数の雷剣と火球。
何十、何百と、見ただけで途方に暮れそうな数。それらは全て、五人全員を指して生成されていた。
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