第344話 いざ、アルフヘイムへ 8
それとほぼ同時期。
外壁を大きく迂回し西門を目指すエミル達は、後方から聞こえる爆発的な破壊音を耳にした。
大地から、空気から、その衝撃が鎧と肌に響いてくる。
「ビリビリ響いてくるな! こいつがまさしく最強の力ってわけか!」
「間近で見られないのが少し残念だけど、私達も負けていられないな」
「お二人はこんな時に何張り合ってるんですか」
「どんな時でもな、強え奴には心躍るもんなんだよ! そうなると俄然やる気も出るってわけだ! オラァ! 退け退けェ!!」
ガイウスが手綱を握る馬に乗り、爆轟剣を豪快に振り回し、しかし見事に味方に当たらないように量産兵を薙ぎ倒していくバーンズ。
同様に、馬を操りながらもエミルの洗練された剣撃によって、敵は指すら触れられずに斬り倒され、サポートとして範囲外の者をエウラリアが討つ。
前線を走る三人の騎士団は、目標を蹴散らし確実に進む。
厳選された馬の速さは馬車という枷を外して風のようになり、西門までの距離をさらに縮めていく。
「ちっ、ここまで飛びかかってくるかよ!」
「皆様、一瞬だけ目をお瞑りください!」
まるで上空から押し潰そうとしているかのように、無数の量産兵が塊の如く押し寄せてきた。
範囲も広く、不安定な馬上で薙ぎ払うにもリスクが生じる。
それに対し、ガイウスが三人に向けて声を出し、咄嗟に取り外し持ち込んだ魔法具の宝石器を懐から取り出し、翠色と蒼色の宝石を押し込んだ。
二頭の馬車の周囲に、氷の礫を混じえた竜巻が発生し、それは量産兵の接近を許さず吹き飛ばした。
「もしもの時にと備えていた、取り外しによる携帯機能。最高の時に役立たせて頂きましたミカエル様」
「王子様の準備力には頭があがんねえな」
魔法具として造られた馬車に備わる、発動トリガーとしての宝石器。
それは単体でも動作可能だが、その力は本来の時よりも大きく劣る。
しかしそれが、見事なアシストをもたらした。
良い流れを引き当てたが如く、ようやく視界内に西門の姿を捉える。
ガイウスはラストスパートと、一気に走らせた。
「皆様、西門が見えて参りました! エミル様! バーンズ様! 一撃の準備をお願い致します!」
「向こうが突破したならば、私達もその後を追う!」
「へへ、一回はあの門、豪快にぶち壊してみたかったんだよ。頑張らせてもらうぜ!」
エミルのフランヴェルジュ、バーンズの爆轟剣。
ネフライト騎士団の誇る灼熱と爆裂の剣が、装者に応えて紅く輝く。
魔法がほぼ使えない人間である二人は、魔法具に頼らざるを得ない。
だが、エミルもバーンズも、過程は違えど鍛錬と生き様により磨き上げた力は誰の引けも取らない。
そんな二人に、最高峰の魔法具が備われば、まさしく無敵の剣士と形容できるだろう。
「我が剣フランヴェルジュ! 秩序の下に聖炎を纏い、炎刃へ光輝を齎せ! 我が一閃によりて、不屈の信魂は斬り開かれん!」
「我が爆轟剣よ! この一発は壊裂の一撃也! 爆撃の前には塵芥も残さん! さあ応えやがれ、俺の魂に!!」
剣の力を、一撃を引き出す詠唱と共に大きく近づく二頭の馬。
そして、残り100メートル程の距離になり、ガイウス以外の三人は馬を飛び出し走り出した。
それをわかっていたと、ガイウスは馬を巧みに操り、即座に後退し走り去っていった。
「皆様、ご武運を! ミカエル様と共に、お待ちしております!」
主人の仲間へ向けた最後のエール。
エウラリアは敬意を込めて頭を下げ、二人はそれに返さず背中と行動で答えた。
エミル、バーンズ、共に剣を大きく振り被る。
その大きさの差は見た目にもわかり易すぎる。
だが、強さの前にその差は揺らぎ消える。
「はあああああっ!!」
「オラァァァァ!!」
エミルが太陽のように熱く輝く刃を振り下ろし、少し遅れてバーンズが溶岩の如く焦がす大剣を振り下ろした。
刃渡りを大きく超えた、燃え滾る斬撃の跡が、閉じられた西門に刻まれる。
直後、シンプルながら全てを吹き飛ばさん程の大爆発が引き起こされ、西門に巨大な穴が造られた。
その音は、先程のエミル達と同様に大我達にも聞こえてくる。
足を踏み入れることに成功し、アウルスはいつでも皆を迎えられるようにと、進行方向を逆に向けて一旦帰投する準備に入った。
「避難所にいる皆を代弁するわけじゃないですが、俺は皆さんの勝利を待っています!」
これで、皆を導いた御者の二人と馬車はいなくなった。
後に残るのは勝利か敗北かだけ。
敵地の要塞となったアルフヘイムへ、大我達は進行の一歩が踏み出された。
「第一関門は突破しました。止まる暇はありません。いきましょう、ユグドラシルへ。世界の中心へ!」
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