第321話
「しかし、まさかこんなにぽっかり穴が開いてるとはな。司令塔の副団長ぐらい残ってもよかっただろうに」
「西側の避難民側が手薄だと聞き、複数人を派遣するよりも私一人で向かうほうが身軽だと思っていたんだ。その際、ミカエルにここの護衛を頼んでいたはずだが……」
「ミカエル隊長であれば、15分程前に少し確認しておきたいことがあると言って離れていきました」
「あんの偵察王子はよぉ……」
「ということは、その僅かな隙間を狙われてしまったわけか。これは私の判断ミスだな……すまなかったみんな」
「いえ、私達がその穴を補えば良いだけのことです。隊長の謝罪は必要ありません」
自身の判断の甘さが、街の人々や隊員を危険に晒してしまったと、謝罪の意思を見せるエミル。
だがそんな必要はない。自分達を率いる者がいちいちそんな姿を見せる必要はない。自分達は理解していると、隊員の一人が毅然とした態度でぶつかった。
「そうか……感謝する。あとはこれからで取り返そう」
「さすが、第1部隊だなあ。そんで……お前らァ!」
「ハイっ! 隊長!!」
「ちゃんと言ったとおりに食堂作れてんじゃねえか! 不器用だったお前らも成長したな!!」
「いえ! これも隊長が俺達の面倒を見てくれたおかげっス!!」
「あいつらにもまだ負けてねえんで! 勝負はまだまだこれからだ!」
バーンズの帰還によって、より一層血の気が上がったように士気が向上した第2部隊。
実際は戦況の空気が入れ替わる寸前だったが、それももう今では覆る気がしない。
強者の存在は、それだけで流れを大きく変える。
それはエミルやバーンズだけの話ではない。
「なあ迅怜、ここは俺に任せて、少し前で戦ってくれないか? 残りの数がどれくらいかも確かめてほしい」
「あーはいはい。せっかくそこの誰かさんが役に立ってねえんだからな。気持ちよく戦わせてもらうぜ」
「頼んだよ迅怜。僕の分まで頑張ってきてね」
「うるせー! 誰がてめえの分を持つかよ!!」
そう言いながらも、迅怜は気合の入りようが目に見える程の電撃を纏い走り出した。
アレクシスは手のひらに拳を当て、これからだと心意を整えた。
アルフヘイム側の反撃の準備は整った。
「行くぞ! 怪我人は下がり、戦える者は前に出ろ!!」
「まだ闘り足りねえ奴等はついてこい! 目にもの見せてやろうじゃねえか!」
「さて、一丁整理させてもらおうかね」
「あのエルフの小娘もどきで、俺に勝てると思うなよ!!」
騎士団員とラント達の第一ラウンドは幕が降り、新たな戦力が加わった第2ラウンドの幕が開けた。
だが、その光景は圧巻の一言だった。
「動作は無茶苦茶だがとにかく速い。攻撃の手が緩まない……だが、その程度で私に勝てると思うな!!」
ただただ加害性を剥き出しにし、素体の性能を活かした、人の挙動すらも無視する攻撃の応酬。
エミルはそれを、まるで時間の先でも見えているかのように完璧に見切り、防ぎ、炎を纏った一太刀で偽ティアの身体を縦に横に、真っ二つに斬り捨てていった。
「どうしたァ! 数だけ揃えてもそんなもんか!? 他人の姿借りてもその程度かっての!!」
バーンズは大剣、爆轟剣を豪快に振り回し、雑草や枝葉でも薙ぐかのように、次々と偽ティアの身体を呆気なく両断、破壊していった。
魔法具としての能力すらも必要ない。己の力と技術でどうにでもなる。そう言わんばかりに次々と残骸の山を築いていった。
「思ったよりもパワーは無いな。ならばこいつでどうだ! そしてもう一発!!」
アレクシスは冷静な分析から力量を測った上で、住民に被害が及ばないようにしつつ無数の石柱を発生させ、偽ティア達を貫き吹き飛ばした。
追加とばかりにそれを豪快に砕き、散弾のようにぶち撒けた。
偽ティアの頭部や胸部、四肢を貫通し、壊し、再起不能に至らせる。
加えて自身の豪快な鉄拳を容赦なく叩き込み、一撃で人の形を失わせた。
その純粋なる強さを見せつけられた人々は、ただただ息を飲み驚嘆するしかなかった。
それぞれの対処から溢れた偽ティア達を、隊員や協力者が倒していくが、それでもまるで別次元の戦いかのように思えた。
「すげえ……これが……ネフライト騎士団の隊長の力……」
「はは…………これじゃ隊長達に届く気もしねえや…………」
「いっつも優しいアレクシスさんも、あんなすごい戦いができるんだ……」
そしてそれは、本来一般人である大我も同じ。
「…………かっこいいな……騎士団の人達も、アレクシスさん達も。遠すぎて見えないくらいだ」
アリアに強化された貰い物の身体能力と、魔法の力。
自分なりにトレーニングをして、なんとか使いこなせる様に、戦えるようになっても、目の前の壮大な光景を見せられては、その領域に届く気が全くしない。
泥臭く戦うことはできても、自分が強いとは到底思えない、大我はそれをただ、他の人々と同じように目に焼き付けていた。
そして、最後の一体をエミルが仕留め、無数の少女の形をした残骸が積み上がり、ついに攻勢の波が止まった。
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