第320話

「怯むな! 少女の姿をしていても、敵の能力は相当なモノだ! 惑わされず、ネクロマンサーの操る死体だと思って立ち向かえ!」


 ネフライト騎士団隊員の叫ぶ声が、森の中にこだまする。

 純粋なる数の暴力が、偽ティアのスペックと共に大波のように押し寄せてくる。


「はあっ! そんなナリしてやるじゃねえかよ! 俺達じゃなけりゃ殺られてたかもなぁ!! あぁ!!??」


 住民達に被害が及ばないようにしながらも、第2部隊の隊員達が、心臓を貫かれるかどうかのギリギリの戦いにテンションを上げ、無茶苦茶に暴れまわっていた。

 騎士団どころか愚連隊や暴走族と形容出来そうなほどの暴力スタイルっぷりだが、彼らは確かに人々の為に戦っている。

 事実、戦闘専門部隊なだけあって、個々の戦闘能力は非常に高く、偽ティア達の応酬に真っ向からぶつかりあっていた。


「なっ! しまった……ここまでの威力とは」


「そこの奴! こいつを使え! 付け焼き刃だが、木の盾よりはマシだろうよ!」


 騎士団員がぶつかり合う最中、敵側の想定以上の戦力に、装備の欠損が起き始めた。

 それを補う為、何より自分達の職人魂をここで役立てずにどうすると、アレクシスの弟子であるドワーフ達が、土や岩から魔法を駆使して盾や防具を急造。

 騎士団員の元へ放り投げ、死なないように手助けを施した。


「俺達も応戦するぞ! ずっと騎士団には世話になってんだ! ここで少しでもその礼を返してやろうぜ!」


 それに並び、エルフやヒューマンといった他種族の者達も、微力ながらと後方から魔法や矢などの遠距離攻撃で加勢した。

 腕っぷしに自信のある獣人族も、肉弾戦をしかけて複数で少しずつ偽ティアにぶつかっていった。


「てめえらは一歩足りとも近づいて来るんじゃねえ!! こちとら何回も知り合いをぶっ倒して気分悪いんだよ! 俺にまた友達の顔した奴倒させるんじゃねえ!!」


 その無数の奮戦の中にいるラントは、向かい来る偽ティアの頭や身体を、胸中に溜まりきった不愉快さと怒りを爆発させるような一撃で吹き飛ばしていった。

 思いっきり捻りを入れた豪快なパンチで、斧を振り回すかのような回し蹴りで、大地に杭を打つようなスレッジハンマーで。

 周囲にかつて少女だった部品をばらまき、一体一体を蹴散らしていく。

 初めて出会った時の苦戦ぶりも嘘のように、短時間で成長したような圧倒ぶり。

 量産によるスペックの低下か、それとも吹っ切れた事により本来の強さが引き出されたのか。

 ともかく、ラントは戦うものの中でも一際目立つ活躍ぶりを見せていた。


「ラント! 向こうから四人くらい一気に来てる! こっちはあたしに任せろ!」


「押されるんじゃねえぞアリシアぁ! おォりゃああああああ!!!」


 敵に対する不快な気持ちを抑えつつ、アリシアは周囲の状況を見極めつつ、ラントに指示を出す。

 とにかく目の前の敵をぶっ倒す。そのシンプルな思考のままに戦っているラントはそれを聞きいれ、より無数の偽ティアが接近する方向へシフトしていった。

 戦いの火は絶える気配はなく、現状は未だ、住民達への被害も無く守り切れてはいる。

 しかし、いつ偽ティアの波が収まるのかもわからない時間が続き、騎士団員はだんだん疲弊し始めていた。


「まだ倒れるな! 私達が倒れれば、人々に凶刃が及ぶ! 下がることは許されない! 最後の砦として踏ん張るんだ!」


「んなことはわかってんだよ良い子部隊共! 次から次に湧いてきやがって、こっちには身一つしかねえのによぉ!」


「こいつら、エルフの姿してるくせに……俺達に追いついてきやがる……!」


 騎士団や戦力に加わってくれた住民、ラント達は身一つ、戦えば戦うほど疲労と傷は蓄積していく。

 しかし偽ティアは同じ容姿と性能でも、一体一体が別個体。疲れ知らずに淡々と攻め続ける。

 長期戦では圧倒的にアリア=ノワール側に分があり、何よりアルフヘイムが支配下に置かれている以上、環境的優位は敵側にあった。


「まずい! 上から来ているぞ! 避けるんだ!」


「ラント!! あの偽物を止めろ!!」


 そして、ずっと平行線が続いていた戦況が崩れ始めたか、騎士団側は数を利用した上空からの接近への反応が遅れる。

 ラントとアリシア側は、目の前の戦いに集中しすぎるあまり、二体の偽ティアが跪き、レーザーの発射体勢を整えていたことに遅く気づいてしまった。


「しまった、間に合わねえ……!」


 それぞれに攻撃が着弾するまで、もう五秒と持たないだろう。

 とうとう均衡が崩れてしまうかと思われたその時、騎士団達の方向へ一本の大剣が爆発を伴いながら飛来した。


「そのままぶっ飛べ! 爆豪剣!!」


 爆発の勢いを太刀筋に、大剣は隊員に飛びかかった偽ティア達を砕くように一刀両断した。

 その刃は留まることを知らず、剣の柄に何度も爆発を起こして大群を薙ぎ倒し、上空へと吹き飛ぶ。

 直後、地上ではまるで煌めくような炎が、大地を駆け抜けるように偽ティア達の胴体を一瞬にして一刀両断していった。

 そして、空中で挙動を爆風で制御しながら、大剣はブーメランのようにその主の方へと戻ってきた。

 同時にその斬撃の主も立ち止まり、隊員達にその姿を現した。


「済まない皆。合流に遅れてしまった」


「エミル隊長! お待ちしておりました!」


「我ら第1部隊、騎士団員としての矜持は未だ折れてはおりません!」


「待たせたなお前ら! 俺が来るまでよく頑張った!!」


「「「「「バ、バーンズ隊長ーーーー!!!」」」」」 


 突如現れた攻撃の正体は、ネフライト騎士団第1部隊隊長にして、騎士団副団長、エミル=ヴィダール。

 そして、第2部隊隊長のバーンズ=アームストロングだった。


 同時刻。

 口から剥き出しにし、発射口を光らせていた二体の偽ティアの足元が突如ひび割れ、陥没し始めた。

 バランスを崩し、四肢の固定が揺らぎ始めるが、頭部の位置は決して崩さず空中に固定されたように動かなかった。

 直後、閃光の如き雷が二体の身体を通過する。

 レーザーの発射一秒前。偽ティアの身体は一瞬にして首、腕、脚、胴体が両断され、ティアの形は残骸へと生まれ変わった。

 放出されるはずだったエネルギーは行き場を失い、その場で爆裂。周囲の偽ティアを巻き込みクレーターを作り上げた。

 ラントはほんの僅かな間に起こった職人技のような連携を見て、震えた。


「これは……あの正確無比な土魔法、あの電撃……まさか……!」


「よう、欠かさず修行してるみたいで感心だな。お前が話していた通り、己の力で人々を守れたじゃねえか」


 ラントの肩に、力強く大きく偉大な手が触れる。

 そこにいたのは、ラントの永遠の憧れであり師匠でもある、土魔法最強のドワーフ、アレクシス=ウィーデンだった。


「悪いな、遅れちまった。このデカブツが俺について行けりゃあな」


「ったく、ドワーフが人狼のスピードに追いつけるかよ! 俺だって全力で走ってんだ!」


「じ、迅怜さん……!」


「おいエヴァン、てめえがいんのになんだこのザマはよ。最強様がいい身分だなあオイ!」


「あはは、言い返せないね。僕はちょっとダウン中だ。今加勢しても足手まといになっちゃうからね」


 そして、姿を現し経口一番に語気強めの言動をぶつけたのは、アルフヘイムに於いて雷魔法最強と謳われた人狼、迅怜だった。

 それを見た大我とエルフィが周囲を見渡すと、各地に散っていた街の人々が集まり、離れ離れになっていた友人や家族の再会を喜ぶ姿が見受けられた。

 騎士団隊長格や神伐隊メンバーは、それぞれに別の避難民を先導していたところ、現避難所から捜索に来た者達と合流。こうして一般人のさらなる安全確保に成功したのであった。

 ヒーローは遅れてやってくる。もう後がないアルフヘイムの人々の元へ、最高戦力とも言える者達が、天からの助けの如くついに推参した。

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