第319話
「皆さんは私達の後ろへ下がってください! 我々騎士団が盾となります!」
次々と湧き出し迫ってくる、どこかで見たことあるような、或いは確かに一度は街で見かけたことのある少女の大群。
その一体一体の顔には感情は見られず、戦うものでなくとも、その瞳に冷たい敵意が感じられた。
即席避難所にて待機するネフライト騎士団の第1部隊員が、決して一般の人々を傷つけてはならないと、自ら前に出ていく。
「こいつらが話に聞いてた奴らか! 隊長から話は聞いてんだ! 女子供の姿してようが、容赦しねえからなぁ!!」
ならば前に出る役は任せろとばかりに血の気の多い第2部隊隊員達が、真正面から偽ティア達に挑み進んでいった。
各々に豪快かつ訓練によって鍛え上げられたパワーと技術を駆使し、一人ひとり薙ぎ払っていく。
一方の偽ティア達も、まさしく量産兵と言わんばかりに一糸乱れぬ正確な動作と、組み込まれた機構による射撃や斬撃によって翻弄し、騎士団の力を削いでいった。
現時点では、数も実力も勝るネフライト騎士団側が優勢。
地面には、偽ティアの腕や脚、胴体が部品をばら撒きながら倒れ、ころころと虚ろな瞳の頭部が土につく。
そんな光景を、人々は怯えながらも見守っていた。
「見ちゃ駄目だ、ティア。今はこうして待っているんだ」
「大丈夫だからね、ここはみんなに任せるのよ」
「パパ、ママ……」
「……どうしてだ、どうしてこんなことに……私達の娘がこんな…………」
その中で、ティアの両親であるリアナとエリックは、こんな悲惨で異常な光景を娘には決して見せまいと、視界を遮るようにして抱きしめ、背中を擦り心を落ち着かせようとした。
偽ティア達が機械的な存在であることが、幸運にも断末魔をあげずただ崩れるように壊れていくことに繋がっていた。
自分と全く同じ見た目をしている存在が、次々と殺されていく姿を見るのは、間接的な自殺と同等と言えるだろう。
そんな目に娘をあわせるわけにはいかないと、二人は必死に恐怖と怒りと抑えながら娘を守っていた。
娘がなにかしたわけでもない。なぜティアがこんなことになっている。なぜ娘の偽物がこんなにも溢れている。
自分の知らないところで一体何が起こっているのか。
エリックは歯を食いしばり、この戦いが終わる時をリアナと共に祈り続けた。
「一体どこに隠れてたんだよこんなに!? どいつもこいつもティアの顔して気味が悪いんだよ!!」
騎士団員と共に迎撃の加勢に入るアリシア。
頭部に一発、胸に一発。矢尻の燃える矢を直線的に動く偽ティアに正確に放ち爆裂。
友達と同じ姿をしていようが敵だと割り切り、無数の首無しの残骸を作り上げた。
その時、アリシアに向けて三体がまとめて飛びかかってきた。
「次から次に……!」
周囲には戦えない者が残っている。自分が前に出ているが、この瞬間に一斉に払えるのはおそらく二体まで。
三体目は対応は可能だが、一撃で倒すには足りないだろう。
とにかく余計な考えを払拭し、まずは二体分を射抜き破壊する。
残ったもう一体をどうするか。蹴り上げるか、殴るか、一旦受け止めるか。
右腕から刃を剥き出しにしながら、偽ティアが迫る。こうなったらどうにでも、と考えた瞬間、横から一人の豪快な拳が割り込んできた。
「おらァァァァァァァ!!!!」
「ラント!?」
その一発の主は、ラントだった。
一度偽物との対面を果たし、正面から戦った彼に迷いはない。
セレナとの戦いで最も消耗していない彼は、重く鋭いストレート一本で偽ティアの右腕をへし折り、そのまま遠くまでふっ飛ばした。
「お前、さっき戻ってきたばかりじゃねえのか!?」
「まあな。正直、物足りねえからいい機会だったんだ。ここで存分暴れまわってやるよ」
「つーことはお前、あんまり活躍できてなかったな?」
「んなわけねーだろ! 大活躍だったっつーの!」
実際、彼がいなければセレナに負けていたであろう程の絶大な活躍を残している。
だが今はそんなことは関係ない。今戦えることが重要なのだ。
「俺も手伝…………うぐっ……!」
「バカ! お前は内臓やられてんだろ! ここでみんなに任せろ」
「そういうお前だってな……」
大我もただ待っているわけにはいかないと加勢しようとするが、セレナに直接風弾を二発も叩き込まれた腹部が、今頃になってとても痛んでいる。
同様に、エルフィ、エヴァン、劾煉にもその傷と疲労は溜まっており、外部より迫りくる攻勢への対応ができずに歯痒い想いをしていた。
「色々と言いたいことも聞きたいこともあるけど、まずはあたし達に任せろよ!」
「そういうこった。俺だってあんだけじゃまだ動き足りねえからな!」
言葉を強めて気合を入れた二人。
そんな記憶データ上の友達にすら表情を変えない偽ティア達は、ただアリア=ノワールから与えられた襲撃命令に従い、自分の身も顧みず攻撃の応酬を続けた。
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