第310話
「はあっ!! おりゃあああ!!!」
「ふんっ!」
土のドーム内での戦いは続く。
最も傷を負っていない大我と劾煉が前に出て、後方からエヴァンの援護を受けつつ休む暇も与えないように徹底的に攻め続ける。
劾煉はB.O.A.H.E.S.の力と変化元が混ざりあった絶大な身体能力を活かし、目視可能な魔法は徹底的に回避しながら懐へ飛び込もうとする。
突風かと見まごうようなジャブ、鉄塊すら貫くような足刀蹴り、身に受ければ潰れるような衝撃が響くことは想像に難くない裏拳。
その一発一発が致命的。命中は決して許されない。
セレナはその狙いをずらす為に魔法を連続で放ち流れ、風魔法をその身に纏ってなんとか回避し続けた。
本来ならば全ての攻撃を回避するのは難しい程の密度で攻めているセレナ側。
しかしそれを、エヴァンが後方から後出しで相殺と防御を行い、劾煉へ向かうダメージを最小限に止めていた。
エヴァン本人にも当然、それを妨害せんと、四方八方から容赦ない雷撃と火球の雨が降り注ぐ。
だが、自分は後方支援に徹し、防御に全てのリソースを割いていいというならば、その守りは鉄壁となる。
劾煉とエヴァンのコンビネーションによる、研ぎ澄まされた攻めが一旦引いた後は、大我とエルフィによる豪快かつ一直線なラッシュが迫りくる。
達人のような正確無比さはない、だが、勢いのままに攻める、止まる気配など微塵も感じられない姿は、徐々に追い詰められつつあるセレナの心を掻いた。
「どうしたセレナ!! 俺はまだやられる気はさらさらねえぞ!!」
「うるっさい!! 元々あんたじゃ使えない力のクセして! いいから大人しくくたばってよ!」
劾煉よりも洗練さには大きく欠けるが、彼と同様に大我が目視できる分は自らの身体で大きく回避、または両手にマナのバリアを纏わせで強引に弾き飛ばした。
彼の手にも追いつかない分はエルフィが受け持ちつつ、雷球や氷塊を放つ。
入れ代わり立ち代わりぶつけられる波状攻撃を、セレナは狭い空間で一身に受け続ける。
戦術がバレたことでペースこそ遅くなったものの、ドーム内の温度は未だ上昇し、酸素は失われて続けている。
時間は長くは残されていない。大我は自身の想いを拳に込めながら、全力を吐き出していた。
「ああそうだよ!! 俺は別にたいして強くもない!! 劾煉さんやエヴァンさんに追いつくのなんかどれだけ気が遠くなるかもわかんねえだろうよ!! それでも、俺はやらなきゃなんねえんだ、戦うと決めたんだからな!!」
「うっざ…………!」
盾として作り出された土の硬壁を、美しさも何もない、泥臭いストレートで砕き散らす。
呼吸のペースは早くなり、全身が生命の危機を少しずつ感じ始めるが、それがむしろ、
大我の精神が戦いに対して鋭くなり始めていた。
劾煉とは違い、生物としての強度が弱い人間だからこその現象である。
「もう一発!!」
盾を貫き、前方へのめり込んだ体勢になった大我。
その先に待ち受けているのは、右手を銃の形に構えているセレナ。
今にも身体にもろに叩き込むのを狙っているような、絶体絶命の構図。
しかし大我が止まらない。怯むことなく、踏み込んだ左足にさらに力を入れ、左側に捻りを加えた。
このまま撃てば確実にセレナの風弾は命中する。だがそれとほぼ同時、狙い澄ましたかのように接近する劾煉、そして既に槍を放り投げたエヴァンの姿を視界に捉えていた。
同時に外から迫りくる二つの攻撃。
本来ならば的確に順序を決め、逃げるなり吹き飛ばすなりすればよかった。そのはずだった。
「………………!!」
だが、延々と続く波状攻撃、自分に襲い来る魔の手を全て視認し確認できてしまう処理能力、自ら作り上げた逃げ場の無い高温の空間、休む暇すらない思考時間。
その全ての要因が重なり、大我達が暑さに消耗させられるのと同様に、セレナの電子頭脳はエルフィやエヴァンよりも早く、熱暴走によって大きな負荷を受け始めていた。
彼女自身の冷却処理も追いつかない程に。
構える指が己の意思に反し、微振動を始める。放つ指が動かない。動作に遅延が生じている。超越した力を持つ余裕故の想定外。
その一瞬が、大我の一発を叩き込む猶予を与えた、
「きゃああっ!!」
セレナの左肩に、大我のキックがめり込む。
咄嗟に守るために左小指を動かすが、完全防御には至らない。
セレナは決死の襲撃をくらい、大きく真横へ吹き飛ばされた。
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