第258話
一度立ち止まった大我の分も含めて、四方八方から高速移動を駆使しつつ怒涛の攻めを仕掛けるミカエル。
光が形となったような突きは、射線上に作られた氷の壁を貫くが、ふらりと身体をよろめかせてセシルに回避される。
その間に大きく旋回して回り込み、懐へと飛び込みつつ次の攻勢行動に入る。
だがそれも、接近前に生み出された無数の水弾からの集中砲火による攻撃的防御によって足止めされた。
「参ったね。予想以上に反応が良すぎる……――いや、これは反応なのか?」
まるで外部からの干渉を拒絶するかの如き堅牢な防御。
少しずつ行動速度を上げているはずだが、なぜここまで先回りに近い対応が行われているのか。
もしかしたら、この霧のフィールドそのものに行動に反応する反射的魔法が室内に仕掛けられているのか。
ならばなぜ、不意打ちとはいえテレフォンパンチである大我の攻撃があそこまで深く踏み込めたのか。
アリシアの射撃に対して明らかに接近戦の自分への反応よりも遅れてかつ回避していたのか。
いくら己の霧の阻害が邪魔とはいえ、ここまで守れるならなぜどっしりと構えず、先にサポート役のティアを邪魔したのか。
攻めを緩めることなく、思考を止めず常に巡らせ、セシルに渦巻く戦法の正体を掴もうとする。
「おりゃああああああっっ!!」
その最中、戦線復帰した大我が炎雷帯びた右手と共に、勢いに任せた突進を放つ。
「貴方は目障りです……!」
セシルは一時凌ぎの氷壁を作り出して足止めのキッカケを作り、その後方に二段構えとして何発もの水弾を待機させた。
その作成速度とタイミングは、明らかにミカエルの攻撃時よりも遅い。
それと同時に、ミカエルは攻撃ではなく確認の意味合いを込めた、斬撃準備以外の小細工も無い単純な接近を実行した。
「やはりこちらに……!」
ミカエルが抱いた仮説は正しかった。
大我へ放たれる反撃の直前、接近するミカエルに向けて天から降り注ぐ裁きの如き氷柱が空中に生成された。
そして、二人に向けて反撃の魔法が同時に荒々しく発射された。
「さっきよりもまともに近づけねえ! どうにかできないかエルフィ!?」
「俺に言われてもな! さっきよりも視界悪くなったし、一気にぶっ飛ばせれば苦労しねえよ!」
大我はエルフィの防護サポートと持ち前の身体能力と反射神経で、後退しながらなんとか避けきった。
一方のミカエルは、後退を前提とした事前準備により一切の傷も追うことなく、同様に後ろに下がった。
並び立つ二人。一体どうやってこの手にも掴めないような壁をどうするのか、それぞれに思案する。
「さっきの一発が当てられればよかったんだけどな……クソッ、一番のチャンスを逃した」
「いや、おそらくまだ好機は作れるよ。大まかには僕達がどんな状況にいるのかはわかった」
ミカエルの強気な言葉に反応せざるを得ない大我。
これまでの状況と対応、導き出された結果から、ミカエルは大まかな結論を叩き出した。
まずセシルは、室内に充満させた霧によって自分達の動きに対してカウンターを発動する仕組みを作り上げた。
それはセシルから近い距離である程に効力を高め、反撃の威力や正確さ、速度も増していく。
だが、なぜか大我に対してだけはその動作が遅れている。
遠くで援護に徹するアリシアとティアへの影響が少なかったのは、距離の問題と風魔法による防護が存在したため。
風魔法が得意とはいえ、戦闘面では未熟な部分が残るティアのそれは、近くにいる自分とアリシアには強く効力を発揮することができた。
ティアへの直接攻撃にセシルが乗り出したのは、後々大きな障害になる可能性が考えられるから。
セシル本人の戦いの腕は未熟だが、魔法能力の純粋な高さが成せる対応と鉄壁の拒絶戦法。そうミカエルは結論づけた。
その考察は殆ど正解に近いものだった。
それに加え、セシルの霧は大我達の動きを捉えているが、同時にこの世界の住人であるアンドロイド達に対して、リアルタイムでの行動解析が行われていた。
それはミカエル達には認識し得ないメタ的幻惑能力であり、当の実行者であるセシルにとっても、穢れによっていつの間にか身についた、なぜ自分にそれが可能なのかもわからない後発的能力。
だがそれによって、思考を読み取れない人間の大我に対してだけは、反応が他よりも遅れてしまっていた。
「…………けど、かなり危なそうだ……!」
原理や行動の推測は出来た。しかしその前に、ティアへのダメージから生まれた行動の隙間が、セシルの攻勢を許すターンを作り出してしまった。
室内の空気が振動し、霧が歪むように蠢き震える。
肌に危険を感じた三人は、一旦大きく後退し、被害を最小限に留める為にティアとアリシアの前に立つ。
「私の……私達の邪魔しないでください!! お兄様を救う邪魔をしないで!!!」
涙声混じりの叫びを室内に響かせたセシルは、無数の逆巻く水流と氷の剣を空中に生成。
全方位から突きつけられた銃口の如く、大我達を射殺すように先端を向けられた。
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