第227話
「なんだ今の!? 爆発か!?」
「東の方角だ!!」
皆の雰囲気が一気に強張り、緊張感が立ち込める。
破壊的な音から間を置いて、ゴブリン達の騒ぎ怯え喚き立てる声が大きくなっていく。
これはこんなところで悠長にしている暇はないと、急いでその方向へと走り出そうとしたその時、つい先程村長の家から離れたカンテロと、その妹のナテラが必死の形相で走りやってきた。
「どうした二人とも! 一体何があった!」
トガニが二人に現在の状況を聞こうと近づき、同時に大我達も一斉に足を向ける。
その間にも、無数のゴブリン達が逃げ惑うこの非常事態を察知したトガニは、事情の確認を大我達に何も言わずに任せて一旦距離を取り、大きく息を吸ってサカノ村の住人に大声で叫んだ。
「近い者は私の家に集まれ!!!! 逃げられるものは逃げろ!!!! 命を守ることを優先するんだ!!!!」
ゴブリン達全員に伝えられる、木々が揺れ動くような声。
その言葉の通り、付近を走り逃げていた無数のゴブリン達はトガニの敷地に集まり固まり始めていた。
「私の家に固まるんだ!」
自宅を避難所として開放し、人々がバラけないようにと安全を確保したトガニ。
この判断は、劾煉という存在は言わずもがな、大我やラントのような異邦の実力者の存在を信頼してのものだった。
彼らならばこの危険をなんとかしてくれるだけの能力があることは間違いない。それを大いに加味した結果の最終判断だった。
一方の大我達は、息の上がるカンテロの背中を擦り落ち着けつつ、なんとか事情を聞こうとする。
「わ、わからない…………いきなり木や家が吹き飛んで……それから……村の人が…………」
「人間みたいな…………えっと…………」
パニック状態に陥っているのか、うまく頭の中に浮かんだ返答を言葉に出来ずに詰まっているカンテロとナテラ。
「人間……?」
ほんの少しだけ掴み取れた、ナテラの口から出てきた人間というワード。それが一体何を意味しているのか。
それは三十秒も経たずに発現した。
「来る!!」
真っ先に何者かの気配を察知したのは劾煉だった。
まだ視覚に写らない見えない敵から向けられた、無機質ながらも明確に自身に向けられた殺気。
数秒と経たずに己に向けられる凶刃の未来。劾煉は身体を傾けて構えを取り、受けの体勢を作る。
直後、放物線を描くような軌道から、一人の人型がまさしく劾煉目掛けて氷の刃を突き立て飛び込んできた。
それを決して臆することもなく、冷静なハイキックによって薙ぎ払い、見事に刃をへし折りつつ回避した。
「明確な殺意……標的と見定められたか」
吹き飛ばされた人型は一度地面に叩きつけられながらも、バウンド後に体勢を立て直し、地面をスライドする。
挙動が落ち着き、ようやく敵の姿を視認できた大我達。それを見た感情は、なんとも言葉には形容し難いものだった。
「なんだよアレ……」
「人を無理矢理くっつけた……って奴なのか……?」
「ひ…………ひどい…………」
青髪の女性と銀髪の男性の顔半分を無理矢理くっつけられたような頭部、全身を覆うはずなのにずたずたに傷つけられた軽装服を着せられた女性の身体に、ねじ込むように接続された背中から生えた両腕、肌の色が明らかに下半身の関節部分から断絶している男性の両脚、そして皮膚を破りながら胴体に突き刺さった稼働中の魔法具と複数の武器。
悪趣味としか言いようがない、死体を組み合わせて作られたと思われるその人型は、時折かたかたと奇妙な挙動を見せてはぎょろぎょろと周辺を観察していた。
以前に対峙したネクロマンサーの時のことを脳裏に思い出す大我とエルフィ。
だが、その時とはまた違う違和感を、どこか肌に感じていた。
「またネクロマンサーかなんかかと思ったけど、なんか……違う気がするなエルフィ」
「あいつらの死体見過ぎちまったせいかな、どっか雑に見えるんだよアレ」
決して人生では役に立たないであろう、はからずも鍛えられてしまった死体への審美眼が、この人型はネクロマンサーが作ったものではないと教える。
ならば一体誰がなんのために。動揺からの膠着状態は続いた直後、その空気を破るように、再び人型が劾煉へと突撃した。
「やはり標的は拙か!」
一度行われた単調な攻撃は二度と喰らうことはない。劾煉は次の一撃で決着をつけようと、再度構え右手に力を込めた。
その時、劾煉の背後に急激な高熱を感じ取る。直後、何もなかったはずの後方から突然の小規模の爆発が引き起こった。
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