第216話

 クエストを受諾し、五人で一緒にアルフヘイムを離れた直後。ミカエル率いる第三部隊の隊員が一般人に混じり、セレナの勤める食堂へと姿を現す。

 ミカエルからの命を受けた隊員は、セレナの動向を探る為に最も遭遇率の高く、また情報も得られるであろう場所へと足を踏み入れ、ひとまずの一次的情報を手に入れることにした。

 この日は彼女が休みであることも承知済みである。

 その上で、隊員は他店員へ質問をぶつけた。


「いらっしゃい。何か注文はある?」


「パンケーキとハンバーグサンドを。それと……今日はセレナさんはいないんですか?」


「あー、セレナは今日休みなんですよね。ごめんなさい」


「おっ、彼女のファンか? あいつだったらちょっと前にラントやルシール様達とどっかに行ったぞ。大我……だったかな、そいつもいたな。あとエヴァンさんの妹も!」


 偶然その話を聞いた二つ隣席のいかつい戦士の男が、つい先程すれ違った時の目撃情報をぺらぺらと喋り出した。


「ああ、ありがとうございます」


「こら、人のこと気軽に話さない!」


「はは、悪い悪い。こういう話はつい滑っちまうな」


 行方を知る手間が省けたと考えるが、現時点ではそこで打ち止めとなってしまうことにやや歯痒いと感じる隊員。

 何せ相手は一般人でかつ人気者。下手に探りを入れれば告げ口が入る可能性もある。

 怪しい様子の殆ど無い相手の動向程、監視し続けるのは難しい。本当に怪しいのかすら考えてしまうが、隊長の命令である以上そこに余計なことを思考する必要はない。

 隊員は引き続き、セレナへの調査を続けることにした。



* * *



 一方その頃、ゴブリン達の集落であるサカノ村を目指す大我、エルフィ、ラント、セレナ、ルシールの一行。

 アルフヘイムからやや遠い位置に存在している為、馬車を利用してある程度の距離を移動し、途中から徒歩移動に切り替えて目的の場所を目指す。

 サカノ村までの道中。食料や物資のやり取り自体はそれなりに行われている為に一応の舗装はされているが、それでもやや悪路という印象は拭えない。


「ねー、さすがにこの道凸凹すごくないかな?」


「文句があるなら今から帰ってもいいんだぞセレナ。わかっててきたんじゃねえのか」


「そういうことじゃないの! すーぐラントはセレナを帰らせたがるんだから」 


 互いに悪態をつきながら進むラントとセレナの側で、不慣れな足取りのルシールを大我が導く。


「大丈夫かルシール? 歩けるか?」


「は、はい……大丈夫です大我さん…………け、けど……ちょっとこういう道は……慣れてなくて……」


「足元をしっかり見て歩こう。埋まった石とか凹みで転んだりもするからさ。ぬかるみにも気をつけて」


「わ、わかりました……」


「前から思ってたけど、お前こういう道割と慣れてるよな」


「たまに樫ノ山に行って遊んでたからな。虫採りとか、なんか生えてる果物取りに行ったり」


 過去の思い出が経験として活きていく。


「ったく、こういうのちょっとは直しとけよな」


「うわっ! 泥跳ねた!」


 さすがにこれは放っておけないというような道中の窪みをラントが自らの土魔法で修復したり、セレナが人の頭程の大きさがある泥だらけのカエルの飛沫を避けたりと、ハプニングに襲われながらもサカノ村を目指す。

 途中、未だこの世界について知らないことの多い大我が、おそらくこういう場所について知っていそうなラントへ質問をぶつける。


「なあラント、ちょっといいか?」


「あ? どうした大我」


「ゴブリンってどういう奴らなんだ? 俺あんまり知らないからさ」


「どういう奴らってなると……まあ、普通の奴らと面倒くせえ奴ら半々ってとこだな。なんつうか、それぞれ同じ種族とは思えねえっつうかな。言葉通じる奴と通じねえのがいる」


 頭を悩ませるように首を傾げたり唸ったりしながら言葉を捻り出している様子に、どうにも説明の難しい相手だということが察せられる。

 自分の出会った二人は、向ける態度や様子からおそらくは前者なのだろうと考えられるが、実態も知識もわからない相手であるが故に勝手が全くわからない。

 浮かび上がる疑問に頭を悩ませてながら歩いていると、大我達は拓けた場所へとたどり着いた。


「ここがサカノ村か……」


 長い道程を歩き、ようやくたどり着いたサカノ村。人型の者達が作る村よりもやや自然が残っている集落。

 そこはまさしく前情報の通り、人間やエルフのような亜人種族ではなく、そこにいる村人のほぼ全員がゴブリン。

 大我のこれまでの体験の中でも、とびきり異世界的な雰囲気を視覚的に感じる場所だった。

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