第155話
「ここが、ケルタ村か……話には聞いてたけど初めて来るな」
初めて足を踏み入れた地に、首や身体を左右に動かしては村の様子を観光気分で眺める大我とラント。
アルフヘイム程建物は密集しておらず、入口側には外部からの訪問者を招き入れるためらしき馬小屋が見える。
緑に溢れていながらもきちんと雑草は伸びすぎることなく整然としており、確かに人が住んでいる場所なのだということが強調される。
そこに住む人々も疎らに確認でき、大我はかつて寄ったことのある田舎町の風景もこんな感じだったようなと、思い出に耽っていた。
アルフヘイムのある程度深緑と隔絶しながらの街並みとはまた違う、程よい自然との共存という形が現れている光景を見ていると、途中でバーンズがちょっとだけ茶々を入れた。
「観光に来たんじゃねえんだからな。まあ気持ちはわかるが」
「ああ、すみません。つい」
内心、こういう土地で作る作物は美味いし、実際米や肉はうまいんだよなぁと思いながら、本来の目的へと歩きだす。
「さて、んじゃあまずは宿を探すぞ。場所はわかってても開いてるかどうかが鬼門だからな。いい感じに泊めてくれるとこがありゃいいんだがな」
「そういえば、連絡とか何もしてないんだからそりゃそうだった……」
一切の事前連絡も無しに半ゲリラ的にやってきたとなれば、当然宿や寝床の手配などあろうはずがない。
これはもしかしたら野宿もあり得るんじゃないかと思っていたその時、一人の少女が大我達に声をかけてきた。
「そこの皆さーん! 旅のお方ですか!?」
とても元気にやってきたその少女は、見た目は人間種族であり、亜人の類ではない。
少しだけ地味めな庶民的な服装に、太陽が似合いそうな明るい表情と可愛らしい顔立ち。
その雰囲気に負けず劣らずの晴れやかな橙色のショートヘアーは、快活な様相をさらに強調させた。
「まあ、似たようなものかな。ところで、俺達に何か? 出来れば名前も教えてほしい」
いきなりの突撃に動揺せず、バーンズが即座に応対をしてみせる。
日頃からそのようなタイプのやり取りに慣れているのか、それとも長年の経験か、彼はスムーズに事を運んでいった。
「おっと、まずはこっちから名乗らないとですよね。私はメアリー=スミスです、よろしくお願いします。偶然村の入口を見たら知らない人達がいたから、初めて来た旅人が寄ってくれたのかなーって思って、それで見に来たんです」
「なるほど。丁度いいところに来てもらった。もしよかったら、少しだけ案内を頼んでも大丈夫かな?」
「もちろんですよ! この村のことはよくわかってるので、どんと私に任せてください!」
とんとん拍子に事が進んでいき、いつの間にか案内まで世話してもらうことになった一行。
なんだか勢いに押されているような雰囲気も感じなくはないが、ともかく、ガイド役を快く受け持ってくれたメアリーの後ろをついていくことにした。
心地よい緑のそよ風が吹く道中を歩く一行。
大我とラントは、大きくその原風景を見渡しつつ、途中で見かける人々の姿を眺めていた。
柔らかな日差しと空気が表すような、理想的なのどかな風景。
だが、二人はどこか妙な違和感を覚えていた。
「……なあエルフィ、ラント、なんか変だと思わないか?」
「ああ、なんというか……雰囲気が妙に暗い気がする」
村人は各々に農業や飼育、商売と仕事に従事しているが、遠巻きにもうっすらと、仄暗いどんよりとした空気を感じるのだ。
活気が無い。だがそれは仕事が面倒だからとか、疲れが溜まっているといったものとは考えられない。
もっと別の、根本から何かを掴まれているよう何かを感じる。
中にはちらっと大我達の方を見て、ぱっと顔を緩ませたかと思いきや、すぐに萎んでいく者もいた。
「ところで、皆さんはこれからどうするんですか?」
「宿を探そうと思っているんだ。もしいい感じの宿があれば教えていただきたいんだが……」
「でしたら、ちょうどいい宿がありますよ! 今歩いてる方向にありますので、そのまま案内しますね!」
「何から何まで申し訳ない、俺はバーンズ。こっちがイルで、後ろにいるのが大我、エルフィ、ラントだ」
「ちゃんと覚えましたよ。いつか村を離れることになるでしょうけど、その時まで皆さん、よろしくお願いしますね!」
まさしく天使のような笑顔という表現が当てはまるような裏表の無いその明るさが、皆の心に安らぎを与える。
大我達が感じていた村人の暗さが嘘のようで、底抜けに明るい娘なのか、まるで太陽のようなに思えた。
そして、談笑や村の様子の見物も重ねながら歩くこと二十分程。一行はメアリーの案内によって一軒の建物の前へと連れてこられた。
「ここです。この人数でしたら、ここがオススメですよ」
その宿は、比較的な大きめに造られてはいるが、村人の家が集う場所からは少しだけ離れており、それよりも近い距離に木々が立ち並ぶ森があるという、良く言えばすぐに自然に触れられるような立地の場所だった。
だがその居住地区からの距離もそこまで気になるようなものでもないため、これは確かにいい宿だと感心した。
その横で大我は、すっげー! 宿だよ宿! と、内心の絶叫を抑えつつも修学旅行のようなはしゃぎを見せていた。
「確かに良さそうだな。どうしてここを?」
「ふふ、私、ここで働いてますからね!」
「なるほど……よし、とりあえずここにしようか。お前らは何か意見あるか?」
「いえ、私は何も」
大我達三人は、宿のことそっちのけではしゃいでいた。
「異論は無しか。んじゃ、早速手続きを済ませるか。いくぞ皆!」
「えっ? ああちょっと! 置いてくなー!」
村の事情に詳しいであろう人と交流を作り、拠点となる宿も確保し、順調な滑り出しを見せる一行。
だが、これはまだ入り口に過ぎない。拭えない正体不明の薄暗さを晴らせないまま、大我達は一旦の休憩へと入った。
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