第22話 つらくなるだけだよ(ストーンヘンジ、エイヴベリーの巨石遺跡)

『お姉ちゃん、おはよう。

 昨日は釣りにつき合ってくれて、ありがとう。

 家に寄れなくて、ごめんね。』



 仕事の昼休み。お姉ちゃんに無料通信アプリのメッセージを送ると、すぐに返事が来た。



『千桜ちゃん、おはよう☀

 昨日は、おじいちゃんとおばあちゃんは老人会の集まり、お父さんとお母さんは二泊三日の旅行に行っていたから、家には誰もいなかったんだよ(>_<)💦

 千桜ちゃんに伝えるの忘れてた。

 希望休入れてもらったのに、ごめんね。』



『お父さんとお母さん、どこに行ってるの?』



『金沢だって。天気が悪くてあまり観光できないって愚痴のメールが来た。』



『おつかれさまです。天候に逆らっちゃだめだ。』



『うん。天候を敵にまわしちゃだめだ。

 それはそうと、昨日はダブルデート楽しかったよ( ´艸`)✨』



「ダブルデートじゃない!」

 美声とは真逆の私の声が、否応なしに自分の耳に入った。

 一緒に休憩していた蔵波さんが反応する。

「白河さん、昨日はダブルデートおつかれさま」

「違います!」

 私は、蔵波さんをありったけの“ぎょろ目”で睨みつけたが、蔵波さんは動じない。

 それどころかにやにや笑っている。

 訂正しなくちゃ。

「お姉ちゃんは神田さんとデートをしていたという認識で間違いないんですけど、私と横田さんは同志です。昨日は同志会です」

「デートじゃん」

 蔵波さんに伝わらない。



『お姉ちゃんと神田さんはデートかもしれないけど、英一くんと私は同志だからね!』



 と、お姉ちゃんに送信すると、すぐに返事が来た。



『千桜ちゃんと英一くん、とっても良い雰囲気だったよ( ´艸`)

 お互いフリーなら、つき合っちゃえばいいのに。』



 お姉ちゃんにも伝わらない。



『同志としておつき合いさせて頂いていますから、充分です!』



 気がつくと、蔵波さんにスマートフォンを見られていた。

「そんなんじゃあ、つらくなるだけだよ、

 蔵波さんはお姉ちゃんの真似をして私の名前を口にする。

 別に私は無理していない。つらいとも思わない。



 退勤後、コンビニでフルーツサンドとカフェオレを買って、アパートに帰る。

 日は落ちても、気温は下がらない。

 アパートに着くと、すぐにエアコンをつけた。

 サンドイッチとカフェオレを夕食にしながらテレビをつけると、いつもと違う番組が放送されていた。

 天体好きの芸能人が、星が綺麗な場所を訪ねる番組。単発のようだ。

 「CMの後、山の中に世界遺産が出現!?」というナレーションが入る。

 過剰なあおり文句かと思ったが、ひどいあおりではなかった。

 テレビ画面に映し出されたのは、山の中にぽっかりと現れたストーンヘンジのモニュメントだった。

 ストーンヘンジはイギリスの世界遺産だ。

 サークル状に石が立ち、その上に横たわるように石が乗っている、奇妙な遺跡。

 建造目的は不明だが、祭祀と天体観測が行われていたと考えられている。

 そんなストーンヘンジを模したモニュメントがあるのは、群馬県の高山村。

 天文台の敷地につくられたモニュメントは、実際に太陽や月の動きを観測できるそうだ。

 “同志”の彼にも教えてあげたい。ストーンヘンジのモニュメントがあると知ったら、興味をもってくれるかもしれない。

 でも、無料通信アプリを起動することは、ためらってしまった。

 あまり頻繁にメッセージを送ったら、変な気があると思われてしまうかもしれない。

 別に私は無理していない。つらいとも思わない。

 でも、テキストから「ストーンヘンジ」の項目を探してしまう。



     ◇   ◆   ◇



 「ストーンヘンジ、エイヴベリーの巨石遺跡」


 英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)

 文化遺産

 1986年登録、2008年範囲拡大


イングランドの南部、ソールズベリー平原に存在するストーンヘンジは、先史時代も築かれた大規模な環状列石である。

 ストーンヘンジの北約30kmの場所にあるエイヴベリーにも巨石遺跡が残っており、こちらは1.3kmの外周に100個の立石メンヒルが配置され、内側には中心部の祭祀場を囲むようにふたつのストーンサークルが設置されている。発掘された土器の破片により紀元前3000年頃には存在していたとされ、ストーンヘンジができるまで重要な役割を担っていたとも、エイヴベリーの石を流用してストーンヘンジがつくられたともいわれている。

 ストーンヘンジがつくられた年代は、3つの時期に分けられる。

 第1期は、紀元前2800~前2200年頃。直径100mにも及ぶ外周部ができた時期である。

 第2期は、紀元前2100~前2000年頃。ブルー・ストーンと呼ばれる青みがかった石で30個ほどのメンヒル群が形成された時期。

 第3期は、紀元前2000~前1100年頃。環状列石と、組石トリリトンと呼ばれる5つの三石塔がつくられた時期で、環状列石の円の直径は30mに達する。

 これらに使われた石は、ソールズベリー平原から遠く離れた土地で産出されたものもある。

 ストーンヘンジの建造目的は不明だが、太陽崇拝の祭祀と天文観測を行う場であったと考えられている。

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