かばんちゃんとひまわり
へき
第1話
ぽとり、と何かが落ちる音がした。
どうやら今手に取った本の中に、何かが挟まれていたようだ。ボクは床に落ちたものを拾い上げる。それは、透明なつるつるの袋に包まれていて、袋には「ひまわり」と書かれていた。中には細長くてしましまの模様の種のようなものがひとつ入っている。
「ひまわり…?」
袋の中身から見るに、なにかの植物の名前だろうか。確かに今ボクが手にしている本は、植物の図鑑だから種が挟んであっても不思議ではない。
ふいに、「ひまわり」とはどんな植物なのか、知りたいという気持ちがこみ上げてきた。ヒトとは、非常に好奇心が強く、なんでも知りたがる生き物なのだと以前博士に聞いたことがある。ボクの今の感情もそれに由来するのだろうか。
図鑑を床に置いてページをめくる。色々な花や木が、とても綺麗な絵付きで解説されている。この絵は写真というらしい。
「あ、あった」
そこには確かに「ひまわり」と書かれていた。大きな黄色い花だ。図鑑によれば、「ひまわり」は夏に咲く花の代表格らしい。ボクは、その花を見たいと思った。もちろん図鑑には写真が付いていたが、ボクは何故か無性にこの花を実際に自分の目で見たかった。
その図鑑には種の写真も載っていた。確かにこの袋の中にあるものと一致していた。
としょかんの辺りは「しき」といって、4つの季節があるらしい。博士は今は夏だからこんなにも暑いのだと言っていた。今が夏ならばきっとこの花を育てられる。そう確信したボクは早速サーバルちゃん達の元へ向かった。
「ひまわり?なにそれなにそれー!?」
ボクが種を見つけたことを話すと、案の定サーバルちゃんは興味を持った。アライさんも同様に種をじっと見つめている。
「ひまわりってー、どんな花なのかなー?」
フェネックさんも興味があるみたいだ。ボクは先程図鑑で手に入れた知識をみんなに教えてあげる。
「黄色くて、大きいお花らしいですよ。」
すると、サーバルちゃん達は目を輝かせた。
「その種を植えたら、ひまわりが見れるの!?私、見てみたいよ!!」
「アライさんも、おっきな黄色い花を見てみたいのだ!!」
「そこで、お願いなんですが…」
ボクは、みんなに頼もうと思っていたことについて話す。
「少しの間、博士たちに頼んでとしょかんに居られないかな。ボク、この花を育ててみたいんだ。」
ボク達4人は、ラッキーさんと一緒にジャパリバスで旅をしていたのだ。みんなは許してくれるだろうか。
「私はいいと思うよー」
フェネックさんが口を開いた。それに続けてあとの二人も笑って言う。
「アライさんはもちろん、かばんさんについて行くのだ!」
「いいに決まってるじゃない!私も、ひまわり、見てみたいもん!!」
「みんな…ありがとう!」
と、その時サーバルちゃんの後頭部に二つの影が衝突した。
「うわぁ!痛いよ!」
転がるサーバルちゃんをよそに、そこに降り立ったのは…
「博士!助手!ひどいよー!」
そう、としょかんの主、この島の長である博士さんたちであった。
「我々の許可なく勝手に話を進めるでないですよ。」
「我々がここへの滞在を許すとは限らないのです。」
…そうだった。ボク達はすっかり、博士たちに断られるという可能性を忘れていた。ボクが身構えていると…
「でもまぁ、許可はするのです。」
博士さんはなんとあっさり認めてくれた。いつもはサーバルちゃんやアライさんに対して「うるさいのが来た」などと嫌な顔をする博士さんが、一体どういう心変わりだろうか。
「ですが、タダで居座らせるわけにはいかないのです」
「ここに居座るなら、相応の労働をしてもらうのです。」
なるほど、そういうことか。
「えっと、何をすればいいんでしょうか」
「まず、毎日料理を作るのです。」
「けもの三人は、としょかんの掃除をするのです。」
「ちょうど良かったのです。最近掃除を出来ていなかったのですよ」
「我々は忙しいので」
「うー、でもそれでひまわりが見れるなら…!!」
「お掃除なら、アライさんにおまかせなのだ!ピッカピカにするのだ!」
「アライさんに付き合うよー」
「うん…頑張ります!」
かくして、ボク達はとしょかんでひと夏を過ごすことになったのだった。
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