Day20 📖【御法】最愛の人

 皆さんこんにちは。今日も暑い中ツアーにご参加ありがとうございます。本日のトリップ先は恐らく第2弾ツアーのクライマックスとも言えます。

 第二部の幕開け【若菜上】で源氏が新しい正室を迎え、元カノとも復縁。出家を願い出るも聞き入れられず、そうこうしているうちに源氏の元恋人の怨霊にとりつかれ病に伏してしまいます。

 紫式部センセイが描く平安女子の理想像。優しく賢く美しく。耐えて忍んで哀しんで。当第2弾ツアーでは皆さまから一番共感を呼んでいる彼女。源ちゃん最愛の奥さまの物語へ出発です。ハンカチお持ちになられましたか? 今日はハリセンは置いていきましょうね。 


 さ、『源氏物語』に参りますわよ。


 

 ✈︎✈︎✈︎

 第四十帖【御法】

 源氏 51歳 紫の上 43歳

 夕霧 30歳

 明石の御方 42歳 

 明石中宮 23歳 匂宮 5歳


【超訳】源氏物語 episode40 消えゆく紫の露     御法

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054881684388/episodes/1177354054885617940



 ―― 最後の春 ――

 紫の上は一命はとりとめたけれど病状はよくならないの。目に見えて弱々しくなっていく紫の上に源氏も心を痛めるの。源氏は紫の上に先立たれたらどうやって生きて行けばいいのかって悲嘆にくれているのよね。そんな源氏を見ていると、思い残すことはないと思っている紫の上も自分がいなくなったら源氏がどんなに悲しむんだろうって心を痛めるのよ。出家したいとう願いは源氏が許してくれず、かといって勝手な行動もとりたくないので、紫の上はせめて大好きな二条院(最初に源氏に連れてこられたお屋敷)で法要だけでも催し、法華経の経文を奉納することにするのよね。


 紫の上は法要の段取りや指示をテキパキとこなすから、この人は仏事にまで秀でていたのかと、なんて素晴らしい女性なんだろうと源氏は惚れ惚れするの。源氏は饗応(来賓のおもてなし)のことを少し手伝ったくらいで、奉納する舞や音楽のことは夕霧がお手伝いを名乗り出るの。

 宮中でも東宮(明石女御の子なので紫の上の孫)や秋好中宮や明石女御がお供え物をくださり、紫の上が大勢の人に慕われているから、個人的な法要なんだけど大がかりなものになってくるみたいね。

 奉納する経巻を見て「よっぽどの念願だったんだな」と源氏が思うの。長い時間をかけて準備していた紫の上につくづく感心するのよね。


 二条院で行われる法要には花散里や明石の御方も来てくれるの。

 時は三月で爛漫の春。お天気もうららかな暖かい日。

 紫の上は匂宮にお使いを頼んで、和歌を明石の御方に送るの。


 ~ 惜しからぬ この身ながらも 限りとて たきぎ尽きなん ことの悲しさ ~

(惜しくもない命だけれど、これであなたとお別れするのはつらいわ)


 明石の御方はもっと長生きしてほしいと返歌するの。


 ~ 薪こる 思ひは今日を 初めにして この世に願ふ のりぞはるけき ~

(今日の法要で奉納される御法みのり(経典)と同じようにあなたさまのことも千年祈り続けられるでしょう)


 朝焼けの霞のあいだからいろいろな花の色が見えて、紫の上の心を春に引き留めようと花も鳥も絢爛の美を競うようなんですって。

 そんな中で「陵王りょうおう」の舞も衣装も風情もただただ美しかったの。


 法要が終わって帰ろうとする花散里にもこの世のお別れをしておこうと紫の上は歌を送るのね。


 ~ 絶えぬべき 御法みのりながらぞ 頼まるる 世々にと結ぶ 中の契りを ~

(これが最後だと思いますが、来世でもあなたとのご縁がまたありますように)


 ~ 結びおく 契りは絶えじ おほかたの 残り少なき 御法みのりなりとも ~

(この世の時間は私こそ短いかもしれませんがあなたとのご縁はいつまでも絶えませんよ)


 花散里にも来世でまた逢いましょうと歌を送り、花散里もお互い長くはないけれどご縁はいつまでも絶えないわと歌を詠んだの。



 ―― 最後の夏 ――

 夏の暑さが紫の上を苦しめて、どんどん衰弱していって気を失うこともあるの。中宮になった明石の女御が二条院に里下がりしてきて紫の上を見舞うの。明石の御方も一緒みたいね。中宮の子供たち(紫の上にとっては孫)の大きくなる姿が見たかったわといって紫の上が泣くんだけど、そのお顔もとても美しいの。それとなく自分の死んだあとのことを言い残す紫の上に明石中宮は涙を流すのよね。

 紫の上は可愛がっている匂宮におうのみや(中宮の三男)とも話をするの。


「わたしがいなくなったらおばあちゃまを思い出してくださる?」

「おばあちゃまのことがいちばんだいすきなんだよ。いなくなったらかなしくなっちゃうよ」


 紫の上は匂宮に大人になったら二条院に住んで庭の紅梅と桜の季節は眺めて、時々は仏様にもお供えをしてね、と言い残すの。匂宮は泣き顔を見られまいとその場を立ち去ってしまうの。紫の上は手元で育てた女一の宮と匂宮の成長を見届けられないことをとても悲しく思ったのよね。


 ―― 最後の秋 ――

 夏が過ぎると今度は朝夕の冷えが紫の上にはつらくなってくるの。明石中宮はまだ二条院にいるんだけど、紫の上は弱り切っていて中宮のところまでも会いに行けないの。(中宮は身分が高いから本当は紫の上が中宮の所に参上しなければならないの)御所からは早く戻ってくるように催促されているんだけれど、紫の上が心配な中宮は御所には戻らずに自分から紫の上の部屋までお見舞いに行くの。


 明石中宮が見る紫の上は痩せてしまってはいるけれど、やっぱり上品で優美なのね。よく美しさを花に喩えるんだけど、紫の上の美しさと同じくらいのものが地上にないほどなんですって。

 起き上がって中宮と話をしている紫の上を見た源氏はそれだけで喜んで涙を流すの。ほんの少し気分がいいだけでこれだけ喜んでくれる源氏が自分が死んだらどんなに悲しむのかと思うと紫の上は切なくなってくるの。


 ~ おくと見る ほどぞはかなき ともすれば 風に乱るる 萩の上露 ~

(少し起き上がれたけれど何かの拍子で風に吹き飛ばされそうな萩の上の露みたいなわたしだわ)


 ~ ややもせば 消えを争ふ 露の世に おくれ先きだつ 程へずもがな ~

(人の命なんて消えていく露みたいなもんだよね。俺も遅れたり先だったりしないでキミと一緒に消えたいよ)


 そんな歌を返しながら源氏は涙を隠そうともしないの。


 ~ 秋風に しばし留まらぬ 露の世を たれか草葉の 上とのみ見ん ~

(秋風に吹かれて散ってしまう露のことを他人事のように見ていられませんわ)


 紫の上と源氏の哀しい歌のやりとりを聞いて明石中宮も歌を詠まれるの。


「どうやったら千年一緒にいられるんだろうな……」

 叶えられない望みだってわかっているけれど、源氏は悲しみにくれているの。


 すると急に紫の上は具合が悪くなり明石中宮が手を取るの。容体が急変したので僧侶たちが呼び寄せられるの。前にも一度呼吸が止まったときに息を吹き返しているので一晩中祈祷が行われるんだけど、紫の上は明石中宮に看取られてそのまま息を引き取ってしまったの。


 ―― 呆然自失 ――

 皆が悲しみにくれる中、夕霧も駆けつけるの。紫の上に付き添っている源氏は出家の願いを叶えてやれなかったと悔やんでいるの。

 今からでも紫の上の髪を切って尼にしてやりたいって源氏は言うんだけど、髪を切った紫の上の姿に源氏の悲しみが増えるだけだからしなくてもいいんじゃないかと夕霧は引き留めるのね。

 いつかの台風のときに偶然見た紫の上にずっと憧れていた夕霧は最後にもう一度顔を見たいと几帳をめくって紫の上のそばに来るの。以前よりも美しい紫の上の死に顔に源氏も夕霧も涙を流したの。源氏も夕霧が紫の上の顔を見てももう咎めないのね。


「生きているときとこんなにも変わらないのに……」


 見れば見るほど欠点のない美貌で、夕霧は自分の心が紫の上のご遺体にとどまっちゃうんじゃないかと思ってしまうほどなんですって。


 源氏はなんとか葬儀の手配をしたんだけど、本葬のときはひとりで歩けないほどに焦燥しきっているの。まるで空の上を歩いているような気持ちなんですって。身体を支えてもらいながら葬送に参列する源氏の姿に人々は涙を流すの。

 夕霧の母親の葵の上を送ったときは月の形まで覚えているんだけど、今日は目を開けていても暗闇にいるような気持ちの源氏みたいなの。


 夕霧は葬儀後も二条院で源氏に付き添いながら、紫の上のことを偲んでいるの。あの台風の日に見かけたことや最後の姿を見たことを思い返しているの。


 ~ いにしへの 秋の夕べの 恋しきに 今はと見えし 明けれの夢 ~

(昔お見かけした秋の夕暮れを恋しがっているのに、ご臨終のお顔を見てしまったなんて夢のようです)


 源氏は明けても暮れても涙がちに過ごすの。もうこの世に未練はないけれど、これほど心を乱していては出家しても勤行もできないと思っているの。


 前太政大臣(元頭中将)からもお見舞いの手紙が届くの。秋好中宮からも手紙が送られてきてみんな源氏のことを心配しているのよね。

 千年も一緒に過ごしたいと願った最愛の紫の上。何をしてもどこにいても紫の上を失った悲しみや寂しさは薄れることはなくて、ただただ月日だけが過ぎ去っていくの。

 紫の上の法事などは源氏のかわりに夕霧が仕切るの。明石の中宮も紫の上のことを忘れる時がないほどに恋い慕っているみたいね。

 




 ~ いにしへの 秋の夕べの 恋しきに 今はと見えし 明けれの夢 ~

 夕霧が紫の上を想って詠んだ歌


 第四十帖 御法


 ✈︎✈︎✈︎


 とうとう物語最大のヒロインが亡くなってしまいました。彼女どんな気持ちで瞼を閉じたのでしょう。その部分の描写がないのです。何を想って旅立ったのでしょう。


「あなたを置いていってしまい、ごめんなさいね」

 きっと最後の最後まで源氏のことを思っているはず。


「あなたと過ごせて幸せだったわ」

 これはどうかな。ラブストーリー的にはそう思っていてほしいですけれど、傷つけられもし、裏切られもして、それもひっくるめて「幸せ」と言えるかどうかですよね。でも彼女なら言えるのかもしれません。


「これで自由になれるわ」

 これはどうでしょうか。紫の上の死は源氏の呪縛からの解放でもあるけれど、これじゃあんまりかしら。


 皆さまはどう思われますか?

 皆さまなら紫の上にどう思っていてほしいですか?


 幼い頃から一緒に過ごして愛した最愛の妻。たくさんの浮名を流した源氏ですが、正室かそうでないかという社会的な地位はさておき、源氏にとっての最愛最高の妻は紫の上だと思います。その紫の上を失った悲しみ、苦しみが源氏を襲います。

 

 次回は紫の上を偲ぶエッセイです。一緒に紫の上を想って偲んでください。明日の持ち物もハリセンではなくてハンカチです。あ、でもハリセンも要るかもしれません。場合によっては。皆さまにおまかせしますね。



 明日も『源氏物語』に行こう! ねっ!


『第2弾源氏物語ツアー』Day20に来てくださり、どうもありがとうございます。


 ✨明日の予定

 Day21 永遠の紫

 集合時間:薄暮の時間

 集合場所:薄紫の雲のたなびく空


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