Day12 📖【柏木】破滅

 今日も源ちゃんツアーへお越しいただきありがとうございます。ご案内する第二部の内容がシリアスですが、皆さまお楽しみいただけていますか?


 本日のご案内は柏木トリップです。源氏の正室女三宮と密通して妊娠させてしまい、その不貞の事実を源氏に知られてしまった柏木のその後の物語です。

 タイトルからご推察のとおり気が滅入る内容なのですけれど、出かけましょうね。え? 昨日の予告の行き先が不気味でした? 柏木くんを覗き見に行くのであそこなのです。だいじょぶ、みんなで行けば怖くないよ。


 さっ! 『源氏物語』に行こっ!



 ✈︎✈︎✈︎

 第三十六帖【柏木】

 源氏 48歳 紫の上 40歳

 女三宮 22歳 薫 1歳

 夕霧 27歳 柏木 32歳


【超訳】源氏物語 episode36 想いを遺し恋に死す     柏木

 https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054881684388/episodes/1177354054885617743


 ―― 柏木の最後の歌 ――

 柏木の病状は好転せずに年が明けたの。「女三宮を愛してしまったこと」と「源氏に密通が知られてしまったこと」、生きて行くのがツラいほどの苦しい想いをふたつも抱えることになったのはすべて自分のせいだって柏木は思うの。この先、生きながらえて自分も女三宮も苦しむよりは、自分が死ねば源氏の怒りや憎しみがとけるかもしれないとまで考えるの。

 柏木は残りの力を振り絞って女三宮に最後の手紙を書くの。


 ~ 今はとて 燃えん煙も 結ぼほれ 絶えぬ思ひの なほや残らん ~

(あなたへの想いが残っているから、僕を荼毘にふす煙も空には上らないでくすぶるんだろうな)


 源氏から蔑まれる原因になったのは誰のせいなの、と女三宮は憤るんだけど小侍従がこの返事だけはしてあげてと泣くので返歌を書いたの。その手紙を持って小侍従が柏木を訪ねるの。


 柏木のお父さんの前太政大臣にしてみれば、柏木に何があってこんなに弱っているのか知らないから戸惑うばかりなのよね。

 哀しい恋を嘆く柏木に小侍従は持ってきた女三宮の手紙を渡すの。 


 ~ 立ち添ひて 消えやしなまし うきことを 思ひ乱るる 煙くらべに ~

(わたしだって煙になって消えちゃいたいわ。思い悩む辛さの争いなら負けてないもの)


 これがこの世の最後の想い出なんだね、と柏木は泣き崩れるの。


 ~ 行くへなき 空の煙と なりぬとも 思ふあたりを 立ちは離れじ ~

(行先のない空の煙になったとしても僕はあなたのそばを離れはしない)


 空を眺めて、僕のことを忘れないで、もう一度柏木は女三宮に歌を贈ったの。


 ―― 運命の子 ――

 その夜、女三宮が産気づくの。源氏もあわてて六条院に駆けつけるの。普通の出産ならどんなにか喜ばしいことなのに、と源氏は思うの。女三宮は一晩中苦しんで明け方に男の子を出産。源氏は人前に出る男子だったのはマズイなって思うんだけれど、世話がかからないから男子でよかったのかもなとも思いなおすの。この子が後に薫と呼ばれるのね。身分の高い内親王さまが母親で准太上天皇の源氏が父親の初めての子でとてもおめでたいって世間は盛り上がるんだけれど、源氏はフクザツな心境よね。


 もともと丈夫でない女三宮は出産の疲れと源氏からの精神的プレッシャーの上に柏木の危篤の知らせを聞いて、食事も摂らないで自分も死んでしまいたいって考えちゃうのよ。

 源氏は表面上は変に思われないように振舞うんだけど、薫の顔を見ようとしないの。女三宮はこの先自分だけでなく薫まで源氏に疎まれることを心配して出家を決意するの。

 源氏も柏木とのことを許せないし、産後の体調不良を理由に出家させるのはいいかもしれないと思うんだけど、やっぱりまだ若いから惜しいと女三宮を引き留めるの。蒼ざめた顔色で弱っている姿は頼りなく美しくて、どんな罪を犯したとしても許してしまいそうだなんて源氏は思うんですって。


 ―― 女三宮の出家と物の怪 ――

「お会いできないまま死んでしまうかもしれません」

 すっかり弱り切った女三宮がそんなことを言っていると、お父さんの朱雀院は源氏経由で聞くの。そこで心配した朱雀院はお忍びで六条院にいらっしゃるの。来訪の手紙もなく突然のことに源氏も驚くのね。


 対面を果たした女三宮は泣きながら尼になりたいと朱雀院にお願いするの。

 最高の夫だと信じて源氏に託したこの結婚は娘にとってそんなにツラいことだったのかと朱雀院は女三宮を出家させることにするの。今のタイミングなら産後の病状を出家の理由にできるから源氏との夫婦仲が悪くて出家したなんてことも思われずに済む、今後は妻としてでなくても源氏が女三宮の面倒を見てくれるだろうと朱雀院は考えたみたい。


 そうと決まってしまうと源氏は出家を考え直すように女三宮を説得するんだけれど、聞き入れてはもらえず、その日のうちに女三宮は朱雀院によって髪を下ろしたの。

 するとその夜六条御息所の物の怪が現れて、紫の上の命を取り損ねたからこっちに憑りついていたなんて言うのよ。源氏はゾッとするんだけど、女三宮の出家はもう取り返しのつかないことよね。


 ―― 柏木の絶望 ――

 女三宮が出家したって聞いた柏木は絶望してますます衰えていくの。それから遺していく妻の女二宮の心配をして、周りの人たちに女二宮さまを頼むとお願いし始めるの。

 帝も柏木を心配して、権大納言に昇進させるの。それを励みに元気になってほしかったみたいね。けれどももう宮中に上がる出勤することもできなさそう。

 夕霧は昇進のお祝いとお見舞いに柏木を訪ねるの。どうしても会いたい柏木は病室に夕霧を招くの。少年時代から仲良くしてきた親友同士だったから夕霧の悲しみも親兄弟とかわらないくらいなの。

 柏木は源氏の怒りを買ってしまって心乱れて病気になってしまったと夕霧に打ち明けるの。今も許してもらえていないからいいタイミングで源氏にとりなしてほしいと夕霧に頼むのね。「柏木が源氏の怒りを買うこと」で夕霧は心当たりがあったけれど確証は持てないのよね。(はっきりとは聞いてないから)


「キミのカンチガイじゃないの? 父さんはキミの病気を心配しているよ?」

「それにだったらなんでもっと早く言ってくれなかったんだよ」

 夕霧はそう言うの。

「そうだね。だけど僕だってこんなに短い命だなんて思わなかったんだよ」

 それから女二宮のことも気にかけてやってほしいって柏木は夕霧に言い残すの。


 まだ話したいことがあったみたいだけれど柏木は急に苦しみだしてしまい夕霧に帰るよう言うの。祈祷する僧侶や両親も駆けつけてきたので、夕霧は泣く泣く柏木の病室を離れたの。

 そうして柏木は泡が消えるように亡くなってしまうの。妻の女二宮はそんなに愛されはしなかったけれども悲しみに暮れるの。

 女三宮も柏木のせいで苦しめられたんだけれど、亡くなったことを聞くとさすがに胸を痛めたの。


 ―― 源氏のイヤミ ――

 3月になり、薫はすくすくと育っているの。色が白く美しく、声を出して笑ったりして可愛らしいの。源氏は女三宮が出家したあとは毎日のように顔を出すの。


 女三宮は尼らしく鈍色の濃淡を重ねた衣装で、髪も普通の尼さまよりは少し長めにしてあってとても美しいんですって。

「キミが尼になっちゃうなんてね」

「それもホントの理由は俺をイヤになっちゃったからなんてね。もう愛してはくれないの?」

 源氏がそう言うの。

「もともと愛など持ち合わせていませんわ」

 女三宮の返事は冷めているわね。

「へぇ? 愛なら知ってるときもあったんじゃないの?」

 源氏はちらりとイヤミを言うの。


 薫を抱き上げて顔を見るんだけど、夕霧の赤ちゃんの頃には似ていないの。でも明石女御の産んだ親王さまたちより気品があって美しいの。目元なんかはやっぱり柏木に似ているんですって。源氏は白楽天の漢詩を口ずさむの。


慎勿頑愚似汝爺つつしみてぐわんぐなんぢのちちににるなかれ

 実の父に似るんじゃないよ、と願ったみたいね。

 


「こんな可愛い子を残してよく出家なんかできたね」

 源氏はそんな風に女三宮にイヤミを言うの。

 ~ だが世にか 種は蒔きしと 人問はば いかが岩根の 松は答へん ~

(誰が父親かって聞かれたら誰って答えたらいいんだろうね?)


 そんな歌まで源氏は詠うけれど、女三宮は返事もできないでうち臥しちゃうの。

(あんま深く考えない子だからなぁ。でも何も感じないってワケでもないんだな)

 源氏はこう思っていたみたいね。


 ―― 柏木を思う夕霧 ――

 夕霧は柏木が亡くなる直前に言っていたことをずっと考えているの。女三宮が出家したのは産後の病が理由だって聞いているけれど、紫の上が危篤のときですら許さなかった出家をどうして源氏は許したんだろう。やっぱり柏木と女三宮のあいだによくないことがあったんじゃないのかって。

 前から柏木が女三宮のことを好きだったことは夕霧も知っているし、柏木は普段は冷静だけど思い詰めたら感情にもろいところがあったしなと思い返すの。

 けれども、どんなに好きでも許されない恋は相手にも気の毒だし、ましてや自分の命を落としてしまったんだからやっぱりいけないことだったんだよ、と夕霧は思うのね。柏木に頼まれたことも源氏に伝えることができていないから、チャンスがあれば話をしないとって思っているの。


 ―― 夕霧と女二宮 ――

 柏木に死なれた妻の女二宮は死に目にも会えず今は寂しく暮らしているの。柏木が使っていた道具や大事にしていた和琴や琵琶は見るのも辛かったんですって。

 そんな女二宮のところに夕霧はお見舞いに行くの。

 女房だけで応対するのは失礼だということで女二宮の母親の一条御息所が対応されたの。

 柏木が最期まで女二宮さまのことを気にかけていたと夕霧は話しながら思わず涙を流すの。一条御息所も気の進まない結婚でしかも夫に先立たれてしまったけれど、最期は娘のことを気にかけてくれていたみたいで少しホッとしました、と答えたの。


 そのあと夕霧は柏木の実家で前大臣に会って、女二宮を見舞ったことを報告するの。前大臣は今も悲しみにくれているの。夕霧のお母さんで大臣の妹でもある葵の上が亡くなった秋も悲しかったけれど、今回はそれ以上だって、ただただ辛くて息子のことが恋しいって落ち込んでいるのよね。


 4月になってまた夕霧は女二宮のところを訪ねるの。

「これからは僕を柏木の代わりだと思って下さい」

 そんな風に夕霧は女二宮に挨拶するの。まだ恋の告白というわけではないんだけれど、好意を期待するような言い方だったみたいよ。


 帝も演奏会をするたびに柏木のことを思い出すの。他のみんなも何かにつけて柏木のことを話すの。源氏も月日が経つにつれて憐れむようになってきているの。

 源氏だけが薫のことを柏木の忘れ形見と思って見ているんだけど、誰にも話せないわよね。秋ごろからは薫がはいはいをし始めて、源氏は心から愛おしく大事に想うようになったんですって。




 ~ 立ち添ひて 消えやしなまし うきことを 思ひ乱るる 煙くらべに ~

 女三宮が柏木に返した最後の歌


 ~ 行くへなき 空の煙と なりぬとも 思ふあたりを 立ちは離れじ ~

 柏木が女三宮に贈った最後の歌


 第三十六帖 柏木



 ✈︎✈︎✈︎

 今日のトリップはここまでにしますね。とうとう柏木が亡くなってしまいました。熱烈なまでに女三宮に恋をしましたが、結局は女三宮が尼になり自分も死んでしまうという破滅的な恋でした。

 柏木はね、罪を犯したのでその罪に苦しむというのもまあしかたないのかなとは思うんです。可哀想なのは女三宮です。そのあたりを明日のエッセイ回のトリップにしようと思います。

 毎日トリップ内容が重苦しくて申し訳ありません。内容が内容なだけになかなか「明るく楽しく」できません。源ちゃんが主役でないからでしょうか?

 願わくば参加くださる皆さまとのトークで「明るく楽しく」ツアーが行えたらと思っています。



 明日も『源氏物語』に一緒に行ってくださいね。お願いっ!


『第2弾源氏物語ツアー』Day12に来てくださり、どうもありがとうございます。


 ✨明日の予定

 Day13 彼女の苦しみと哀しみ

 集合時間:女三宮が出家してしまったあと

 集合場所:六条院源ちゃん家


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