Day22 🔖想ふ、焦がれる、恋ふる、愛する

 皆さま、今日も『源氏ツアー』にようこそ。ご参加ありがとうございます。

 毎日のように皆さまからいただくトリップのご感想にクスリと笑ったり、「やっぱりそう思うでしょう?」と膝をたたいたり、または「ナルホド、そういう考え方もあるのね」「深いわぁ」と唸ることも。十人十色の感じ方はとても勉強になります。ありがとうございます。

 最近は作者の呆れボヤキ全開の当ツアーですが、今日はしんみりエッセイをご紹介しますね。


 第十九帖 薄雲(【超訳】源氏物語episode19 永遠の人)後半へ寄せるエッセイです。源氏の永遠の憧れの人、藤壺の宮さまが亡くなります。お互いを想い合っていましたが、最期まで真実の想いを言葉にすることはできませんでした。

 そしてふたりの子、冷泉帝が実の父親が源氏だという真実を知ってしまいます。けれども、「真実を知ってしまった」ことを冷泉帝は源氏に明かすことはできません。源氏も冷泉帝の様子がおかしいので「よもや……?」と心配しますが、こちらも面と向かって確かめることはできません。お互い「父と子」と認識しながらも表面上は「帝と臣下」という立場を守り続けます。


 今日は源氏と藤壺の宮と冷泉帝の物語へのトリップです。


 さあ、『源氏物語』へどうぞ



 ✈︎✈︎✈︎

【別冊】源氏物語 topics11 紫は悲恋の色?



 とうとう永遠の恋人藤壺の宮さまが亡くなられました。

 彼女、どんな人生だったとご自分では思っていらっしゃるかしら。望まれて入内したもののそれは帝の愛する人(桐壺の更衣=源氏のお母さん)に似ているからという理由。その息子の源氏から命がけで愛され、自身も源氏を愛していたけれど、決して自分の気持ちは明かせなかった。それでもひととき結ばれて愛する人の子どもを産んだ。けれどもそれは罪を犯した罰を受けることでもあった。今では考えられないくらい自由に恋愛をしていた当時でも源氏との恋は秘めた恋、禁じられた恋でした。

 源氏も表立っては父院のお妃である宮さまとの関係を保たなければなりません。臨終の際にもお互い本心を伝えあうことは叶いませんでした。

 桜の花咲く春に宮さまは亡くなります。今年の桜だけは墨染(喪服の色)で咲いてくれと源氏は嘆きます。宮さまを送った野辺の送りの夕暮れの薄雲はにび色でした。




 源氏のお母さんの桐壺の更衣の「桐」の花をご存知ですか? 薄い紫色です。桐壺帝との恋で幸せもツラさも味わいました。


 源氏と罪に堕ちた藤壺の宮さまの「藤」も紫色です。白など他の色もありますが、「藤色」とは淡い紫色です。源氏との恋はこれこそ悲恋ですね。想い合っているのに罪の関係だった。


 そして彼女に似ているからと手元に置いて愛した女性を源氏は「紫の上」と呼ぶようになります。藤壺の宮にのある人だからと。紫の上は藤壺の宮の姪にあたります。

 紫の上の恋は成就はしているけれど、恋のつらさも絶えず味わいます。そもそも源氏が自分に興味を持ったきっかけが憧れの人(藤壺の宮)に似ていたからということを彼女は知っていたのでしょうか。

 源氏からも周囲からも「源氏に一番愛されている人」と認められながらも心は傷つくことばかりでした。


 3人に共通するのは「紫」です。「ゆかり」とも読みますね。



 源氏物語を十九帖まで進めてきて思うことは、みなどこかに闇を抱えたり、泣いているんじゃないかということです。

 華やかな恋愛絵巻なんていうけれど、愛し愛され幸せいっぱいのハッピーカップルなんて見当たらないのです。


 その中でも恋の哀しさを味わった上記の三人の女君がた。

 お三人に共通する「紫」の色はこの物語では「悲恋」の象徴なのかしら? とも思ったりもします。



 そしてこの十九帖ではとうとう冷泉帝が自分の出生の秘密を知ります。

 本当の父親は源氏だった。頼りになる敬愛する兄ではなかった。

 この時冷泉帝は14歳。すでに成人の儀(元服)も終え、帝位に就き、結婚もしていて、現在の中学生とは比べようもありませんが、それでも十代の少年には衝撃の事実だったでしょうね。

 そしてなにより源氏は親王から臣下に降りている身分。その源氏を父に持つ自分が帝位についているのは異常事態だと動揺します。

 冷泉帝が帝位についているのは(表向きの)父親が桐壺院だからです。源氏も桐壺院の子どもで親王でしたが、桐壺院が源氏の将来を想って臣下に下ろしているので、(本当の)血筋から考えると自分は帝位についてはいけない身分だと気づいてしまいます。


「ついてはいけない自分が帝位についているから、天変地異や大切な人が次々と亡くなってしまうんだ」

 冷泉帝は思い悩みます。

 血筋で言えば桐壺院の子どもである源氏の方が帝位にふさわしい。今からでも帝位を源氏に譲ろうと話をしますが、源氏は固辞します。


 冷泉帝のうろたえように源氏ももしかしてバレた? と焦りますが冷泉帝本人に確かめるわけにもいかず、藤壺の宮さまサイドは秘密を守っているというので、それ以上追及することはしませんでした。


 

 (恐らく)源氏のことを想いながら天に昇った藤壺の宮さま。

 永遠の人を想いながら、息子の臣下に徹する源氏。

 真実の父母のことを想う冷泉帝。



 人が人を想い焦がれることに罪ってあるんだろうか。


 周囲に知られれば政変を起こしかねない恋だったけれど、

 その罪も罰も背負うとそれぞれが誓い

 ひとことの想いも交わさずに

 それでも想い合った。


 どんなに罪だとわかっていても。

 どんな罰が待ち受けていようとも。

 それでも遂げたい想いというのもあるのかな、とは思ったりもします。


 人が後付けではめ込んだ制度や周囲の思惑の外にも人を恋ふる純粋な感情はあって……。



 確かに罪を推奨しても賞賛してもいけないのだけれど、


 哀しくせつないひとつの恋のお話でした。




 が物語だったなら感涙の純愛悲恋ストーリー……



 だったのですけれどね……。


 ねぇ、源氏くん。




 ✈︎✈︎✈︎

 お疲れ様でした。アンビリバボーな養子縁組エピソードの次は胸締め付けられるしんみりエピソードでした。源氏物語は一見華やかな恋愛絵巻に見えるかもしれませんが、どの恋にも戸惑いや哀しみがあります。当時の女性の哀しみが透けて見えるようです。これが千年ものあいだ読者を惹きつけてやまない源氏物語の魅力なのかもしれません。


 今日もDay22『源氏物語』ツアーにご参加くださりありがとうございます。


 明日は新しい恋物語をご紹介します。源氏物語初の「胸キュンラブストーリー」です。ちなみに主人公は源氏くんではありません。


 明日はキュンキュンしながら『源氏物語』に行こうね!


 ✨明日の予定

 Day23 【乙女】ハツコイ

 集合時間、集合場所:甘酸っぱい時間、胸がキュンとする場所

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