第11話 ロレンvs翔太

 魔法の稽古の約束をした翔太とロレンは、その次の日、朝早く学校に行き第一闘技場に向かった。


「闘技場はまだ他にもあるが、それらも壊されたらたまったもんじゃねえ。だから、まだ修復されてない第一闘技場で思う存分戦えばいい。その方がお前も気が楽だろ? 翔太」


「う、うん。そうだね」


 そういう問題だろうか、何もない更地で戦えばいいではないか、という考えが浮かんだが、翔太はそれをグッと押さえ込んだ。ロレンの判断の一貫性は清々しいもので、それに身を任せれば何とかなると感じていたためだ。

 闘技場に着くと、お互いその中央で向かい合う。


「いいか? 手加減は無しだぜ? 本気で来なきゃ正確な力が分からないからな」


「あぁ、分かったよロレン」


 ロレンはのびのびとストレッチをして戦いに備えている。


「あ、そうだ。俺は翔太の能力知ってるのに、翔太は俺のこと知らないってのはフェアじゃねぇな。……俺の能力は……」



◎ロレン・ジークルス

 能力:擬態

 特質した型:P2



「……だ。分かったな? じゃあチャッチャと……始めっか! スタート!」


「えっ!? あっ、もう!?」


 翔太が心の準備を始める前に、ロレンは攻撃を開始した。地を強く蹴り、ロレンは翔太との間合いを一気に詰める。翔太は突然のことで、腕で顔を防ぐことしかできない。


「ボディーががら空きだ。SPLASH POWER!!」


 ロレンの腕が水に変わり、渦を巻きながら翔太の腹に直撃する。その強烈な水圧に吹き飛ばされた翔太は、壁の瓦礫の山に背中を打ち付けた。


「おいおい、モロに食らったな。反射率も変えた様子がねぇ。……マジの初心者かよ……?」


「はっ!……ハァ、ハァ!!」


 腹の激痛に耐えられず、翔太は息をすることもままならない。彼自身、もう今日は寮に帰りたいと思い始めた。


「翔太、こいよ。お前の番だ」


 戦意喪失しかける翔太に構わず、ロレンはまだ勝負を楽しもうとしていた。

 翔太は意識をどうにか保たせながら立ち上がり、今までやってきた通りに自分の魔法をイメージする。別に勝てなくてもいい、ロレンにはまず、一泡吹かせたい。今の翔太はそんな思いに突き動かされていた。

 身構えるロレンの真正面に翔太は走り出す。右手の拳を握りしめ、ロレンの体を外さないように狙いを定める。


「正面突破か……いいね」


 翔太の拳が青い光を纏いながら、ロレンの身の前に繰り出される。


 キュイイイィィン!!


 時間差で青い波紋が現れた。今の翔太は、ミアの説明があったからか、周りのマナを集めている感覚、力が一点に集中する感覚を味わえていた。

 大きな衝撃音とともにその力は解き放たれる。だが、


「まぁ、回避するわな。前振りが長けりゃ……」


 翔太が攻撃したのは、全身を水に変えたロレン。辺りには水しぶきだけが飛び散り、ロレンの身体は真っ二つに割れたが、翔太の攻撃に何の痛みも感じていなかった。


「小手調べはこれで終わりみてぇだ、翔太」


 ロレンは勝負を決める攻撃態勢に入った。


「……それはどうかな」


「なに……?」


 翔太は水に成り変わったロレンに、左の拳の第二撃を加える。青い波紋が現れると、たちまちロレンは水の体のまま、マナの圧縮に巻き込まれていく。


「なっ!? やめっ……!」


 凝縮された液状のロレンは次の瞬間、闘技場の、まだ辛うじてそびえ立っていた壁に放たれ、激突した。

 崩壊する壁とともに、ロレンは滴となって地に落ちていく。体を原形に戻すのにもマナを消費してしまうロレンは、元に戻った頃には息を切らしていた。


「はっ! ハァ、やってくれるじゃねえか、翔太ァ!……ハァ!」


「……ロレンこそ」


 翔太は、自分がマナを圧縮する能力を持つのなら、それは自分だけのマナじゃなくてもいいのではないか、そして、水に変わったロレンの身体は、少なからずマナでできているのではないか、そんな推測でこの二段の攻撃を放った。一種の賭けである。

 二人は薄く笑い合い、お互いが、この勝負がまだ面白くなるだろうことを予感する。


「ちょっと! あんたたち! 何やってんの!?」


 突然、聞き慣れない甲高い声が校舎の方から聞こえた。


「み、ミア!?」


 その声の正体はミア。彼女を見つけると、翔太はのんきに挨拶をし、反対にロレンは嫌そうに顔を歪めた。


「おい、翔太。奴はチクリ魔だ。逃げるぞ」


「えっ? えっ?」


 ロレンは翔太の手を強引に引っ張った。

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