目録番号010 美しき皇帝の肖像 〜蛇足〜

 本当にこの肖像のように美しい皇帝がいるのか。その問いを発するのは、あなた方が初めてではない。

 地平の彼方の大河を探し出し、渡れば、答えはそこにある。その目で確かめる覚悟がないならば、

 美しき皇帝の肖像にまつわる話を一つ聞かせてさしあげよう。


 ――恐れろ、恐れろ、美しき皇帝を!

 ――――恐れろ、恐れろ、神をも虜にした皇帝を!


 結局のところ、この肖像は皇帝の美しさを、髪の毛一本分も表していない。

 神をも虜にする美しさは、どんな言葉をつくしても、絵筆を使っても、ノミで岩を削っても、表すことはできない。そういうものだ。

 美しき皇帝の前では、どんな詩人も芸術家も無力だ。これまで無力さに打ちのめされた彼らの多くが、絶望に気が触れ悲惨な最期をとげている。ここにある肖像の製作者もまたそうだった。


 ――讃えよ、讃えよ!

 ――――讃えよ、讃えよ!


 だが、地平の彼方の大河の向こうにある彼の国は、常春の地上の楽園には違いない。まだそこにあればの話だが。


 もし、美しき皇帝をひと目見ようという好奇心に駆り立てられるままに、ヘ赴こうと言うならば、止めはせぬ。


 止める理由もない。




 だが、覚えておけ。


 彼岸の美しき皇帝には、気をつけよ。

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驚異の部屋 収蔵品目録 笛吹ヒサコ @rosemary_h

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