神の使いにされました。
八咫丸
プロローグ
1 神様との出会い
「ひとまず辺りの魔物は片付いたかな」
「それなら少し休憩しようよ」
(誰なんだ…というか誰だこの人達は?)
「ハイアット、もう既に魔物の第二波が迫ってきてるから…休憩は無理だ」
(この視点……俺が知らない人に話しかけている?)
自分でも何を言っているのかよくわからない。でもそうなのだ。知らない人に話しかけているのをその人の目線で聞いている。
「あはは…そうみたいね」
現状わかったのはハイアットと呼んでいる緑髪の女性を全く知らないが、彼女は俺を見て返答しているから知り合いだ。
「そういえばアルドさん率いる騎士団はいつ到着するんだっけ?」
今度は剣についた血を振り払う動作をしながら赤髪の青年が話しかけてきた。
「予定ではもうすぐのはずだったが、壊滅した可能性が高い。第二波の方角が援軍としてくる方角だ」
「……了解」
目を伏せて赤髪の青年は唇を噛み締めていた。
「グレン、切り替えろ。この第二波を殲滅してさっさとこの厄災を終わらせるとしよう。準備はいいな?」
「あぁ、もちろんだよ」
「えぇ、援護は任せて」
そのやり取りを見ていた瞬間。目の前に霧が広がり始めた。声は遠くなり視界がぼやけていく。
________________________________
やっぱり夢か。
目を覚ましてすぐに確信した。
それにしても不思議でリアルな夢だった。見知らぬ人と共に魔物を倒す夢なんて荒唐無稽過ぎるけどね。
だがそんな夢に対する関心はすぐに消え失せることになった。
(……なんだここ!?)
それは身に覚えのない空間にいたからだ。完全に真っ白な空間にいて、上下左右奥行きがないのだ。踏んでいると言う感覚もなければ浮いていると言う感覚もない。そんな現実とは思えない空間にいたのだから夢のことがどうでもよくなるのは無理もなかった。
(まだ夢の中なのか俺は?)
「おや、気づいたみたいだね飛鳥くん」
そんな内心慌てふためいている中、後ろから突然声をかけられた。慌てて振り返るとそこには金髪の少年が逆さに立っていた。
「こ、子供?」
金髪の少年は俺のまるで反応を楽しんでいるかのように微笑を浮かべた。
「やぁ。さて、ひとまずは話しやすいように空間を整えよう」
そう言った少年は指をパチンと鳴らしたかと思うと瞬く間に白い空間に椅子と机が現れた。
「こんなものかな。ほらかけて」
いつのまにか逆さに立っていた少年は椅子に座りに座りながら椅子に座るように促してきた。
(な、なにがどうなって)
内心落ち着かなかったが言われた通りに座った。
「さて、まずは自己紹介だ。僕の名はシルヴァス、君達の言葉で言うなら神と呼ばれる存在だ」
そう言われて妙に納得する自分がいた。目の前の子供が普通の子供ではないことは確かだ。というより子供の皮を被った何か別次元の存在、そう感じてしまっていたからだ。だからこそ目の前の少年が神と言ったことが嘘ではないと確信していた。
「ふふ、ほら深呼吸してしてみて?」
言われた通り深呼吸をすると、多少気持ちを落ち着かせることができた。
「うんうん、落ち着いたみたいだね。それじゃあ早速飛鳥くんの状況を簡単に説明しよう」
「あ、はい。お願いします」
俺の反応に微笑を浮かべてから神様は話を始めた。
「飛鳥くんは僕に選ばれてここにいる。あらゆる生命には魂の記憶が存在しているからね。選んだ理由は話せないけど、ある魂の記憶を僕はずっと探していたんだ」
そして神様は俺を静かに見つめた。
「だからすまない。僕の都合でここへ連れてきてしまってね」
謝罪の言葉を口にする。
「いえ、謝らなくて大丈夫ですよ神様」
強制的に連れてきたのだから、本来は怒るべきことなのだろう。でもなぜかそんな気持ちにならなかった。むしろ神様が自分に謝罪したという行為に対して申し訳なさを感じてしまった。
「再確認ですが、理由は話せないんですよね」
「ははは、少しくらい怒ると思ったのに全く怒らないんだね。そこが君の…いやなんでもない。でもこれだけは言える。理由は話せないけど、飛鳥くんを守るためにしたことだ」
(俺を守る?それは何からだ?そして何のために?)
きっと聞いても教えてくれないだろう。ならその言葉を信じるしかない。
「わかりました。それで俺はこれからどうなるんですか?」
「神の使いになってもらおうと思っているよ」
「なぜ神の使いに?」
「神の使いになって僕の管理する世界に行ってもらうことで、飛鳥くんの身に何かあればいつでも干渉して守れるからだ」
(なるほど。確かに守るためならその方がいいのか)
「その世界には行くだけなんですか?神の使いなら何かしら役目とかあったりするんじゃ?」
「本来はあるけど飛鳥くんにはないよ。だから着いたら自由にしてくれて構わない。飛鳥くんに全てを任せる。だからまずはこれから飛鳥くんに過ごしてもらう世界の基本的な情報を与えよう」
そう言った神様が俺に手を向けると情報が流れ込んできた。
まずその世界の名前はアトラス。六大陸と大小の島で構成されている。各大陸の行き来には船で二週間、長い場合はひと月以上かかることもあるそうだ。六大陸には人族、獣人族、魔族、竜族で住み分けがされている。
アメリア大陸、ローレン大陸、サフィア大陸の三大陸が亜人族。ガリアス大陸に獣人族。マナリア大陸に魔族。ドラゴス大陸に竜族だ。大小の島国も無数にあるので国家も乱立してるらしい。
四種族間の間には平和条約が結ばれており、主だって戦争をしていない。この条約は神様が結ばせたものであり、破ると天罰を受ける。過去に条約を破ろうとした竜族はそのせいで個体数を減らした。それ以降は種族間での争いは減ったみたいだ。
ただ戦争自体が無くなったわけではなく、同族での争いは続いている。中でも激しいのは亜人族であり人・エルフ ・ドワーフなどの人に近しい種族の総称なのだが、世界の認識として人族と亜人族は別と考えられている。
また、今挙げた種族以外に精霊族が存在し、精霊界という特殊な場所に住んでいる。実態がないのが特徴らしい。
またこの世界で使われる通貨だが、面白いことに種族関係なく同じものが使われている。
銅貨=十円
大銅貨=百円
銀貨=千円
大銀貨=一万円
金貨=十万円
大金貨=百万円
白金貨=一千万円
神金貨=一兆円
神金貨は実在すら伝説レベルであり、所有しているだけで権威があり、皇室や王室の宝物殿にあると言われている。まぁ桁が違いすぎるからそのレベルにならんと所有は無理だよな。
「これくらいが最低限の情報かな。さて、それじゃあアトラスに行ってもらうとしよう」
「はい、わかりました」
不安な気持ちがないわけではなかったが、頷いた。
俺の足元が光り出した。眩い光が俺を包みこみ、そして体がふわっとする感覚とともに意識が薄れていくのを感じた。
◇◇
飛鳥がアトラスへ行った後、見計らったかのように桃色髪の女神がシルヴァスの後ろに現れた。
「シルヴァス様、よかったのですか?」
女神が言った事に対してシルヴァスはこう答えた。
「エリスか。もちろんこれが最善の選択だ。これは約束を守るためであり、僕の管轄する世界のアトラスならば達成される」
「はい、承知しております」
「だからわかってるとは思うけどさ、他言無用だよ。他言すれば……即滅神だ」
声色は対して変わっていないが、本気で言っていることがわかった。エリスの体が少しビクついた。だがすぐに答えた。
「もちろんでございます。私がシルヴァス様を裏切るはずがありません」
「それならいいんだ。引き続き頼むよ」
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