第九十二話 揺れる王都・1
俺たちは図書館のバッグヤードへ連れて行かれると、そこでアルテオンと名乗る王子の話を聞いていた。
何でもこの王立図書館は代々ルード家の管轄だそうで、アルテオンを長とする革命派の幾つかある拠点の一つでもあるらしい。
アルテオン達は迫害されているリザードマン族のために、食料などの物資を援助する活動を長年行っていたのだが、今夜はその拠点をヴォルティス家に急襲された。
その為、この図書館で落ち合う段取りだったのだが、そこに俺たちが居たというわけだ。
俺としては厄介ごとに巻き込まれた不運だったが、アルテオンにとっては渡りに船の好運だったようで、熱心にルード家とヴォルティス家の長年に渡る確執や、連座王制の問題点を語られた。
しかし……
「あーアルテオン王子、この国の問題は何となくわかりました。ただ先ほども言ったように、俺はちょっと立て込んでいて急いでいるんです。そろそろ本題を聞かせてもらってよろしいですかね……?」
「ああ、これは申し訳ありませんでした。私も知らず知らずのうちについ熱が入ってしまいました!」
と、王子なのに人懐こい笑顔を浮かべて素直に頭を下げられると、それ以上文句を言うわけにもいかない。
これが天性の人たらしによるものなのか、全て計算あっての言動なのかわからないが、ペースはすっかりアルテオンに握られていることだけは確かだ。
「……それでタイガ殿にご相談と言うのは、ずばり我々の革命に力を貸していただきたいということなのです。元々ルード家とヴォルティス家が連座王制を選んだのは、
「ちょっといいですか――」
と、アルテオンの熱のこもった演説を、片手で制すると頭をぼりぼりと掻いた。
正直に言って我慢の限界だった。
俺にだって出来る事は限られている。事情はどうであれ、外国の内政問題を大人しく聞いている暇は、今の俺にはない。
俺は限りのある自分のこの能力と時間を、自分が大切と思うものに優先して行使する。
それはエマリィを始めとする大事な仲間であり、ステラヘイムの関係者であり、そして同じ
誰に何を言われようが、後ろ指を指されて批難されようが、それが俺の正義だ。
そして今の俺の中での最優先順位は、当然ミナセの件だ。
ユリアナたちはしばらくは放っておいても大丈夫のはず。
しかしユリアナ達が自力での脱出が難しいと判断した時には、どこに監禁されていようが、力ずくで奪い返すつもりだ。
つまり俺がここでアルテオンから長々と国内の事情を聞こうが聞かまいが、俺とアルテオンたち革命派の思惑は、この先どこかで合致する可能性が高い。
別に俺がアルテオン達の革命に協力しなくても、俺がユリアナを助けるために暴れているところを、アルテオンたちが勝手に便乗したっていいという事だ。
じゃあ、話は早い方がいいじゃないか。
「あーアルテオン王子、俺は一応貴族の爵位は授かっているけど、そういう政治の話は苦手だし、立場的にも勝手に外国のデリケートな問題に首を突っ込む訳にもいかないんで、正直言って困るんです。でも俺は場合によっちゃ、この国で大暴れするかもしれない。という訳なので、それに勝手に便乗してくださいよ。それじゃダメかな……?」
「は? いや、しかしそれは……」
案の定、困惑した顔を浮かべているアルテオン。
「俺のこと信用できない? まあ会ったばかりだし、そういうもんか……」
「いや、決してそういう訳では……!」
「俺はいまから自分の魔法戦艦に戻るんだけど、たぶんステラヘイム王も到着してる頃なんだよね。出来ればそういう大人の会話は、王族同士で直接話し合ってもらった方がありがたいんだけど。時間の節約にもなるし」
と、俺の出した提案に、アルテオンと従者たちがざわついた。
口々に「ステラヘイム王」とか「魔法戦艦」とか「そんなおいしい話は罠です」いうワードが飛び出して、車座で顔を突き合わせて議論を始め出す。
せっかく時間を節約するために提案したのに、それが呼び水となってまだ時間が掛かりそうな状況になってしまったので、俺は思わずため息混じりに天を見上げた。
すると、突然裏口の方から廊下を走る沢山の足音が聞こえてきたかと思うと、大勢の兵士たちがバックヤードへなだれ込んできた。
「――ヴォルティスの者だ!」
「王子を守れ!」
と、従者たちがアルテオンを取り囲んだ。
俺とハティはチルルさんを背後に隠して、
「アルテオン王子、彼らはヴォルティス側の人間ですか!?」
と、俺。
「そうです。私を探してルード家管轄の建物を調べていたのでしょう」
アルテオン王子の返答に、俺は観念したように息を吐いた。
「やれやれ、結局こうなる訳か。ハティ、チルルさんは俺が預かるから、この後で姫王子たちの動向を探ってくれないか」
「お安い御用じゃ。但し、妾は隠密行動は苦手ゆえ、暴れることになってもいいのじゃな?」
と、巨乳を突き出して自信満々に犬歯を剥き出して見せるハティ。
そんな顔をされては嫌と言う訳にもいかない。
「尻拭いは任せろ。だから好き勝手にやってくれ。と言うか、状況的に遠慮してる場合じゃないからな」
「それならばハイネスを付けさせましょう。腕はたつし城内にも詳しいのできっと役に立ちます」
と、アルテオンが囁く。
ハイネスと呼ばれたのは、ネコミミの青年で手にしていた剣は真ん中から折れている。
先ほどの書庫では、素早い動きで一番に俺に斬りかかって来た人物だ。
なるほどあの身のこなしは、相当の腕利きのようだ。
そしてアルテオンは悲壮な決意が漲る横顔で、従者たち一人一人の顔を見ながら語りかけた。
「私とヨークはこのままタイガ殿と一緒に魔法戦艦へ赴く。残りの者は兵を召集して、当初の計画通りの場所へ陣地を築いてほしい。絶対にステラヘイム王の協力を取り付けて戻ってくる。それまで何としてでも持ち堪えてくれ……」
「相談は終わりました? じゃあこのまま建物の正面へ向かいます。離れずについて来てください」
そう言い終えると、俺はHAR-22の引き金を引いた。
ズダダダダダダダダダダダダッ!!!
バッグヤードに居た十数人の兵士たちは足を撃ちぬかれて、一瞬にして戦闘不能に陥った。
その光景にアルテオンたちは言葉を失くしていたが、俺は気にせず同じように呆然としているチルルさんの腕を引っ張ってホールへ向かった。
正面入り口のドアを蹴破ると、図書館前の広場にも数十人の兵士たちが集まっていたが、同じようにHAR-22で次々と両足を撃ち抜いて戦闘不能にする。
そして広場に出ると、頭上から高周波と共に四つのローターが生み出す激しい
見上げると、丁度スマグラーアルカトラズが急降下してくるところだった。
「よし、グッドタイミングだ」
俺はニヤつきながらコンテナの扉を開けると、呆然とした顔をしているチルルさんとアルテオンたちを押し込んだ。
「それでは妾たちも行動開始じゃ」
ハティはハイネスを引き連れて夜の街へ消えていく。
そしてスマグラー・アルカトラズは、夜の闇を切り裂いてグランドホーネットへと向かった。
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