第八十話 その名は邪神魔導兵器(ナイカトロッズ)

「ゴキブリ怖いゴキブリ怖いゴキブリ怖いよぉ……」


 と、念仏のように唱えて頭を抱えているミナセを横目に、アルマスさんは緊張した面持ちで古代魔法書ヘイムスクリングラを手に取った。


「さすがに今度は何も起きないみたいだな……」


 俺と八号は周囲を警戒していたが、特に変化は見られなかった。

 どうやら遺跡の仕掛けは、これで打ち止めらしい。

 もっとも自殺ゴキブリの群れは、想定外のイレギュラーだった訳だけども。

 周囲の安全が確認出来ると、そこでアルマスさんはようやく安堵した顔で表紙を捲った。

 すぐに食い入るように魔法書ヘイムスクリングラに目を通し始め、その横では興味津々なエマリィも、アルマスさんに少し遠慮しつつも読みふけている。


「さてと、取りあえず魔法書ヘイムスクリングラは二人に任せるとして、問題はこっちか……」


 俺は深く息を吐くと、ずっとしゃがみ込んだままでいるミナセの前に腰を下ろした。

 ミナセはヘルメットを外しているので表情が丸見えだったのだが、それを見て俺の胸中は更に複雑になると同時に、ある疑念が確信に変わっていくのを感じていた。

 しかし想像してみてほしい。

 映画スピードの頃の、若くて精悍なキアヌ・リーブスをアジア顔にした青年が、少女のようにしくしく泣いている姿を。

 真っ赤に泣き腫らした目と紅潮している頬を。

 あれ、なんで八号まで頬を赤くしてんの?

 ま、まあ、それは見なかったことにしよう。

 とにかく俺は、胸にこみ上げるこの確信めいた疑念を解決しなければならない。


「もしかしてミナセって女だったのか……?」


「な、なによ、女だったら悪いの……!? そうだよ、私は女だよ。タイガに分かるの? 突然たった一人で異世界に飛ばされた挙句に、こんな訳の分からない作り物の男の体に押し込められた私の苦しみや孤独が……!」


「い、いや、それは……」


「それにあのデッカいゴキブリはなに!? あんなの反則でしょ!? こんなゴキブリだらけの地下でずっと何か月も暮らしていたなんて……もう、なんで私ばかりこんな目に……!」


「それは同情するけどさあ、それよりも最初から女だと言ってくれれば良かったのに……」


「最初から打ち明けてたら何か変わった!? タイガだって、誰がこの世界に召還したのかさえ知らなかったじゃない。それともなに? 私とタイガのケースを比べてみて、自分は恵まれていたんだと再確認したかった? それで上から目線で勝ち誇ったように同情でもしてみせて、あの魔法使いのボクっ娘ちゃんにジェントルマンでも気取りたかったんだ!?」


 と、ミナセはまるで堰を切ったかのようにまくし立てると、ふと我に返ったように俯いて口を噤んだ。

 どうやら鬱積していた感情を爆発させたことで、冷静さを取り戻したらしい。


「ご、ごめん。こんなこと言うつもりじゃ……。私、いまどうかしてるんだ……」


「気にしなくていいよ。ゴキブリ苦手なんだろ? 俺も自殺ゴキブリの集団に初めて出くわした時は、思わずショウベンちびりかけたくらいだから。確かにあんなデカいのは反則だよなぁ。しかもこちらの人間は、ゴキブリ見ても全然顔色変えないんだぜ。いやになるよ、ほんと……」


 俺とミナセは顔を見合わせて笑った。

 同じ境遇で同じ故郷を持つ者同士だからこそ解かり合えるシンパシーに、胸の奥がこそばゆくて温かい。


「ねえ、タイガ……さっき上で私の昔話をしたじゃない? あれは嘘じゃないから……。性別を濁しただけで、全部本当の私の話……。都内に住む十六歳の通信制高校の一年生で、本当の名前は藩美菜瀬はんみなせって言うの。皆からはバンビって呼ばれてた。交通事故で一生両足が動かない哀れな小鹿バンビ……それが私の正体……」


「なんてこった……。俺は一コ下の女の子にゲームのアドバイス貰ってたのか……」


 俺はジャスティス防衛隊をプレイし始めた頃に、ユーザー掲示板でミナセことクリムゾン・オースと交流をしていた事があった。

 しかも何度か一緒にオンラインプレイもしていて、その時の印象では年上の大学生を想像していたので苦笑するしかない。

 そう言えば、クリムゾン・オースはプレイ中はいつもテキストチャットだけだったような……


「私、事故に会ってから不登校になって、ずっと引きこもってたんだ……。当時の友達に同情されるのが辛くて辛くて、でも向こうも私のことを心配して励まそうとしているんだって、何度も自分に言い聞かせて作り笑顔を浮かべてさ……。両足を失っても挫けず弱音を吐かない健気な子を演じているうちに、ある日突然何もかもが厭になっちゃって……。だからタイガに全部を話さなかったのは、なんかこっちの世界でも同情されたくなかったから。全部私の問題で、タイガは何も悪くないから気にしないで……」


「そうか。わかった……。でもこうして俺たちは出会ったんだ。今のところ異世界転移してきた人間は俺たち二人だけ。だから困ったときは何でも言ってくれよ。協力は惜しまないつもりだから」


「うん。ありがと……。そうだ、せっかくだから一つ約束してほしいことがあるんだ。もしも向こうの世界に戻れることがあったら、私のお母さんを訪ねてほしい。娘は、ミナセは異世界で元気に暮らしているって伝えてほしいの。丈夫な体に生まれ変わって、野山を元気に走り回っているって……」


 そう話すミナセのキアヌ顔は、ふざけている訳でもなくいたって真顔だ。

 それにどこか今にも泣きそうにも見える表情に、俺の胸は妙にざわついた。


「な、なんたよ突然…向こうに戻れるとしたら、俺たち二人一緒に決まってるだろ!? そういうのはなんかフラグっぽいからやめてくれよっ……」


「だから、あくまでも念のためだよ。うちは母子家庭で、お母さんには散々迷惑かけてきたからさ……。

私が突然居なくなった事で、きっと今お母さんは一人きりで苦しんでると思うの。お荷物の私が消えて清々してくれるお母さんだったらどれだけ楽だったか……。でも残念なことに、私のお母さんはそんな人じゃないんだよね……。だから私のこの思いを託すことができる人が、この異世界にも居るというだけで少しは希望が持てるんだ。だからお願い。約束して、タイガ……」


「そう言うことならわかった……。でも、もし元の世界に帰れる時は二人一緒だからな。ミナセだけを置いていく様な真似は絶対にしないから、少しは元気を出してくれよ。な?」


「うん……」


 ミナセは少しはにかんだ様に頷いた。

 そして、ゲーム内の設定上では応急キットが入っていることになっている、ビッグバンタンクの腰のポケットから一枚の羊皮紙を取り出すと、俺に差し出した。

 几帳面に折りたたまれた羊皮紙を開くと、そこに書かれていたのは彼女の母親の名前と住所と電話番号だった。

 思わす胸が締め付けられたのは、懐かしい日本語を見ただけではなさそうだ。


「これは……?」


「もしかしたら私以外の稀人マレビトに会えるかもしれないと思って、随分前に書いておいたの……」


「そ、そうか……」


 そう頷いたものの、俺は胸に引っかかる違和感に、言葉が続かず羊皮紙の文字を見つめ続けた。

 ミナセの境遇を思えば、母親を心配する気持ちが人一倍強いことは理解できるし、こうした用意の良さも本人の性格なのかもしれない。

 しかしそれでも、俺はこみ上げる違和感の正体を確かめようと――いや、その答えの予想は既に胸の中にあったのだが、それを言葉にしてミナセ本人に投げかけてみるべきなのかわからずに言葉に詰まっていた。

 すると、古代魔法書ヘイムスクリングラを読みふけていたアルマスさんとエマリィが呼ぶ声が聞こえてきたので、ミナセとのやり取りは有耶無耶のまま切り上げることになった。


「タ、タイガさん凄いですよ! この古代魔法書ヘイムスクリングラは、私が期待していたような失われた古代魔法の指南書ではなくもっと凄いものでした!」


 と、アルマスさんは興奮した口調でまくし立て、隣のエマリィもあひる口になって高速で相槌を打っている。


「凄いって一体どんな風に……?」


「まずはこの遺跡です。どうやらこの古代遺跡は、古代の魔法兵器を保管しておくための施設だったようなのです」


「魔法兵器って、要は魔法戦艦のことか?」


「魔法戦艦もそうですが、古代四種族の時代にはもっと様々なタイプの兵器が開発されていて、それは世界を焼き尽くした戦争でも猛威をふるったとされています。そのうちの一つが、どうやらあのトンネルの奥にあるようなのです!」


 アルマスさんの足は既に引き寄せられるようにトンネルに向かっているので、自ずと俺たちもその後を追いかけていく。

 途中で振り返ると、ミナセも最後尾を歩いている姿が見えたので、とりあえずは目の前のトンネルに神経を集中することにした。

 エレベーター式の床が降下してきた時は、トンネル内部は暗闇に包まれていたが、今は壁と床が淡い光を発していた。

 どうやら先ほどまでは、自殺ゴキブリの群れがびっしりとトンネル内部に群がっていたので、この光も遮られていたらしい。

 トンネル内部にびっしりと蠢く巨大ゴキブリの姿を想像すると、全身がむず痒くなるような鳥肌が駆け抜けたが、アルマスさんとエマリィはそんなこと一切気にせずに、前へ前へと進んでいくので仕方なく後に続く。


「……この古代魔法書ヘイムスクリングラによれば、古代四種族の時代には魔法兵器のことをゾルタクスゼイアンと名付けていたようですね。しかしある時期に、そうした古代魔法兵器ゾルタクスゼイアンとは一線を画す、とても破壊的で恐ろしい魔法兵器が生まれてしまった……」


「恐ろしてってどんな風に……?」


 と、俄然興味が湧く。


「かって世界の果てから突然やって来て、四種族の民が力をあわせて辛うじて封印することができた、邪神ウラノスと呼ばれた怪物がいました。ウラノスの復活を恐れた古代四種族は、ウラノスの体を幾つかに切り分けて世界各地に封印することにしましたが、ここに眠る魔法兵器は、そのウラノスの体の一部を利用して開発された、究極にして悪魔の魔法兵器……。その開発者であり、この古代魔法書ヘイムスクリングラの著者は、その悪魔の兵器をこう名付けました。邪神魔導兵器ナイカトロッズと――!」


 すると、先頭を歩いていたアルマスさんが立ち止った。

 よく見れば、肩で大きく息をしながら全身は小刻みに震えていた。

 そして真っ直ぐに伸びるトンネルの先を見つめている。

 いや、睨んでいると言った方が正しいだろうか。

 俺もその視線の先を追いかけると、そこには暗闇があって、その中に静かに佇んでいる巨大な影が薄らと確認することが出来た。

 恐らくあれがアルマスさんの言っていた、邪神魔導兵器ナイカトロッズと名付けられた悪魔の兵器だろう。

 

「タ、タイガさん、もうここまでで結構です。邪神魔導兵器ナイカトロッズの姿は確認できました。上へ戻りましょう……」


 と、アルマスさんはそう告げると、踵を返してそそくさと今来た道を戻っていく。


「え……? でもせっかくここまで来たのに、それでいいのかアルマスさんは……!?」


「はい。タイガさん、この古代魔法書ヘイムスクリングラを見てください……!」


 そう言って魔法書をペラペラと捲ってみせるアルマスさん。文字が書かれているのは最初の数ページだけで、残りは様々な魔方陣が描かれている。

 

「それが一体何か?」


「ここに最初に書かれているのは、邪神魔導兵器ナイカトロッズを開発した意図と、その性能についての簡単な説明だけです。そしてその後に延々と続く魔法陣の羅列……。説明によれば、この本自体が邪神魔導兵器ナイカトロッズを起動するための鍵となっています……」


 と、アルマスさん。


「でも作られたのは千年前以上では? せめて本当に作動するのかどうかくらいは確認しておいてもいいんじゃないのかな? 勿論なんだか物騒な代物みたいだから、連合王国の手に渡るのは阻止させてもらうけど――」


 しかしアルマスさんは、古代魔法書ヘイムスクリングラを胸に抱えたまま首を振った。何度も何度も。俺の言葉や古代魔法書ヘイムスクリングラの存在を否定するように。


「タイガさん、この本の最後に書かれている一文は、『私のあくなき探求と勇気は燃え尽きてしまったが、いつの日か継承する者が現れることを願う』です……。古代四種族は基本的に同じ文字を使っていましたが、種族ごとにそれぞれ特徴があります。そしてこの本に使われている特徴は、神族のものなのです……」


「神族……!?」


「神族は我々の源であり、母であり、父でもあります……。黄金聖竜様は我らの守護神として、このトネリコール大陸の平和と安寧を日々守ってくださっています。その神族が、なぜこのような恐ろしい兵器を作ったのか、そして何故封印することになったのか……。それは私には知る由もありませんが、最後の一文から滲み出ている開発者の怨嗟は痛いほどに感じます。この悪魔の兵器を作った何者かは、千年後の我々に怨念と恨みを託しているのです! 我々はいま試されているのです! 世界を焼き尽くした悪魔の兵器とその開発者に……! 正直に言って、これは我々には荷が重すぎます……! 神族の産子である我々の手に負えるような代物ではありません。こんなものが地下に眠っていることが、あの情けない王室の連中の耳にでも入ったら、ステラヘイムとの戦争は必至です。邪神魔導兵器これはここへ封印しておくべきでしょう! そして、この古代魔法書ヘイムスクリングラは、地上に持ち帰って保管するか処分してしまう方が妥当でしょう。この二つをここへ一緒に残しておくのは危険すぎます……」


 アルマスはそう言うと、古代魔法書ヘイムスクリングラを抱きしめたまま黙り込んだ。自分の意見が通るまでは一歩も動かないつもりだろう。


「アルマスさんがそれでいいって言うなら、俺は反対しないよ……」


 今回の依頼主はあくまでもアルマスさんだ。その依頼主の意見に逆らうつもりもないし、ステラヘイムとの戦争の可能性が低くなることも喜ばしい。

 それにエマリィも神妙な顔でずっと黙っているので、アルマスの意見に反対はないと言うことだろう。


「わかった。じゃあトンネルを出て、少し休憩してから地上へ――!」


 俺がそう言いかけた時に、目の前を横切る赤い影。

 それは一瞬にしてアルマスさんを羽交い絞めにして、喉元に銃口を突きつけていた。

 ミナセだ。


「な、なにやってるんだよミナセ!? こういう時に質の悪い冗談はよせって。アルマスさんが驚いてるだろ……!」


「タイガ、ごめん……本当にごめん。でも私は……」


 キアヌリーブスをモデルにした精悍な顔が、今にも泣き出しそうな情けない顔をして俺を見ていた。

 その顔から発せられる声音も男声なのに、女言葉と震えている声音のせいでやけに弱々しい。


「ど、とうしたんだよ一体……? なあ、悪い冗談はやめてさっさと銃を下ろして、アルマスさんを解放してくれよ、な?」


「大丈夫。彼を傷つける気は毛頭ないから……。ただ、私があの邪神魔導兵器ナイカトロッズとか言う悪魔の兵器を手に入れるまで人質になってもらうだけ……」


 ミナセは絞り出すような声で呟くと、アルマスさんを引きずって邪神魔導兵器ナイカトロッズに向かって後退りしていく。


「も、もしかして最初からこれが狙いだったのか……?」


「半分当たりで、半分間違ってるかな……。最下層になにか凄いものが眠っているのは、空気で何となくわかっていたんだ。ゲーマーの勘ってやつかな。でも今の私の力じゃ白銀の守護者に歯が立たなくて、ずっと手をこまねいていたの……」


「そこに俺が現れたって訳か……」


 俺は思わず舌打ちした。

 どこからがミナセの本心で、どこまでが本当のミナセの姿なのかわからず俺をイラつかせた。


「そう。でも気を悪くしないで……。私は最後の賭けに出たの。タイガと一緒に最下層へ潜って白銀の守護者を倒してもらい、その後で出てくるお宝がもし平凡でありきたりなモノだったら、私はまた何か理由を付けて、この遺跡に残ろうと思っていたんだ。でも、私は賭けに勝った……」


「じ、じゃあ最初からこの遺跡から出るつもりはなかったって言うのか……!? なんでだよ、それじゃあマシューは!? あいつはあんなにミナセの帰りを待っているじゃないか! 第一お前がこんな兵器を手に入れてなにになるって言うんだよ……!?」


「タイガも見たでしょ、私の体から漏れる赤い光を……」


「ああ……」


「私、魔族の女と戦ったときに、体の魔法陣を傷つけられたんだ。それからなの、体からあの赤い光――魔力が漏れ出すようになったのは……。でもこの遺跡の中は魔力が溜まっているからか、様態は安定していたんだ。けど、それもそろそろ限界みたい……。私のこの偽りの肉体は、もうそんなに持ちそうにないんだよ……」


「じ、じゃあグランドホーネットへ来ればいい! ミネルヴァシステムで新しい肉体を作れるかもしれないし、テルマっていう俺の仲間が今ゴーレムの研究をしているんだ。なにか力になれるかもしれない!」


「ああ、タイガありがとう……。もっと早く出会いたかったよ……。でも、もう遅いの……遅いんだよ! 私は何ヶ月もこんな穴倉で一人きりで篭っていたから、もう私の中には、この世界への憎しみしかないんだ……! 私を勝手にこの世界へ連れてきて、勝手に作り物の体に押し込めて……この世界が憎くて憎くてどうしようもないんだ……! 熱いマグマみたいに私の怒りは暴れまわってて、もう自分でもどうすることもできないんだよっ……!」


「ミナセ……」


「なんでいつも私ばっかりこんな目に……! 向こうの世界では両足を失くして、お母さんに散々迷惑をかけて、友達も居なくなって……! せっかく異世界に来られたと思ったら、今度は男の体に閉じ込められて、訳もわからずに魔族に命を狙われて……! なんで私ばっかり……! 誰が私を呼んだの、この世界に!? 一体なんのために!? ねえ、私の人生って一体なんなの!? 私は何故生まれてきたの!? こんな苦しい思いをするため!? あっちの世界でもこっちでも、なんで運命は私をいじめるの!? 私はどうすればいいの!? どうすればよかったの!? こんな偽りの壊れかけの体で、どうすればいいのよタイガ! 私はずっと寂しかった! 悔しかった! 苦しかった! 悲しかった! いつも一人で泣いていた! 誰も助けてなんてくれなかった! いったい私はどうすればよかったのよタイガ! 教えてよ……!」


 と、心の内を泣いて訴えるミナセ。


「ご、ごめんなミナセ、俺にもわからないよ……。でも、マシューはどうするんだ……? あいつはお前のことを家族のように慕って、今も地上で帰りを待っているんだぞ……?」


「――そう、だからこそ決めたの! 私はこのくそったれの世界をぶち壊してやるって! こんなにも世界がふざけているから、私もマシューも村の子供たちも泣いてばかりだ……! 私が死んだら誰があの子たちを守ってあげられるの!? だから、こんな世界なんて燃え尽きればいいっ……! みんな死んで苦しみから解放されればいい! 私をこの世界に召還した誰かに、私を召喚したことを徹底的に後悔させてやらないと、気が済まないんだよ……だから――!」


 アルマスさんから古代魔法書ヘイムスクリングラを奪うと、彼を突き飛ばして邪神魔導兵器ナイカトロッズに向かっていくミナセ。

 その背中に向けてベルセルク・スクリームの照準を合わせるが、俺は最後まで引き金を引くことはできなかった……

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