第五十七話 VS巨大ゴーレム・後

「人間ピンポイントバリアか……! ゲスいにもほどがあるだろ……!」


 敵は昨日の森で散々痛めつけられているので、空想科学兵器群ウルトラガジェットの火力に相当臆病になっていることは明白だ。

 だからこそ、わざわざ俺を誘き出して落とし穴の罠で時間を稼いだり、子供たちを盾代わりとして利用している。


 しかし俺は落とし穴から戻って来てこの襲撃現場を見た瞬間に、頭の中である程度の救出作戦のプランは浮かんでいた。

 と、言っても、さすがにピノたちが動く盾として利用されることまでは計算外だったが……

 だが救出作戦に大まかな変更はない。

 何故ならばピノたちが動く盾として利用されることは、こちらにとっては不都合になるどころか、むしろ好都合だったからだ。

 そしてグッドタイミングでライラから待望の無線が。


――申す申す、こちらライラちゃん! タイガさん聞こえますか!? 全員グランドホーネットの甲板に集合しました。無線機も全員に渡してあります。これからどうすればいいんですか!?


「サンキュー! テルマ聞こえるか!?」


――チ、チョー聞こえるっす!


「一つ確認したい事がある。ピノたちの手足は、ゴーレムの体にめり込んで枷のようになって捕らえられている。テルマの土魔法で、あれを解除することは可能なのか!?」


 その質問にスピーカーの向こうで、息を呑む気配が伝わる。

 そしてしばしの沈黙の後で、微かに震える声が聞こえてきた。


――自分の土魔法と魔族の鉄魔法は同じ系統で、言わば向こうがチョー上位互換っす。通常ならば、自分の魔法は鉄に遮られて無効化するっす……。でもあれ程の巨大ゴーレムが、全て鉄で出来ているとは、チョー思えないっす。恐らく表面を鉄の装甲で覆っているだけで、内部は土ゴーレムで出来ていると考えたほうが、魔力消費の点から見ても自然。その装甲に穴を開けて、露出した土の部分に触れることが出来るなら……百パーセントチョーやってやるっす! 勿論自分一人じゃ無理かもしれないので、今ここに居る土魔法使い三人にも、チョー協力してもらいますけどね……!


 なんのことはない。声の震えは武者震いだったようで、テルマはチョーやる気満々だ。


「よし、その言葉を待ってた! これでピノたちを無事に取り返せるぞ! じゃあ今から作戦内容と人員の配置を説明するから皆よく聞いてくれないか――!」


 俺は一通りの説明を終えてから無線を切ると、エマリィを見た。

 隣でずっと作戦内容と自分の役割を聞いていたエマリィは緊張しているのか、唇を真一文字に結んで真っ直ぐに俺を見上げている。


「エマリィなら絶対にできる。そうだろ……?」


「ボ、ボクは、タイガにパーティーに誘われたとき凄く嬉しかった。タイガやハティやテルマは凄くて、ちょっと落ち込んだこともあったけど、今この場面で役に立てることの方がもっと嬉しい。ボクの本当の実力じゃないけど、ボクが世界で一番タイガの魔力を上手く使えるんだって自信だけはあるよ! だからボクに任せて!」


 ア×ロ・レイ並みの名言キタコレ!

 ていうか、これもう愛の告白なんじゃないのかよ……

 やだ、心臓がドキドキして顔がチョー熱い……

 しかしノロけてる場合でもないので、俺はニヤけ顔をフェイスガードで隠すと、妖精袋フェアリーパウチから背負い子を出して背負った。


「よし、じゃあエマリィ大暴れしてやろうぜ!」


 通常は背中合わせになって背負い子に座るのだが、今回は作戦の性質上、エマリィは俺に負ぶさる様にして座る。

 エマリィの両手が俺の首に絡み付いて体がピタリと密着するが、ABCアーマードバトルコンバット)スーツ越しと言うのが、血の涙を流したいくらいに悔やまれる。


「――ボイスコマンドオーダー! スマグラー・アルカトラズはベースへ帰還!」


 その声に反応して、急速に巨大ゴーレムから離脱するスマグラー・アルカトラズ。

 そして俺はエマリィを背負ったままコンテナからダイブ。

 落下しながらオープンチャンネルで全員に呼びかけた。


「これよれり蜂一号作戦開始だ! エマリィ頼む――!」


「了解! いくよ! 天河の写本オクシュリュンコス・パピルス!!!」


 エマリィの掛け声に合わせて、空中に金色に輝く二メートル×四メートル程度の魔法防壁が出現する。

 俺はその上へ着地すると、一気に巨大ゴーレムの方角へと向かって走り出した。

 俺の足元では走る速度に合わせて、次々と魔法防壁が出現して架け橋となっていく。

 背中のエマリィがタイミングを見計らって、魔法防壁で出来た足場を展開してくれているのだ。

 

 そして俺が走り抜けると同時に、役目を終えた魔法防壁は消失していく。

 落とし穴から脱出した時のように、長い架け橋のまま維持していてもいいのだが、この方が魔力の節約に繋がるし、こちらの軌道が敵に読まれにくいだろうと言うことで、俺がエマリィそうに頼んだのだ。


 架け橋は俺が走る数メートル先の分だけでいい。

 こうして俺たちが巨大ゴーレムの周囲を蜂のように走り回るだけで、注意をこちらに引きとめておくことが出来る。

 特に敵は俺の攻撃力を極端に警戒しているのだから。


「エマリィ! 右に緩やかにカーブして!」


 俺の声を合図に、前方にサーキットのバンクのような斜めに傾斜した右曲がりの魔法防壁が。

 俺はスピードを落とすことなくカーブを駆け抜けていく。

 巨大ゴーレムが、俺の接近を警戒して後退りして間合いを取りはじめた。

 更に俺の動きに合わせて、囚われているピノたちの体が、滑るようにしてゴーレムの脇腹へと移動させられた。

 その子供たちの前を走り抜けていくと、一斉に子供たちが声を上げた。


「タイガ兄ちゃん助けて!」


「エマリィちゃんも居る!」


「二人とも頑張って!」


「おう! もう少しの辛抱だ! 絶対に助けるから、もう少し我慢しててくれよ!」


 俺はフェイスガードを解除して、出来る限りの笑顔でそう元気付けた。

 その子供たちの中で異彩を放っている銀髪のエルフの少女と、その頭の上で飛び跳ねている妖精族の少女。

 ピノは少し驚いた顔で俺を見ていて、ピピンは両手を振って飛び跳ねている。

 二人の元気そうな姿を間近に見て、俺はほっとして唇が綻んだ。

 

「ほらピノ! タイガは怒ってないって言った通りだったでしょー!」


「うん…タイガ、ピノも助けて……!」


「ああ、ちゃんと助けるからな。大人しくしてるんだぞ!」


 俺は二人にサムズアップを突き出すと、一旦巨大ゴーレムから離れていく。

 そして、エマリィに左曲がりの大きなバンクを作ってもらいUターンしようとすると――


「タイガ後ろ――!」


 エマリィの声に、俺は走りながら振り返った。

 すると巨大ゴーレムの体から数十本の鉄色の触手が伸びて、一直線にこちらに向かってくるのが見えた。

 即座にエマリィが数枚の魔法防壁を展開する。

 しかし触手はジグザグに折れ曲がって、巧みに魔法防壁の隙間を突いて迫りくる。


「エマリィ、Uターン中止でこのまま真っ直ぐ! しっかり掴まっててくれ!」


 俺は足場を蹴って前方へ思い切りジャンプした。

 空中で反転しつつ膝立ちの状態で架け橋の上へと着地すると、そのままスライドしながらアマテラスF-99を腰だめ撃ちでぶっ放した。


 ゲーム内で敵に囲まれてスコープを覗く時間も惜しいような場面で、散々やり尽くした手法でボルトハンドルの操作も朝飯前だ。

 しかもアマテラスの威力ならば、触手程度は一度の射撃で五、六本を同時に撃ち抜ける。


 ゲーム内で散々鍛えたこの俺の射撃テクニックは特筆ものだと自画自賛したいが、それよりも素晴らしいのはエマリィだ。

 エマリィはこのイレギュラーでトリッキーな俺の動きも瞬時に意図を理解して、絶えずタイミングを合わせて架け橋を作り続けてくれている。

 おかげで俺は余計なことに一切気を取らることなく、触手の迎撃だけに集中できる。

 なんという見事すぎるコンビネーションプレーだろうか!

 これぞ、次元を跨いだ男と女のラブゲーム! 

 世界中の誰よりきっと二人の愛ランド!


「エマリィ改めてUターン!」


「了解!」


 前方に再度左曲がりのバンクが出現。

 俺は一気に駆け抜けて巨大ゴーレムと対峙した。

 すると、いつの間にか巨大ゴーレムの背中に一つの人影が――


「――!?」


 そこに立っていたのは、額に角を生やした魔族の少女だった。

 仁王立ちの少女は、怒りを孕んだ切れ長の目で俺を睨みつけていた。

 どうやら巨大ゴーレムの内部でゴーレムを操作していたが、俺が周囲の空中を走り回っているのが気が気でないらしく、堪らずに外へ出てきたという感じか。


「我が名はヒルダ・ナハシュ! タリオン・ナハシュの九十九番目の庶子! 稀人マレビトよ! 貴様は父様の仇! 我が鉄槌で粛清される前に名を名乗れ!」


「タリオンの娘なのか……!?」


「タイガ名乗ってあげて……。理由はどうであれ、先に仕掛けてきたのは向こう。でも、ここで名乗らなかったら、彼女と同じ卑怯者と思われる……」


 俺が少し戸惑っていると、背中のエマリィは神妙な声音でそう耳元で囁いた。

 名前も名乗らず闇討ちを仕掛けてきたのは向こうだが、相手が名乗った上に名前を聞かれた以上は答えないと、どうやらこの世界では非礼にあたり、卑怯者と後ろ指を指されるらしい。


「俺はタイガ・アオヤーマ。マイケルベイ爆裂団のリーダーだ!」


「タイガ・アオヤーマ……」


「理由はどうあれ随分と好き勝手やってくれたよな!? あんたの親父さんは正々堂々と勝負を挑んできたが、子供を人質に取るこんなやり方を親父さんが知ったらどう思うよ!? 今からでも遅くはない。子供たちを解放してくれないか!?」


「黙れ黙れっ! 貴様に何がわかる! 稀人マレビトなどという訳のわからぬ存在のお前に、私の無念などわかるものか! 子供たちを返して欲しかったら、私から力ずくで取り返してみろ!」


 ヒルダは相当苛立っているらしく、歯を剥き出しに右手をこちらへ向けた。

 すると、巨大ゴーレムの全身から一斉に百本近い触手が立ち上がって襲い掛かってきた。

 さすがにこれだけの数を、アマテラスだけで対処するのは至難の業だ。


「――エマリィ右側に飛石をランダムで! とにかく沢山!」


「任せて!」


 俺は架け橋を蹴り上げて、右手に大きくジャンプ。

 右側の空間には既にエマリィが三メートル四方の魔法防壁を、地上と水平に幾つも展開してくれている。 

 一枚一枚の高度も隙間の距離もバラバラだ。

 しかし人間の身体機能を増強してくれるABCアーマードバトルコンバットスーツならば、ランダムに配置された防壁をジャンプ移動するなど朝飯前。

 さすがに重量級のビッグバンタンクでは厳しいが、フラッシュジャンパーほどとは行かなくとも、アルティメットストライカーなら十分対応できる。


 俺はジャンプ移動で触手攻撃を避けつつ、音声コマンドでミサイルランチャー・キュベレーオメガを二丁持ちトゥーハンドで装備。

 誘導ミサイル系では最強ランクに位置し、ミサイル一発辺りのヒットポイントは三百と小さいが、一丁辺り五十発のマイクロミサイルを完全自動ロックオンで一斉発射できて、更にリロードタイムも短いので五十発のミサイルをAIMを気にすることなくコンスタントにバラまける。


 そしてキュベレーオメガ最大の特徴がロックオンシステムとネットワークミサイルシステムで、敵が五十体以下の場合複数のロックオンを重複させた上で、ミサイル同士が通信しながら同時着弾するように軌道や速度を調節してくれる。


 触手は百本近くとキュベレーオメガ二丁分の装弾数とほぼ同じだが、リロードも早くそれに加えてエマリィの魔法防壁もあるので、十分に対応できるはず。

 その読みはズバリと的中し、俺が魔法防壁の飛石をジャンプ移動しながらキュベレーオメガでミサイルをばら撒き、その隙を掻い潜ってきた触手は、エマリィが防壁を展開して寄せ付けない。

 この標的を逃さないスズメバチの攻撃力オフェンスと、蟻一匹通さない鉄壁の守備力ディフェンスが見事に噛み合って、三回目のリロードを迎える頃には百本近くあった触手はほぼ全滅状態だった。


 この見事なまでの成果に、俺の全身は言いようのない無敵感に包まれて、興奮の余り思わずいつもの言葉を叫ぼうとするが、俺よりも早くどこからともなくマイケルベイコールが。

 しかも声は一人ではなく、数え切れないほどの声だ。


「こ、これは……!?」


「タイガ、シタデル砦を見て! それに丘の方にもあんなに沢山の人たちが……!」


 そう言われてシタデル砦を見ると、避難していた貴族やシタデル砦所属の兵士たちが、いつの間にか外壁補修用の足場にわんさかと群がってマイケルベイコールをしているではないか。

 その中にはアルファンの姿も見えて、髪を振り乱して一心不乱になって右拳を振り上げてコールしている。

 そして近くの丘には、数万人の人影が。

 恐らくグランドホーネットの周囲で商売を始めていた商人や観光客たちだろう。


――「「「「「「マイケルベイ! マイケルベイ! マイケルベイ!」」」」」」


 大勢の声が一つとなって、巨大な喚声は渦のように平原に響き渡り、俺の全身を興奮と感動で打ち震わす。

 背中のエマリィもたぶん同じ思いを感じているのだろう。震えている息づかいに全て現れている。

 そして対照的に巨大ゴーレムの背中に立つ魔族の少女ヒルダは、忌々しそうに顔を歪めて周囲の群集を見渡していた。

 焦りと動揺がはっきりと見て取れる表情からは、いつ暴発してもおかしくない危うさが見て取れる。

 怒り任せに下手にピノたちに手を出されてはたまらない。

 そうなる前に、一気に決着を付けた方が良さそうだ。

 予定していた蜂一号作戦では、巨大ゴーレムの中からヒルダが姿を現すとは想定していなくて、ヒルダの直接狙撃は計画していなかったが、今こうして狙撃のチャンスがあるのならば、ここで一気に仕留めた方が早い。


「エマリィ、作戦変更! ここで決着を付ける! ゴーレムに近づいて!」


 そう指示を出すと同時にダッシュをする俺。

 その走る速度に合わせて、足元に次々と金色の架け橋が浮かび上がっていく。

 そして音声コマンドでアマテラスF-99を再装備した俺は、空かさず銃口をヒルダに向けて引き金を引いた。


 しかし危険を察したのか、ヒルダの足元からせり出した鉄色の壁が、一瞬にして全身を覆い隠したかと思うと、そのままヒルダごと巨大ゴーレムの体内へと吸い込んでいく。

 直後、ナノマテリアル弾が鉄色の壁を打ち砕いた。

 粉々に粉砕された壁の向こう側で、右腕を捥がれたヒルダの姿が一瞬だけ見えるが、そのまま体内へと消えてしまう。

 狙撃は失敗だ。

 ならば、当初の予定通り蜂一号作戦を遂行するのみ。


「――ハティ、ライラ出番だ! ぶちかましてくれ!」


 俺はインカムに向かって叫んだ。


――おおっ、カピタン待ちくたびれだぞ!


 その無線の声と同時に、巨大ゴーレムを取り囲むように四つの巨大な竜巻が発生した。

 巨大ゴーレムは明らかに動揺したような動きを見せて、その竜巻の囲いから逃れようとするが、四つの竜巻は威嚇するように動いて巨大ゴーレムを逃さない。


 更にライラの小型ドローン三機が巨大ゴーレムの眼前に、チアリーター風衣装で歌って踊る身長五十メートルの巨大ライラという、悪夢のような立体映像ホログラフィを投影すると、巨大ゴーレムは巨大ライラに警戒した。


 そして俺は、ゴーレムの背中へアマテラスの特殊ナノマテリアル弾を叩き込んだ。

 一発、二発、三発――

 鉄色の装甲がガラスのように砕けて、背中に直径三メートル近くのクレーターが出来上がる。

 その中心で露出しているのは内部の土部分だ。


「テルマ今だ!」


――チョー待ってたっす!


 巨大ゴーレムの遥か頭上で待機していたスマグラー・アルカトラズが一気に急降下してきて、背中にぶつかる寸前でホバリング。

 そのコンテナからクレーターへ飛び込むテルマと三人の土魔法使いたち。


 これこそが蜂一号作戦だった。

 俺が囮となって巨大ゴーレムの注意を引き付けている間に、ハティが巨大ゴーレムの足元へ、テルマ隊を乗せたスマグラー・アルカトラズは人知れず上空に向かい待機。

 ハティの風魔法で巨大ゴーレムの動きを封じ、俺の一刺しスティングで露になった土部分へ、テルマ隊が一気に土魔法を注ぎ込む。


 そして俺の攻撃力を恐れる余り、子供たちを一箇所に集めたのが、ヒルダの運の尽きだった。

 巨大ゴーレムの脇腹辺りに、固まって配置されていたピノたちの周囲が、みるみるうちに円形にめきめきと盛り上がり始めていく。

 やがて遂に内側からの圧力に鉄の装甲が耐え切れなくなり、装甲に縦横無尽にひびが走って粉々になって剥がれ落ちた。

 俺はその瞬間を見逃さなかった。


「――二番隊ゴーッ!」


――ライラちゃんかしこまり!


 その無線と同時に、上空に待機していたもう一機のスマグラー・アルカトラズが急降下してきくると、ピノたちの目の前でホバリング。

 それに合わせてテルマ隊が、止めと言わんばかりに魔力を最大に注ぎ込んだ。

 ピノたちを捕らえていた土の壁が、みるみるうちにに泥状へと変化していく。

 その隙をついてコンテナで待機していたライラと八号、ユリアナ、イーロンたちが、ピノを始めとする子供たちを掴むと、一斉にコンテナの中へと引っ張りこんだ。


 ちなみにユリアナ姫王子にはもしもの事があっても困るので、グランドホーネットで待機しているように頼んだのだが、どうやら勝手に救出メンバーに加わったらしい。

 本当に困ったお転婆姫様だ。


――救出成功ですっ!これより離脱します!


 ライラの無線を合図に、テルマ隊もスマグラー・アルカトラズへ乗り込んで、二機は同時に巨大ゴーレムから急速離脱した。

 その間、時間にして僅か三十秒足らず。

 電光石火の救出作戦に、周囲のマイケルベイコールは拍手と歓声が入り交じって更にヒートアップしていく。


 ここで始めてピノたちを奪われたことに気がついた巨大ゴーレムから、百本近い触手が射出されてスマグラー・アルカトラズへ襲い掛かった。

 しかし即座にハティの竜巻が反応して触手群に突撃する。

 四つの巨大竜巻が壁となって触手攻撃を封じ、その隙をついてスマグラー・アルカトラズは無事にグランドホーネットへと帰還することができた。


 蜂一号作戦がぶっつけ本番にも関わらず、見事すぎる連携プレーで成功を収めた後は、待望のお仕置きタイムだ。

 ハンデがなくなったので全力で行かせてもらおう。


「ボイスコマンドオーダー! 武器選択! 七つの大罪セブンス・シン! 武器選択! ロケットランチャー・デスサイズ!」


 右手に七連発式グレネードランチャーを、左手にロケットランチャーを構えた俺は、巨大ゴーレムの頭部と臀部から同時に狙いを定めていく。

 二方向から立ち上がった爆発と火花は巨体を縦断して中央で邂逅すると、それぞれの始点へと戻っていく。

 爆炎と炸裂音を轟かせて、鉄色の巨体を盛大に食いちぎりながら――


 爆発が起きる毎に、鉄色と土色の破片が盛大に飛び散って、みるみるうちにサイズが縮小していく。

 そして巨体が六割程度まで削られた頃に、残っている体が一気に崩れて霧散したかと思うと、一斉に空中へと飛び散った。


 俺は一瞬何が起きたのか理解できなかったが、空中に散った破片の一つ一つがプテラノドンのような姿形をしていることに気がついて全てを理解した。

 ヒルダはこのどれか一つに紛れて逃げるつもりなのだ。


「悪いけどここで逃したら、これからも付き纏われて安心して眠れそうにないからな。仕留めさせてもらうぞ……!」


 音声コマンドでキュベレー・オメガを二丁持ちトゥーハンドで装備。

 シールドモニターに百個のターゲットカーソルが現れて、ピピピッと次々にロックオンしていく。

 そして引き金を二つ同時に引くと、一斉に大空に射出される百発のネットワークミサイル群。


 そんな感じで三回目のリロードに突入した頃には、怪鳥ゴーレムはほとんど撃墜されていて、最後の一羽に残りのネットワークミサイルが一斉に襲い掛かって見事撃ち落すと、シタデル砦と丘のギャラリーから一際大きな歓声と拍手が沸き起こった。


 俺とエマリィは、天河の写本オクシュリュンコス・パピルスでグランドホーネットの甲板まで戻ると、ハティやライラ達、それにピノとピピンを始めとする救出された子供たちに迎えられた。

 そして鳴り止まぬ群集のマイケルベイコールに全員で手を振って答えると、最後に俺の音頭でマイケルベイ三唱をした。

 こうして長い一日は、ようやく無事に終わりを迎えたのだった。

 と思ったのだが、実は長い一日はこの後もまだまだ続くのだった――

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