第四十話 武装強化
忙しくも平穏な日々が流れていた。
プラントの残骸を見つけて以来、新たなプラント発見の報告もなく、俺はサウザンドロル領の復興事業のみに注力していた。
そして最近はジュリアンがダンドリオンでの書記官業務を一時的にいとこに任せて、グランドホーネットで寝泊りをしながら作業の陣頭指揮を執ってくれるようになったので、少々手持ち無沙汰な日々が続くことに。
まあ俺としても本業はあくまでも冒険者のつもりなので、復興作業は少しずつサウザンドロル領の人間に任せていく方がいいだろう。
今後は貴族を相手にしたチャリティー晩餐会や、現在王室とサウザンドロルとの三者で話を進めている、ドローンを使った航空路線など技術面や金銭面を中心に後方支援に徹していくつもりだ。
さらに現在グランドホーネットが停泊している平原には、国中から魔法戦艦見たさの観光客が連日押し寄せている。
そして、その観光客を目当てにした屋台村が立ち始めていて、それは新たな市場や雇用が生まれるどころか、新たな街が出来上がりそうなほどの勢いだった。
このまま行けばサウザンドロル領の経済は思ったよりも早く立ち直りそうだった。
それに八号が肩入れしていたアスナロ村も、復興作業員の中にはこのまま定住をしてもいいと言っている者も現れているらしく、見通しは明るくなってきた。
だからこの機会に俺は冒険者らしい生活に戻ろうと心に決めていて、その手始めとして近場の森へ狩りに行くことにしていた。
さすがにまだとこかへ遠出をする訳にもいかないだろうしね。
そこで早速エマリィに声をかけるも、
「タイガ、ごめん。村の診療所は毎日忙しいからボクは行けないよ……」
と、残念な返事が。
「え、でもつい最近治癒魔法を使える冒険者が数名、新しくダンドリオンから来たんじゃなかったっけ? それに聖竜教からもボランティアの魔法使いを派遣してもらっているし、本当にエマリィが行く必要あるの?」
俺自身が始めた復興支援に協力して貰っているのだから無理も言えないが、人材に余裕があるのに生真面目なエマリィが必要以上の責任感を感じた上での発言だとしたら、それは俺の望むべき姿ではない。
しかし――
「それはそうなんだけど、実はボク最近診療所に行くのが楽しいの」
その言葉に、俺の胸にチクリと痛みが走る。
だってエマリィはずっと冒険者になって世界中を旅したいって言っていたじゃないか。
自分で食べる肉くらいは自分で調達できるようになりたいと言っていたじゃないか。
それなのに狩りを断って、診療所へ?
しかも行くのが楽しい?
狩りよりも?
Why?
も、もしかして、こんな事は死んでも考えたくないが、診療所へ行くのが楽しいのは何か新しい出会いがあったからとかでは……?
そ、それはもしかして男なのですか……?
そうなのですか!?
い、一体どこの誰だそいつは!?
俺のエマリィをたぶらかす、どこぞの馬の骨など
と、そんな風に勝手に妄想が膨らんでやきもきしていると、エマリィが楽しそうに理由を教えてくれた。
「実はね、相性が合わない人に治癒魔法を掛け続けるのって、魔力の消費が激しくてとても疲れるんだけど、どうも最近ボクの魔力量が少しずつ増えてるみたいなんだ」
「え、それってどういうこと?」
「診療所では相性が合わない人に沢山魔法をかけて、魔力がゼロになったら魔法石で充填して、その後にまた治療を再開――て感じでしてたんだけど、どうもこのやり方がボクに合ってたみたいなの。魔力の増強はその人の体質にも関係するから、これと言った絶対的な方法はないんだよね」
確かにその話は以前に聞いた覚えがある。
そして毎日鍛錬したからと言って、望むだけ魔力が上がる訳でもないと。
その壁にぶち当たった時に、魔法使いの多くは自ら成長を諦めてしまうらしい。
「でも最近少しずつだけど魔力が増えているのが実感できるから、今は狩りよりもそっちを優先したいかな。偶然だけど、自分に合う方法を見つけられたんだもん。だからちょっと納得できるまで、この方法を突き詰めたいの。そんな訳だからボクのことは全然気にしなくていいよ」
そんなエマリィの健気で、相変わらずの生真面目な言葉を聞いていると、つい今しがた大天使様を勘ぐってしまった自分が恥ずかしくなってくる。
しかしここは俺のケツの穴の小ささは放っておいて、エマリィにほかの男の影などなかったことに素直に安堵しておこう。
「そうか、エマリィがそうしたいって言うなら今回は諦めるかな。それにエマリィの魔力アップは、うちのパーティーの戦力強化に必要不可欠なんだし」
別にエマリィのご機嫌を取ろうとか、煽てようなんて気はなくて、ただ本心を何気なく呟いただけだったが、それを聞いたエマリィの顔に、ぱあっと花が咲いたように笑顔がこぼれた。
「ほんとに!? タイガはほんとのほんとにそう思ってくれる!?」
「う、うん。当たり前じゃん、そんなこと……!」
エマリィの剣幕に少し押され気味に頷く。
「よーし、なんだかボクやる気が出てきたぞぉ! じゃあ行ってくるね!」
と、飛び跳ねるように走っていくエマリィ。そして振り向きざまに、
「そうだ。ボクの代わりにライラはどう!? 確か留守番のご褒美を約束してたよね!? きっとライラも喜ぶと思うよ!?」
そう手を振って去っていく。
エマリィと狩りに行けないのは残念ではあるが、エマリィもなんだかご機嫌みたいだったので、これはこれで良しとしよう。
それにエマリィに言われて、ライラと約束をしていたことを思い出したので、この機会にそれを実行するのもいい。
しかし俺はもう一つやっておかなければならないことがあったことを思い出して、ライラを誘う前にスーパー3Dプリンター「ミネルヴァシステム」が設置してある武器開発室へと向かった。
結局ミネルヴァシステムでの作業は長時間に渡り、その日の狩りは諦めて翌日に回した。
俺がそこまで熱中したものとは――
それは八号とライラの武装強化だ。
現状八号はゲーム内で装備していたアサルトライフルとバズーカを、ライラは初級の水魔法を使えるが戦力としては弱い。
そこで八号とライラの希望を取り入れながら、ストックしてあった素材や王都の道具屋で買い揃えた素材を使って、戦闘力の向上が図れる武器作りに勤しんでいたという訳。
ミネルヴァシステムを使ったもの作りには大きな特徴がある。
まず自分が作りたいものの設計図やスペック表を入力すると、必要な素材と量を答えてくれるので、それを用意して投入するだけなのだが、高性能な武器になればなるほど、当然要求される素材もレアで入手が難しいものばかりになってくる。
しかし手持ちの素材でどうしてもその武器を作って欲しい場合は、システムの方で自動的にスペックダウンした武器を製造してくれるのだ。
その後でレアな素材が入手出来たら、武器とともに投入するだけで、スペックアップした武器を作ってくれるというお手軽さ。
この作業が思いのほか楽しくて、八号やライラも参加して三人であーだこーだと言いながら素材の組み合わせや、今までとは違った発想の新しい武器作りに試行錯誤していた。
そうして出来上がった武器の説明をしよう。
まず八号はこの間の
そこで
<魔王の爪・ヒュドラの牙・千年竜の卵・魔法石の結晶(緑)・魔法石の結晶(赤)・魔法石の結晶(黄)・堕天使の涙・フェンリルの毛皮・スレイプニルの眼球・ファーブニルの鱗・ケートスの舌・ペガサスの蹄・セイレーンの羽根・リヴァイアサンの牙・バハムートの角>
と、見るからに激レアっぽい――というか入手困難そうな代物ばかり。
その為
そこで発想を転換し防御はこれまで通りボディアーマーで行いつつ性能を向上させ、そのボディアーマーにアルティメットストライカーのボーナスウェポンでもある
勿論アルティメットストライカーのものより性能は劣り、フレキシブルアームも六本から四本に減らされているが、アルティメットストライカーのようにアーム先端の武器は火炎放射器で固定せずに、多彩な武器を装備して操作できるように機械式四本指へ。
この四本のアーム全てに武器を装備するもよし、その内の一本に盾を装備すれば防御力も向上するというわけ。
さらに腰の辺りから伸びている二本のアームは「足」の代わりにもなり、この二本腕が装着者の代わりに走ったりジャンプすることで、今よりも機動力は二、三倍に跳ね上がる。
このボティアーマー+
八号もえらく感激していたのでライラ用のも製作したのだが、一転して反応は微妙だった。
「えー、これを付けないと狩りには連れてってもらえないんですか!? ライラちゃん大ショックなんですけどぉ……!」
「当たり前だろ。お前の水魔法じゃ戦力にならないの。だいたい
俺やライラ、八号の体には魔方陣が刻まれている。
この魔方陣は
俺が体内に
最近ライラが中級の水魔法を何度練習しても発動できないと愚痴をこぼしているのを聞いて、この推測は間違いないだろうと俺は確信していた。
ライラが初級の水魔法を習得できたり、八号が転生時に装備していた武器が魔力でリロードできたのはこの為だ。
単に肉体の生成と維持のために魔方陣が呼び込んだ魔力の余力に過ぎず、これはエマリィやほかの冒険者たちのように、練習や修行を積めば増えるといった類のものではないだろう。
勿論ライラが初級程度の魔法を幾つ覚えてもらおうが構わないが、それに拘っている限りはパーティーの一員として一緒にクエストへ出掛ける訳にはいかないと言うだけだ。
しかし話を聞いていると、
「別に魔法に拘ってるわけじゃないんですよぉ! ライラちゃんだって魔法使いとしての限界はひしひしと肌身に感じてて、これじゃあ皆と一緒に出掛けても足を引っ張るだけだってわかってますから! で、でも、これは……!」
「でも? なんだよ? 怒らないから素直に言ってみ」
「うわーん、どう見たって可愛くないんですう! ライラちゃんが背負うんだから、もっとこう武骨じゃなくてふんわか柔らかそうな感じで、色もピンクでまるで天使の羽根みたいな感じがいいんですぅ! キラキラとデコレーションされてて、ハートの装飾も欲しいんですよぉ!」
「え? もしかして射殺されたいの? ならば希望通りに……!」
「べ、別にふざけてる訳でも、馬鹿にしてる訳でもなく真剣ですから! タイガさんお願いします! ライラちゃんの要望を受け入れて作り直してくださいっ! 旦那様、後生ですからあああっ!」
「あん? そんなの面倒臭いだろ! お前だってミネルヴァシステムを使えるんだから自分でやってくれよ、そのくらいは!」
俺がイラッとして結構キツめに怒鳴ると、ライラは何か言いにくそうにモジモジとしている。
「だ、だってこれは、ライラちゃんの生まれて初めてのご褒美でプレゼントじゃないですか。自分で作ったら意味がないですもん……。そんなのいつもやってる事と同じじゃないですか……。やっぱり初めてもらうプレゼントは、タイガさんの手で全て作って欲しいじゃないですかぁ。ブー……」
「全て俺の手でって言っても、素材をセットして幾つか項目を選択して、ボタンをポチッと押すだけなんですけど……?」
「ああーん、それでもそういうのが乙女には大事なんですよぉ! なんてったって初めてのプレゼントなんですからあ! なんでそこをわかってくれないんですか、タイガさんのバーカバーカバーカ!」
「あーはいはい。わかりました……」
結局俺が折れてライラの要望を聞き入れた、ライラ専用
その後で二人のデフォルト武器として、八号にはハンドガン・ベビーギャングを二丁製作。
これはNPCの基本装備だったアサルトライフルとバズーカを素材に、幾つかの素材を組み合わせて作り直したもの。
元々威力の低かった二つを一つにまとめて、追加素材を組み合わせたことで多少の火力アップへ繋がった。
追加素材に魔法石が含まれているところが肝で、つまりベビーギャング自身が魔力の吸収と放出をするのだ。
そこに八号の魔力も加わるのでリロードも難なく行える。
装弾数は一丁当たり五発だが、中級の攻撃魔法と同程度の火力が、弾切れの心配なく使用できるアドバンテージは大きいはず。
そしてライラにはマジカル・ガンを。
これはライフル型の水鉄砲のようなおもちゃみたいな形をしているが、ライラが魔力を注ぎ込めば弾丸型となって発射され、更に弾丸は注がれる魔力に準じるので水魔法なら水弾、火魔法なら火炎弾と状況によって使い分けられる。
これにも魔法石が組み込まれているので、威力は中級の攻撃魔法程度はある。
さらにフルオート連射機能も付けておいた。
ベビーギャングもマジカルガンも、製造コスト的には拳サイズの魔法石をまるまる三個使ったりとかなり高くついてしまったが、こればかりは仕方がない。
これらがこれからライラと八号のデフォルト装備になる。
そして残った素材で出来上がったのがアサルトライフル六丁と弾丸が二千発、グレネードランチャーが二丁と弾丸五百発、そして大盾二枚だ。
大盾は中級魔法程度の防御力はあるが、アサルトライフルとグレネードランチャーの火力は初級魔法程度。
本当はもっと火力を上げたかったのだが、途中で素材が切れてしまったので仕方ない。
あとは
もしもの時は俺が前へ出て行けばいいだけだ。
これで準備は万端!
あとは森へ出掛けてガンガン稼ぐだけだ。
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