第二十二章 選帝侯会議 -8-
瞬間移動するかの如く、高速でセンガンが踏み込んできた。
正面から竜爪を撃ってくると見せかけて、身を沈めて足を払ってくる。
跳び上がる。
上空からタスラムを乱射するが、センガンは手に魔力を集中し、弾丸を弾き飛ばした。
そのまま後方に着地し、
轟音とともに大きな爆発が起きるが、この程度で倒せる相手じゃない。
これは、牽制だ。
爆煙に紛れ、接近してフラガラッハを振るう。
だが、視界を塞ぐ程度の牽制では、センガンを捉えることはできなかった。
獣のような動きで素早く体をかわすと、右手を突き込んでくる。
障壁。
大気の魔力を込めた分厚いのを構築する。
それを、センガンは一瞬で噛み破った。
やつの拳に込められた魔力は、桁違いの濃密さを持っている。
ただの基本的な突きひとつが、必殺の威力を持っている理不尽。
かろうじて右に転がり、その突きをかわした。
無様な姿に、センガンは嘲笑を浮かべる。
「キミが紛い物だってわかったかな。本物のアセナの拳の前では、キミなど麦わらの人形のようなものだ」
「ぼくは別に、アセナの拳だけを学んできたわけじゃない」
センガンはアセナの拳にこだわりを持っているが、ぼくにとっては戦闘の手段のひとつでしかない。
確かに有力な手段ではあるが、いまは逆に邪魔だ。
アセナの拳ならば、センガンの方が習熟度が高い。
その教えで動けば、簡単にセンガンに裏を取られる。
体に染み付いた歩法や型を捨てるわけではないが、アセナの絶技は通用しないと見るべきだろう。
とりあえずは、距離を取る。
接近戦は、アセナの拳の独壇場だ。
くっつけば、至近距離から一撃で死に至る打撃が飛んでくるだろう。
センガンには、遠距離の攻撃はない。
距離を取っていれば安全だ。
「おいおい、アセナの拳を学んだ男が距離を取るのか? もっと踏み込んでこいよ。つまらないだろ」
「追い付けたら相手をしてやるよ」
センガンの歩法はぼくより高度で、地上の動きは彼のが上である。
だが、空を駆ければこちらの方が速い。
センガンが距離を詰めようと思っても、立体的に動き回るぼくを捉えるのは難しい。
もっとも、こっちも遠距離からの攻撃ではセンガンの防御を貫くことができない。
彼の障壁を突破できるのはフラガラッハの斬撃くらいだが、そこまで接近すると逆に痛打を食らうことになる。
負けないようにするのは簡単だが、これでは勝つのも難しいな。
持久戦に持ち込んでも、センガンの魔力が尽きることはまずないだろうし、これではいつまでたっても決着は付かない。
それに、センガンは細かく動きながら接近しようとしてくるから、油断できる状況じゃないな。
「ちょこまかと──男らしく勝負しろよ」
センガンは、大分苛ついているようだ。
あれだけの魔力を持っているのだから、母親のように
それをしないのは、アセナの拳士としての誇りなのであろうが、戦闘においては甘いと言わざるを得ない。
しかし、せめてセンガンのあの威力の高い突きを受け止めることができるなら、接近しても戦いになるんだろうが。
それには、
「まあ──やってみるか」
だが、成功したことはない。
やり方はわかっているんだが、虚空の魔力を制御し切れていないのだ。
元々、ぼくは魔力の細かい制御は得意とは言えない。
もっとも、クリングヴァル先生に鍛えられ、
それでも、虚空の魔力の扱いにくさはまた別格なのだ。
問題は、センガンの踏み込みをあしらいながらやらなければならない点だ。
ただでさえ難しい挑戦なのに、一瞬の油断も許されない状況で試さなければならない。
フェストのように命が保証されているわけじゃない。
流石に緊張で喉も渇く。
滑るように近付いてくるセンガンから距離を取り、上空に逃げる。
そこで、額に集中している虚空の魔力を動かそうとする。
──まずいな。
これだけで、
維持をしながら魔力を動かすには、恐ろしいほど神経を集中させないとならない。
だが、落ち着いて集中させてくれるほど、センガンも甘くなかった。
大地がひび割れるほどの踏み込みで、跳躍して拳を向けてくる。
慌てて回避すると、制御しようとしていた魔力はたちまち元に戻ってしまった。
ち、やはり難しい。
おっと、跳び上がったセンガンが、自由落下で落ちていく。
好機!
空を蹴ってフラガラッハを叩きつける。
だが、センガンはフラガラッハの刃を両手で挟み込むと、万力のような力で押さえ込んだ。
獰猛に歯を剥き出し、センガンは楽しそうに笑う。
「やっと近付いてきたよね。この態勢なら、威力のある打撃を撃てないと思ったかな」
フラガラッハを挟んだまま、センガンの足が顔面を狙ってくる。
足場もないのに──いや、魔力を瞬間的に固めて足場にしたんだ。
センガンめ、その気になれば、空中戦もできるんじゃないか。
避けられない。
ならば、奥の手だ。
構築は一瞬。
もう、無意識に割り込ませることもできる。
センガンの右足が左肩を襲い──。
そして、激しい衝撃とともに吹き飛ばされた。
「く、あっつ、どうして──」
思わず、フラガラッハまで手放してしまった。
蹴られた左肩からは、痺れるような痛みが伝わってくる。
骨までは逝っていないが、打撲で痣くらいはついているだろうか。
「二度も小細工を食らうかよ。魔力の扱いに長ければ、その程度の魔法陣を乱すことなんて造作もないのさ」
回転しながら着地したセンガンは、フラガラッハを投げ捨てると得意そうに胸を反らした。
「もっとも、そんな牽制の蹴り程度じゃボクの気は収まらない。さあ、そろそろ本気を出そうかな!」
うーん、センガンめ、ぼくの魔法陣に魔力を使って干渉したのか。
そんな器用な真似ができるとは思わなかった。
こいつを身に付けるのには、結構苦労したのに──。
でも、下手に絶技を反射しようとしなくてよかった。
絶技の反射の妨害をされていたら、致命的な一撃を食らっていたところだ。
しかし、これはもう腹を決めるしかないな。
他を捨てても──
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