第十八章 アプフェル・カンプフェン -8-
ジリオーラ班を倒し、もう一度
驚くべきことに、すでに残っている班数は五班であった。
首位は、五十六点でぼくらの班。
二位は、マリーの班で同率で十七点。
三位がベルナール先輩の班で十五点。
四位がノートゥーン伯の班で十点。
そして、最後にファリニシュの班が零点である。
相変わらずファリニシュは参加だけしているようだが、それにしてもベルナール先輩の班が三位というのは驚きだ。
「残っているのは、おれたち以外は全部黄金か。で、どうする。表の校庭で二班が交戦中のようで、裏の校庭で動かない班がひとつ、そして裏庭に向かっている班がひとつあるが」
「表の校庭は、さっきからずっと交戦中なんだ。恐らくこれは、マリーとノートゥーン伯の班だ。裏庭を動かないのはイリヤで、そこに向かっているのは消去法でベルナール先輩だろう」
「おお、鋭い分析っすね、兄貴! それで、どの班からぶっちめるんで?」
「不気味なのは、ベルナール先輩の班だな。そこまで強敵とも思えないが、三位に上がってきている。裏庭に見に行こう」
オーギュスト・ベルナールは、直接攻撃魔法が禁止のこのルールでは実力は発揮しにくいはずだ。
アドリアーノ・ヴィドーでは高等科生を撃破は無理だろうし、サルバトーレ・スフォルツァに至っては大した実力もない。
そんな三人が、何組もの班を撃破している。
違和感しか感じないな。
ベルナール先輩の班はかなり慎重に進んでいたので、両者が接敵したタイミングで、ちょうど裏庭に到着できた。
裏庭の中央に中等科と初等科の女の子が一人ずつ座っており、その横にはファリニシュが立っている。
ベルナール先輩と同様に、ファリニシュも氷雪系の攻撃魔法は使えないが、どうするつもりだろうか。
ぼくらと反対側の校舎の陰から、ベルナール先輩が現れた。
基本的にあの人は遠距離専門の
それが最前線で来るとは、どういう布陣だろうか。
ベルナール先輩は、魔力の篭った手袋を右手に嵌めている。
何かの魔道具か。
そして、その後ろを少し離れてアドリアーノ・ヴィドーとサルバトーレ・スフォルツァが進んでいた。
「その線を越えたら、足が凍り付きなんす」
地面に引かれた白い線を、ベルナール先輩はまじまじと凝視した。
「氷雪系の拘束呪文か。この程度で!」
ベルナール先輩が左手を振るうと、轟と地面が燃え上がり、白い線が一瞬で溶け落ちる。
先輩もなかなかやるな。
線を踏み越えて前進するベルナール先輩に、ファリニシュも前進して迎撃に出る。
その踏み込みの速さは、ベルナール先輩とは比較にならない。
ファリニシュは差し出された腕を掴み、綺麗に背負って先輩を投げ落とした。
「ぐはっ……しかし、貴女の負けだ、イリヤ・マカロワ──」
受け身も取れずに悶絶しながら、ベルナール先輩が哄笑した。
はっとファリニシュが頭に手をやると、頭上の林檎は魔力を失い、地面に転がり落ちていた。
それを、後続のサルバトーレが拾い上げる。
「
「触れた相手が外に発している魔力を数秒遮断するだけだ。だが、魔力が維持できなければ、林檎は落ちる。わたしに触らせれば終わりというわけよ。ははは!」
ベルナール先輩が起き上がる頃には、アドリアーノ・ヴィドーが残りの二人を制圧して林檎を奪っていた。
中等科生や初等科生相手なら、彼でも十分なわけか。
なかなかいい連携。
これで連中も、二十七点だ。
「連中の作戦はわかったな、カレル」
「要は、先頭のベルナール先輩に触られなければいいんだろ。こっちの最大の障害はアラナン、お前だ。お前が健在なうちは、後ろの二人は出てこねえ。とりあえず、何とかベルナール先輩の気を惹いてろよ。後は、何とかすらあ」
カレルは武術の腕は大したことはないが、機転は利くし魔道具もいいものを揃えている。
それに、初等科の頃から付き合っているんだ。
お互いに、何を考えているかくらいは言わなくてもわかる。
彼を班員に選んだのは、伊達ではないのだ。
「アドリアーノ、サルバトーレ、アラナン・ドゥリスコルだ」
ぼくが校舎の陰から現れると、真っ先にベルナール先輩が気付いた。
一応、高等科なだけはあるね。
いい感知能力を持っている。
「恥ずかしなんすな、主様に無様を」
「手を抜きすぎなんだよ」
ファリニシュに悪びれた様子はない。
元々、このカンプフェンで勝つ気はないのだ。
本気でやっていれば、ベルナール先輩の炎ごと凍りつかせるくらいはしてのける。
「下がっていろ」
二人を後退させると、ベルナール先輩がぼくの前に進み出る。
基本は
油断ができるものではない。
とにかく右手で触れればいいと、ベルナール先輩が掴みかかってくる。
そこで身を沈めて足を払い、態勢を崩したところで背中に手刀を入れる。
顔面から地面に突っ込んだベルナール先輩は、泥だらけになりながら憤慨した。
あれで結構格好付けだからな、先輩は。
ファリニシュの前で無様な姿を見せることに、抵抗があるのだろう。
ま、近付くと触れられそうだから、とりあえず離れて様子を見る。
いい感じで激昂して、注意がぼくだけに向いているようだ。
ベルナール先輩と対峙しながら、背中越しにカレルに合図を送る。
魔力の多いベルナール先輩は、感知能力にも長けている。
それを誤魔化さねばならない。
じゃ、こっちから行ってみるか。
「ベルナール先輩、格闘でぼくに挑もうとか、舐めすぎじゃないですか」
「ほざいたな。吠え面かかせてやるぞ!」
挑発に乗って、ベルナール先輩が突進してくる。
再び身を沈めて足を払おうとするが、今度は跳躍して先輩はそれを回避した。
だが──。
「はい、空中じゃ回避しようがないわな」
先輩の影から黒い腕が伸び、跳躍した足を掴んだ。
バランスを崩した先輩が倒れるところを、ひょいと林檎だけを頂戴する。
うん、カレル、いいアシストだね。
「な、卑怯だぞ、アラナン!」
「へへっ。卑怯は男の勲章だぜ、先輩」
地団駄を踏む先輩にカレルが声をかけるが、それあんまり意味がわからないぞ。
とりあえず、格好よさげな科白言いたかっただけだろ、お前。
そんなカレルを放置して、ぼくは残りの二人に向かう。
アドリアーノがサルバトーレを抑えて出ようとするが、ぼくに敵
「アラナン・ドゥリスコルゥー! 貴様の──貴様などのせいでわたしはなあ!」
ステップを踏みながら左拳、そして右拳と突き出してくるが、正直蠅が止まっているかのようだ。
サルバトーレ、お前全然昔から進歩してないんだなあ。
サルバトーレの右手首を右手で掴みながらくるりと半回転し、左の肘を腹に叩き込む。
ちょっと大人げない技だが、これくらいやらんとこいつも懲りないだろう。
「ぐぎゃっ」
紙のような
胃液を撒き散らしながら倒れるサルバトーレを避けると、頭上の林檎だけは確実に奪い取る。
この瞬間、ベルナール班の全滅と敗退が決まった。
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