第七章 激突! オースヴァール -10-
さて、
なんて考える必要はないか。
アルビオン貴族で誇り高い
そうしたら、それに対抗するためにも体を動かさないといけないんだが……。
この高速で暴れまわる魔力を何とかしないことにはどうにも。
ちゃんと使えるなら、短時間で接続を切ることもないし、あんなに疲弊もしないのだ。
って、この圧縮魔力を御しきれていないぼくが言っても強がりか。
押さえ込むんじゃねえ。
不意に、クリングヴァル先生の科白が脳裏に甦った。
当初、
ええと、何だったかな。
押さえ込むんじゃねえ。反発するだけだ。
流れを掴み、身を委ねろ。
「じゃじゃ馬を……飼い慣らせ、だ!」
どくんと心臓が跳ねる。
魔力の流れに集中しろ。
これで掌握できなければ、やられるのはぼくだ。
直線ではなく、ジグザグに進んでくるのか。
その動きの堅さに笑う。
クリングヴァル先生なら、もっと軽快に柔らかく動くぞ。
「見える……!」
爪先に力を込める。
踵を滑らせる。
今までにない感覚。
何だ、もう爽やかじゃないな。
繰り出される刃を歩法で眩惑する。
圧倒的な
そこで、はっと気付く。
オニール学長がぼくに
今でも、トップスピードはきっと
だが、
基本的な剣術の腕はあるが、クリングヴァル先生に鍛えられたぼくから見れば、素人同然だ。
誘いを掛ければ、簡単に乗ってくる。
高速の突きを紙一重でかわし、一歩踏み込む。
懐を取ればこっちのものだ。
左肘を突き上げるように
更に、衝撃で後方に吹き飛ぶ
さあ、決めさせてもらうぞ。
右手に握った棍による追撃の
だが、直前の
「おおおおお!」
螺旋の渦が、
胸を棍で突かれ、
大地を揺らして仰向けに倒れた
「
ぼくは、大の字になって空を見上げながら、両腕を突き上げた。
やった! 勝ったぞ!
訓練場の外から、歓声が沸き起こっている。
マリーが、カレルが、ジリオーラ先輩が大騒ぎだ。
訓練場の中にクリングヴァル先生が入ってくる。
照れ臭そうに笑いながら、くしゃっとぼくの前髪をかき回した。
「よくやった、アラナン。お陰で爺いの秘蔵の酒を飲ませてもらえるぜ」
ちょっと!
それ、ぼくをだしに賭けをしてたってことですよね?
「細かいことを気にするな。お前は勝ったんだ。そして、お前は……強くなったよ」
おお、先生が初めて認めてくれた気がするよ……。
「勿論、まだまだだからな! おれを倒せないうちは、
ちょっと!
折角感動しかけたのに台無しだよ!
「そう言わんで、今回はアラナンを褒めてやれ、スヴェン。自慢の教え子じゃろう」
「今回アラナンは、ハーフェズ君とエリオット君の伸び掛けた鼻をへし折った。これで、彼らももっと伸びるじゃろう。それに、目的を見失い、ただ体を鍛える機械のようになっておったスヴェンにも、いい影響を与えてくれたのう」
ところで、オニール学長。
ぼくにも治療してくれませんか。
左肩を結構ざっくりやられているし、実は全身
そう思っていたら、すぐに手当てをしてくれた。
肩の傷は結構深いので、
全身の筋肉痛は、少し冷やしてくれただけで終わりである。
確かにちょっと楽になったけれどさあ!
「もう、いつまで寝ているのよ。勝ったのにだらしない」
「おめっとうさん、アラナン。うちを準優勝にしてくれておおきにな」
ぼくが出てこないのに業を煮やしたか、マリーとジリオーラ先輩が乱入してきた。
「やったぞ、アラナン。大儲けだ!」
「おめでとう、アラナン君。本当に
「二人とも止まっているときしか何しているのかわかりませんでしたよ!」
三人組も後に続いてくる。
カレル、儲けたのはいいが、学長に没収されるなよ。
「男を見せなんしたね、主様」
ファリニシュが蕩けるような笑顔を見せる。
そこに、アンヴァルもちょこちょことやってきた。
おお、珍しくお前も祝福してくれるのか。
「アラナン、お腹空いたのです。終わったのなら、早くご飯を食べさせやがれ、です」
「おま、さっき食べたばかりだろう!」
「年増はアンヴァルに十分なご飯を寄越さないのです。待遇改善を年増に命令して……いたた、ちょっと、止めるのです! アンヴァルの耳はそんなに伸びるようにできてない!」
ファリニシュがアンヴァルの耳を引っ張っていく。
引き摺られるように食いしん坊の馬が去っていった。
全く、勝利の余韻も何もあったもんじゃないな!
でも、悪くはない。
こんな雰囲気は、故郷のエアル島では味わえなかった。
あそこじゃ、ぼくは一人で
こういう賑やかなのに、憧れていたんだ。
「あら……アラナン、貴方泣いているの?」
言われて気が付いた。
どうやら、ぼくは涙を流していたらしい。
気が付かなかったよ。
でも、悪くないじゃないか、それも。
「そうか。涙って……嬉しくても、出るんだな」
哀しみの涙なんていらない。
できれば、ぼくは喜びの涙をみんなで流せるように頑張りたいよ。
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