第七章 激突! オースヴァール -6-
翌日。
よく晴れた空の下で、ぼくとマリーは
マリーは緊張気味で、しきりに唇を舐めている。
何度か模擬戦はしたことはあるが、あんなに緊張しているのは珍しい。
久しぶりにやるせいか?
負けるつもりは全くないが、マリーの
あれが決まると、奇襲で致命傷を食らいかねない。
仕方ないから、今日は
ストリンドベリ先生の分厚い筋肉が、ぼくとマリーの傍らにそびえ立つ。
掲げられた右手が、太い声とともに振り下ろされた。
「
刹那、ぼくは圧縮してあった魔力を目に集中する。
強化された
ぼくには、マリーの魔力の流れがはっきりと捉えられた。
マリーの姿が光の反射を変えることで周囲の景色に溶け込んでいく。
同時に、今までいたところにマリーの映像が現れる。
この連携がマリーの
だが、それもマリーの動きがわからなければ、の話だ。
マリーの
それは
魔法親和性が高い、というやつだ。
だが、ぼくが新たに使った
使ってみてわかったが、
左からマリーが踏み込んでくる。
ぼくは
彼女からは、ぼくが半歩下がったように見えたはずだ。
だが、ぼくの体は残っている。
誘われたようにマリーがもう半歩踏み込んできた。
身を沈めると彼女の腕を取り、体を腰に乗せて地面に背中から落とす。
マリーは堪らず、呼吸ができず顔をしかめる。
そこに突き付けられる
ストリンドベリ先生の試合終了の声が蒼穹に吸い込まれた。
「こ……こほっ、ジリオーラさんの言っていたことがわかったわ、アラナン」
身を起こしながら、マリーはぼくを睨み付けた。
「その全力を出していないよって顔が気に入らない。いつか、わたしも貴方の顔をひきつらせてやるんだから!」
「待っているよ」
ぼくの顔は正直なのか。
どうもジリオーラ先輩にもマリーにも簡単に読まれてしまうらしい。
流石のクリングヴァル先生も、こればっかりは鍛えてくれなかったよ!
「アラナン、お前視えていたのだな」
場外に出ようとするぼくと、開始位置に行こうとするハーフェズとがすれ違う。
「
「流石はスヴェン・クリングヴァルだよ。よくお前を此処まで鍛え上げた。
えっ。クリングヴァル先生が、皇帝の二人の守護者と言われた
確かに、いま皇帝の側にいるのは
「待っていろ。すぐに済むから」
ハーフェズの傲岸な口調に、ぼくは疑いを持たなかった。
彼の二回戦も高等科の先輩が相手だったが、ティナリウェン先輩すら破ったハーフェズの相手にはならない。
ハーフェズの背後に浮かんだ三つの
その
「
大火力にもほどがある。
逃げ場のない高等科の先輩は、三方向からの集中砲火を浴び、一瞬で致死量超過判定を食らっていた。
あれはひどい。
ベルナール先輩の
「アラナン、あれでハーフェズは手を抜いているからな。気を付けろよ」
いつの間にか、隣にカレルがやって来ている。
ぼくからの賭けを拒否したせいか、カレルは少し顔色がよくなっていた。
「あいつの真の火炎呪は、十個の
ぞっとしない話だな。
前からハーフェズの飽和攻撃には苦戦させられたけれどさ。
もう苦戦とかそういう段階じゃないじゃないか。
「どうだ、わたしへの対策は立てられそうか?」
薄く笑みを浮かべながら、ハーフェズが戻ってくる。
こいつもやはり、オニール学長が認めただけのことはあるよ。
強さの桁が、他の人間と明らかに違う。
クリングヴァル先生から、
「あんな火力じゃ、ぼくに汗ひとつかかせられないさ」
強がりを言うと、ハーフェズは愉しげに笑った。
中等科で敵なしの生活を送っていたせいか、退屈だったのだろうか。
続けて開始された二回戦の第三試合は、語るほどのこともなかった。
アルフレート戦をなぞるような試合である。
今度は初めから
とにかく、
可能性として幾つか考えていたうちのひとつが、シピの
だが、
移動そのものは、恐ろしい速さではあるが、通常の移動だ。
だが、
あの圧倒的な魔力の根源は、むしろそっちにあるのではないだろうか。
「謎の魔力に
「なに、アラナンは
一人言を呟いたのに、ハーフェズから余計な突っ込みが入る。
ええ、お前の魔力に物を言わせた大呪文の同時攻撃も厄介なんてもんじゃないですよ。
初等科の頃の
「ま、期待していてくれよ、ハーフェズ。ぼくの一年間の成果を、次の試合で見せてやるよ」
ハーフェズとの試合では、全力を出さざるを得ない。
それはもう、わかりきっていることなのだ。
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