6
「大蕗……マツリか……?」
唖然とした。
「
マツリがぼうっと立っていたのだ。
国光の白い建物の入り口に。
「……よく戻ってきましたね」
「はい」
マツリは
「心配しましたよ。今まで、何処に?」
「わかりません」
「では誰が君を?」
「知らない人でした」
時雨は諦めたようにため息をついた。これ以上聞いても無意味だと察したのだろう。すぐに会話は終了した。
部屋から出たマツリは、河口と鉢合わせた。
「河口さん」
「部屋、鍵かけることになった。この前みたいなことにならねぇように」
「……もしかして、責任を問われたんですか?」
河口がマツリ達を一番追い詰めた。なのに、犯人の顔も見てないんじゃ、お咎めくらいあっただろう。
「おかげでお前の部屋の鍵管理は俺になった」
「そうですか」
それって罰なのだろうか。ただの業務では。
「…………何故戻った」
河口が低い声で問うと、マツリは一瞬、沈黙した。
「おかしなことを訊くんですね」
「思うだろ、普通。戻ってきたくないとか、そういうこと」
「だって」
ふっとマツリが笑う。河口はその笑顔に不吉なものを覚えた。
「化け物は、私だったんだもん」
「……。本気で言ってるのか?」
マツリの部屋の前に立ち止まったまま、二人は見つめあう。
「虚偽だと?」
言葉に詰まった。だって、それは一度は河口の頭の中でも浮んだ考えだったから。
「化け物なんか飼ってませんよ」
マツリの声が静かな廊下にじんわり響く。不思議と落ちつく声だった。
「私自身が、化け物だったんです」
ぽきりと折れそうな少女が無表情な笑顔でいうので、河口は何をどう言えばいいのか分からなくなった。
「調べてみなければ、分からないだろう」
やっとのことで絞り出した言葉は、この間までのマツリが言っていた言葉だった。
なんだか滑稽に思えて、マツリはふっと笑った。
「それじゃあ」
「……あ、あぁ」
「あ、河口さん。」
「あ?」
「此処にブラックカルテって、ドリーしか、いないですよね。」
「……? あぁ」
「なら、いいんです」
マツリは安堵した様子で、ひとり、部屋の中に入っていった。
「なんなんだ、こいつは……」
河口はボツリと呟いた。
***
「ゾルバの骨が折られたらしいぞ」
「……ゾルバ?」
国光の別の施設。
「しばらく治療するらしい。どうすんだよ。研究、止まっちまうぞ」
「それより、ゾルバの骨を折って無事な奴ってのがいるのか?」
噂話があちこちで。
「…………。メグか?」
なかなかの暴力事件起こしましたね。と椎名は暢気に考えていた。
「作業はもとからゾルバなんかいなくても進んでたじゃないか。何言ってんだァ?」
「知らないんですか」
「!」
「このプロジェクト、ゾルバの身体こそが実験の被験体なんですよ」
「それって……」
「ブラックカルテにブラックカルテを移植するという行為は、何故か今までの実験において100%拒絶反応が出ません。その謎を彼の身体を調べることで、解き明かす必要があります」
「移植? 今までに移植が何度も?」
「えぇ」
「いったい誰の。またクローン技術でも駆使して?」
「いいえ。それもありますが、それだけじゃありません」
「……というと?」
「死体を、使ってるんですよ。」
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