3
マツリが声を上げて泣いたその傍で、メグはしばらく立ちつくすと、絞り出すように声を出した。
「マツリ」
その声にびくっとしてしまう。ゾルバと、本当にうりふたつなのだ。
「あいつに何もされなかったか」
「……されたよ」
声が揺れる。
「どうして居なくなったの」
――だめだ。やめろ。
「どうして居てくれなかったの」
――それ以上は。
「どうして私が化け物なの!」
――メグを、傷つけるだけの言葉だ。
「………………」
メグは、黙りこんで俯いた。
――あぁ、しまった。傷つけた。
いっそう嗚咽をこぼしながら、マツリは泣いた。
メグが無言でゆっくりとマツリに近づく。マツリは腕を顔に押し付けたまま、メグの影の暗さを感じた。
「起きろよ」
マツリは黙って首を振った。
「風邪、ひくぞ。その格好で寝てたら」
メグは眉間にしわを寄せた。怖い目にあった彼女に責められても、きっと謝れば結局は彼女を傷つけると分かっていた。許されたら、駄目だ。
「ごめんなさい」
泣きながら彼女は言った。
「ごめんなさい」
「謝るなよ」
「お母さん」
メグは口をつぐんだ。
「お母さんっ…………!!」
――この時俺に、何が言えただろう。
「とりあえず、服ちゃんとしろ」
メグが上着をバサッとマツリにかける。
「……ちゃんとしてるよ」
「嘘つけ」
力いっぱい抵抗しただろうことがわかるくらいには、乱れていた。
はっとため息をついて、メグは蝋燭に火を灯し、座りこんだ。
また沈黙が続いた。
「……ゾルバに、もう、会わないよね」
「……おう」
「殺したり、しないよね」
「……。ほんとは」
マツリは顔を覆う腕をずらし、メグをちらりと見た。やっと見ることができた。
「今日にでも殺してやりたかった」
「……嘘でしょ」
沈黙。
「嘘って言ってよ」
「……」
「嘘って言って」
沈黙だけの夜が来た。
涙だけが、止まらなかった。
――ねぇいっそ。
奪われて、汚されて、まっくろに染まればよかった。
そしたら闇に沈んで、そのまま溶けてしまえる。
あぁ、どうして私は生きていられるのかな。
目を覚ますとそこは。違う色の世界だった。
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