6
あの日も、ひどく雪が積もった日だった。
苦しさと、虚しさと、痛み。
辛さと、苦さと、罪悪感。
そんなものばかりを噛みしめては、吐き気をもよおす。
自分の息切れも随分聞き慣れた。
この場所に連れてこられたのはそんな頃だった。
白銀に染まった冷酷な景色はよく覚えている。
ゾルバが運ばれてきた時、あいつの身体はひどい状態だった。
血まみれで意識はなく、体も半分なかった。腕や脚がもげ、腹が
ゾルバをそんなふうにやったのは、あいつの化け物だった。
突如発現した化け物がゾルバを食べようとしたのだ。
化け物の暴食衝動は、『ゾルバへの意識』に働いた。つまり、あいつと関係を持った者たちにほぼ無作為に襲いかかった。自分自身、親戚や友人に寝た女まで、そいつは誰でも食おうとした。
ゾルバの緊急手術はなぜか俺も寝台の上だった。
抗う術も気力もなく、ただ目を閉じていた。しかしすぐに起こされ、一週間ほど放置同然の扱いを受けた。
しばらくして、奇妙なものを見た。バラバラにされた自分の体の一部たちだ。廊下を移動中、開いた処置室の扉からチラリと見ただけだったが、あれは間違いなく自分の頭だった。
「……なんだこれ」
その時は、本当にソレしか言いようがなく、悪い夢でも見たのだと現実から目を背けた。
しかし後日、一命を取りとめたゾルバは自分そっくりな継ぎ接ぎ人間になっていた。
神威 萌のクローン体を利用した移植。これが国光が行ったゾルバへの処置。つまり国光の連中は、化け物に化け物を移植したのだ。
吐き気をもよおすような所業だが、あいつらにはきっと収穫多きものだったのだろう。興味深く、面白おかしいものだったはずだ。
――どうしてくれる。
俺がもうひとつ、増えたんだ。罪がもうひとつ、生きてくんだぞ。
ゾルバは目を覚ますなり俺を嫌悪した。そしてこう言った。
「邪魔するなよ」
死にたかったんだ。やっと死ねると思ったんだ。家族を奪った自分を殺せると思ったんだ――その短い言葉に込められた思いは、手に取るように分かった。だってそれは俺だって思ったのだ。いっそ、俺を喰ってくれと、化け物に何度も願ったのだ。だから、むしろゾルバを羨ましいと思っていた。自分の化け物はどうやっても自分のことを食べようとしてはくれなかったから。
だけど、ゾルバの化け物ももうあいつを食べようとはしなかった。
これが、
絶句だろ。こんなの。
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