26
それから皆で一緒に昼食を取り、小さな子供達のお世話をして、室内の掃除と畑の雑草抜きをすると、あっという間に夕方になった。
子供達は終始笑っていて、コレットもそんな子供達を見ているのがとても楽しかった。初めての畑仕事で、ヴィクトルが泥だらけになっているのを見るのも、新鮮で面白かった。
そして、夕食時。
いつもより賑やかな食卓で、コレットは豆のスープを口に運びながら、隣のマットに声をかけた。
「私がいない間に変わったことはなかった? 大丈夫だった?」
マットは子供達のリーダー的な存在だ。年齢も十五歳と、比較的年長に当たる。孤児院にマットよりも年上の子はいるのだが、皆一様に自己主張が弱い子ばかりで、実質マットが子供達をまとめる役割を果たしていた。
コレットはもう十八歳ということで孤児院には属しておらず、どちらかといえばシスターに近い存在だ。
マットはコレットの言葉に少し考えた後、首を横に振る。
「特に何もなかったよ。ライアンとノアがいつものように喧嘩するぐらいで、変わったことは……」
「そう、それなら良かった」
この夕食を食べたら、コレットはもう城に帰らなくてはならない。このまま孤児院で朝まで過ごしたいという気持ちはあるが、さすがに夜までステラの側を離れるのはマズいだろう。
コレットは少しだけ名残惜しそうに子供達を眺めた。
これから膠着状態がどれぐらい続くのかわからない。一度力を貸した手前、途中で投げ出すわけにも行かないので、次いつ子供達に会えるのかわからない状態だ。
幸いなことに大きな子供達もいて、コレットがいない分はなんとかなっているようだが、それでも家族同然の彼らに会えない日が続くのは少しだけ寂しかった。
「また会いに来れば良いよ」
コレットの心の機微を読んだのか、ヴィクトルが声を掛けてくれる。その言葉に一つ頷きながら、コレットは慣れ親しんだシスターお手製の豆スープを大切に味わった。
「あっ! そういえば!」
もう食事を終わりかけた頃、マットがそう言いながら手を打った。そして、慌てて食器を片付けると、自分たちが寝泊まりする部屋に駆け込んでいく。
そして、コレットに巾着袋を差し出した。
「コレット姉、変わったことあったよ! この前の収穫祭
の日に空からこれが降ってきたんだ! たぶん何かの宣伝だと思うんだけど……」
コレットはその巾着を受け取り開いた。するとその巾着袋から押し込まれていた紙の束がぶわっと溢れた。
「……これっ!」
「裏がまだ使えそうだからとっておいたんだ。ソフィーとか最近絵を描くのが好きだから」
「マット、これもらってもいいかな?」
巾着袋の中身を見たヴィクトルが慌てた様子でそう言う。
マットは二人の驚く様子に目を瞬かせた後、一つ頷いた。
そこにはお札がぱんぱんに詰め込まれていた。あの、大蛇や狼から出てきたあのお札だ。巾着袋に入っているそのどれもが綺麗な状態を保っており、どうやって使うのかはわからないが、使い方さえわかればまだ使えそうな物ばかりだった。
「ねぇ、マット。この紙どこで拾ったのか案内してもらえる?」
「え? う、うん……」
そうして、案内してもらった場所は孤児院から結構歩いた森の中だった。一帯が小高い丘になっている。
コレットは力を使い、その中でも一番高い木の上に跳び上がると、辺りを見渡した。
「ヴィクトル、ここならあの場所が見えるわ。全体が見えるわけじゃないけど、操るだけならここでも出来そう」
その言葉に木の下のヴィクトルは一つ頷く。
そして、木から降りてきたコレットに彼はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「もしかしたら、これで城の中の鼠を見つけ出せるかもしれない」
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