第50話俺がダンジョンに潜ったならばっ!

 手当たり次第に周りを歩いてみる。正直洞窟をひたすら進んでいるようにしか思えない。


「ヒカリゴケだったか?これもずっとあるけど、どういう仕組みなんだ?」


壁に張り付いているヒカリゴケを片手で触りながらメアに尋ねる。


「ん?そんなこと気にしてたのか?ヒカリゴケも生き物だからなー!餌が多いんだよダンジョンは!」


「ん…どこにでもいる…ね。」


「生き物!?…いやそうか、普通に考えたら植物だし、苔って生きてる…のか?餌って何を食べるんだ?」


 考えられるのは水分やら洞窟の壁に張り付く微生物とか?


「そりゃあ人だろ。モンスターもだけど。」


「人!?食べるの!?苔が!?」


バッと触れていた手を引っ込める。大丈夫だよね!?俺の指は5本あるよな!?


「うん、間接的にだけどな。人がモンスターに殺されたら、その死体は養分になってダンジョンに吸いとられるんだぞ。それが栄養となって壁に浮き出るから、それを吸収して生きてるのがヒカリゴケだ。」


 なにそれ怖い、つまり苔にとっては人が食料になるわけだ。


「ダンジョンに吸収されたら墓も作れないな。骨もないし。」


「そうだな、でも殺されなければいいだけだからな!」


 誰もがメアみたいに魔法一つで殺せる訳じゃないからな?


「ん?あれ、モンスターだよな?」


 前方を見ると牛のような動物がこちらに背を向けて地面に顔を近づけて何かしていた。マーキングか食事か分からんが。


「ん…あれが…ボムバッファロー?」


「サンダーボ」


「まて!おすわり!」


「わん!…………てなんでなのだっ!?」


 危ない危ない、またすぐ終わらせてしまうところだった。すこしは俺にも花を持たせてほしい、俺だって戦いたいのだ。


「俺に行かせてくれ、メア、ティア。」


「えー…まあ仕方ないな、早く終わらせてるのだ。」


「ん…頑張って。」


 二人を待たせて足音を立たせないようにボムバッファローに近付く。どうやらまだ気付かれてはいないようだ。

 さて、ボムバッファロー。近づいてみるに全身茶色で、普通の牛と変わらない背丈だが…名前のボム、つまり爆弾という意味なのだが、それを考えると爆発する何かが予想できる…けどまあ先手必勝!さっさと終わらせて素材を集めるか!


「行くぞオラァ!」


 まだ気付いてないボムバッファローにダッシュで駆け寄り反応される前に後ろから掴み上げた。そのまま振り回すように壁に投げつける。


「ブモォォォオッ!?」


 驚きで反応できないボムバッファローは勢いそのまま、壁にぶつかって苦し気な声をあげる。


「まあそりゃこれだけで倒せるわけはないわな。」


 いまこの場所は一本道のど真ん中である。広さは左右に数メートルで狭くはないが、広いわけでもない。この 狭さでは長いこと戦えば危ない。さっさと終わらせるに限る。


「ブモォォッ!!」


「ほいきたっ!!」


 逆上したボムバッファローは体勢を立て直してこちらへ振り向くと予備動作もなく真っ直ぐ走ってきた。こちらの思惑通りである。

 突進してきたボムバッファローに当たる直前に横に体を捻るように避わしてケツを蹴りあげる。


「ブモォッ!?」


 ボムバッファローの体が軽く持ち上がり、宙に浮いたことでその巨体は勢いが有り余って地面に叩き付けられた。

 もちろん追撃だ。倒れたボムバッファローに一瞬で近づき頭を上から叩く。


「ヴモォォ…」


 弱々しく呻くが脳を揺らすように殴ったので思うように動けず、立ち上がれないようだ。


「悪いが、俺の為に死んで貰うぞ。」


 じたばたしているボムバッファローの頭にさっきより更に体重を乗せた全力の拳を叩き付ける。ドゴォッという音と共にボムバッファローの頭は吹き飛んだ。意外と楽勝である。


「ふぅ…終わったな。」


 ドッと腰を下ろす。額からは汗が流れている。正直怖かった。もちろん武術の才のお陰か、攻撃に迷いは出ないし反射的に動くことが出来たが、それも今さっきまで。短い間だったが集中力はかなり使ったようだった。


「おーい、人間、大丈夫か?」


「ん…だいじょうぶ?あるじ?」


「あぁ…悪い。すこし休ませてくれ。」


 メアとティアがやってきて労いの言葉をかけてくれる。安心したら今度は疲れが一気に襲ってきた。


「はぁ…はぁ……これ集中力とんでもなく必要だな。」


「ん…だって…すごい動きだった…普通あんな速さで突進してきたら…どんな人でもかわせない。」


「すごかったなー!バッてやってスッて行ったと思ったらズドーンって感じでかっこよかったぞー!」


「うん、メアは感覚肌なんだな。」


 そんなイメージはあったよ。アホの子ってそんな感じだよね。キャラが立ってて良いと思うよ。


「よし、次いこうかな。」


 息が整えて立ち上がる。一匹倒すだけで疲労感を感じてはダメだ。もっと体力をつけるべきだろう。


「ん…まって…あるじ…もっと力を…抜いて…楽に戦った方が…いいと思う…」


「そうなのか?」


「ん…あんなに速く動けるのは…凄いけど…多分そんなに力を入れなくても…勝てる。」


「あー…確かに本気で全身に力を入れて戦ってたから疲労感ヤバいわ。」


 どうやらもっと力を抜いて戦う方がいいらしい。毎回毎回疲れていてはいつか隙をつかれて、大怪我してしまうかもしれない。


「悪い、モンスターとガチで戦ったのはあれが初めてだったからやり過ぎた。」


「は?我は?」


「え?モンスターじゃないだろ?」


「魔族なのだが…それもエリートだぞ!?」


「うーん…まあ余裕だったかな?」


「ムカつくのだぁ!!なんでなのだぁ!」


 だってお前、近距離てんでダメじゃん。首叩いて終わりだったじゃん。まあ人型の方が戦いやすいってのはありそうだけどな。


「よし、じゃあ次はアラクネの糸か。」


「ん…その前に…解体…しないと。」


「あぁそういえばそうだったな!」


 ……どうやって解体するの?これ普通の牛みたいにでかいけど…え?解体用のナイフとか買ってないけど?


「メア!解体魔法!」


「んなもんあるかっ!」


 使えねえ…肝心なときに使えないからお前は何時まで経ってもメアなんだよ。


「心外なことを言われてる気がするのだ。」


「メアはメアだな。」


「……意味は分からないがきっとバカにしてるんだなそうなんだな!?」


 ははは、どうだろうな。さて、これほんとにどうしようかな。解体魔法とか流石にないとは思ってたけど…手段がない。


「ん…あるじ…ティアが…やる?」


「え?出来るのか?」


「ん…一応…上手くはないけど…」


「さっすがティアさん!頼りになるぅ!!!」


 俺のティアはやっぱり一味違うぜ!いつも頼りになる!どこかのだれかと違って!!


「ん…照れる…」


「ちなみにどうしてそんなこと出来るんだ?」


「昔は…解体もしてたから。」


「万能ティアさんマジぱないっす。」


 昔のティアに何があったのか。俺は気になってしかたがないよ…

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