2. ビターディスティーノ

第4話『金髪をパンイチで外に晒すわけにもいかないし』

「おっ帰った?」


 玄関を開けたらば、だ。

 で出迎える男がひとり。一番に掛ける言葉がそれかい、と。


「よう。久しぶりに帰った故郷はどうだった?」

「――どうだったもこうだったもあるかっ!」

「おぶわっ!」


 はるばる九州の秘境地・臼杵から東京・西小山のアパートに帰ってきて最初に浴びた洗礼が、常磐裕司ときわゆうじ姿だったなんて、西日に晒されてまたなんともアーティスティックな光景だことで。

 とりあえず私は常磐に服着させてこの不可解な出来事の事情を伺うことにした。警察に放り込むかどうかは、それからだ。スーツケースの中身、まだ整理してない。早く取り出さないとシワになっちゃうというのにだ。ミスがミスを重ねるような荷物の積み重ねをしているというのにだ。開け放つものは期待しかないはずなのにこの不可解が、純情をいとも軽く踏み散らかすんだ。


「だってよお、今日中に大家が「今日中に部屋出てかねーとお前ごと部屋を焼却処分する。ほうら汚物は消毒だー!」とかほざくからよ、しょうがなくここまで辿り着いたらここの大家さんが快く鍵貸してくれてさ。高井戸のクソババアに比べてマジ天使みたいだったぜー! いやそういうのお前だってあるだろ?」


(ねーよ!)


「お前そこはネカフェとか借りろよ! だいたい常磐。この先どーすんのよ? お前ずっとここに居続けんの? マジ勘弁! ここで私お前に襲われる恐怖にずっと怯えて過ごして過ごさなきゃいけないわけ? 1ルーム72,000円のこの部屋の家賃折半してくれんの? 電気代は? 水道代は? お前の分の寝床どこにも確保できないし! せめてこの際ジャッキーかブルース・リーのごとく立って寝ろ! 立って寝て、とっとと早く部屋探せ!」

「安心しろ。俺はバイだ! お前ごときに色気は醸し出さん!」

 私は常磐の頬を掴んでキリキリと問い質す。

「……それはどんなキャラ設定のつもりだ? どんな理由でここに居座りたいつもりか知らないけど、これ以上ふざけた御託並べるとこの手で目黒川に沈めるぞ」

「……さーせん、いやまじさーせん」

「(チャラい、こいつはもう……)わかったらいますぐ出ていってよ! あーもう……」


 私は全力で頭を抱えた。臼杵から帰ってきてまず一番最初にしなきゃならないことが大学時代からの古い友人の『家探し』とは。2月にもなろうという寒空の下、このデリカシーなしの金髪をパンイチで外に晒すわけにもいかないし。そしたら本当にコイツ逝ってしまわれるし。


 だいたい大家さんも何考えてんだか。あとでお土産の最中携えて事情聞きに行けばだ。「尋ねてきて事情聴けばあなたの友人だって言うから「あら、まあ、そう」って感じでちょっと晩御飯だけでもって食べて行かれてそのまま帰すのもアレだから、一日部屋に居てもらって……帰ってきてくれたからねえ……」って、ねえっ……てなんだ? おい誰かセキュリティ、呼んでくれよ、1・2・3・4・ってココにセキュリティ掛けたくなったわ、ワンルームの安アパートにそんな対して財産は置いちゃいないけれどもさ、コンプライアンスぐらいあるだろうよ、2020、東京、真っ先に襲撃されちゃうよ、あんたそんな心のゆとりじゃ……と不満と負担がココからバクバク止まらない。


「大体お前、高井戸に住んでたのに、金ないのにどうやってここまで来たの?」

「もちろん渋谷までキセル乗車……」

「もいっぺん死ね!」


 思わず勢いでラリアットを食らわせてしまった。角度的には、うん。これは長州力っぽい、かな。理想としては、ここはスタン・ハンセンでいきたかった。

 ……おかげでどうだ。二の腕がブルブルと痛い。

(よいこはぜったいまねしちゃいけないよ。おねーちゃんとのやくそくだよ)


 常磐裕司。説明するのもかったるい。大学の時からの腐れ縁。金髪。仕事は私と同じバイト先なんだが大方……


「クビになったんでしょ?」

「当たり! よく分かったな!」


 私は店長からのLINEを常磐に突きつけた。何でコイツへの伝言を私が、などと思わなきゃならんのだが、とりあえず伝える。常磐はお通しでも受け取る感じで私のスマホを手に取り「あいよ、毎度あり」と笑い1ドアのミニ冷蔵庫から発泡酒を探す。


「留守中に何本飲んだ?」

「ここにあるだけ」


 慌てて常磐を突き飛ばして私は冷蔵庫をパカリと開けた。保存の効く食材も無ければ、シャワー上がりの発泡酒に至っては……


「あと一本しかないじゃんかっ! このバカ! 今月臼杵に行った旅費とかでガチでお金ないのに!」

「男にはな、呑まなきゃやってらんねえことだってあるの」

「(含み笑いで)は~ん。当ててやろうか? 『新人賞落ちた!』」

「言うなよそれ!」


 やっぱりな、と私は腑に落ちる。今日が『ひばり文学新人賞』一次選考発表日だった。常磐はそれに作品を出していたけれど、ダメだった模様。私もかつて挑戦したことがあった。結果は、言わずもがな。ただその時持ち込んだ切欠で知り合った人も居た。その時の縁が切欠で私は歌いだした。


「腹が減ったな〜」互いに呟いて、私はスーツケースからお土産で買ってきた『一休庵のとんちもなか』を取り出す。紙包みをざっくり破き、箱から開けて2人で一個ずつ取り合った。一本の発泡酒を代わる代わる飲み合いながら。賑やかしにテレビを付けたタイミングでメールが届く。


「誰?」

「事務所から」

「また『死体少女』役?」

「違う。ラジオの仕事が決まったって。深夜番組」

「すげえじゃん。良かったじゃん」

「分化放送のさ。深夜のアニラジ枠。こないだまでやってた子が何かやらかしてツィッター炎上したらしくて。『Togetter』に魚拓貼られたりして大変だったみたいだよ」

「へえー」

「それで急にラジオもなし崩し的に降板……まあピンチヒッター的に回ってきたというか……ま、繋ぎみたいなもんだね。アニメよくわからんし」

「お前、アニメとか見たことないの?」

「ないよ、そんなに。あ、『プリキュア』だとか『ケロロ』くらいならあるよ、子供の頃に」

「いや最近色々あるじゃん、盛り上がってるのとか!」

「あー、そういうのないない。何かこうよくわかんない」

「この際だから知れよ、そういうの」

「まあそういうもんだよね。巡り巡ってきたもんだし。勉強しなきゃ、かな?」

「なあ、ここに俺という存在が巡ってきたおかげでだ、色々こういう可能性にもしっかり視野が広げ、その分野の『インフルエンサー』を目指せばいい。今後戦略相談や時に憂さ晴らしなどにも……」

「只今現在お前の存在がストレスフルで、私の中ではある意味『インフルエンサー』になってるよ。外にとっとと放り出すから今から『インフルエンザ』になってくれるか? とりあえず寝込みたい」

「――寝込むなよ。今から飛び立つんだろ?」

「飛ぶよ。海岸線から、一歩。あんたがウダウダ言ってるうちに、私は人の期待をたくさん背負ってどこまでも駆け込んでいってやる」

 届いたメールの続きを読み上げる。構成の土肥さんからの指示だ。それによるとだ。


「『リスナープレゼントを考えて下さい』 だって」

「プレゼント?」

「えっと『第一回の放送日は2月5日です。リスナープレゼントでリスナーへプレゼントする番組グッズを考えて下さい。ノベルティグッズの類は準備できますが、があれば是非ご提案を、とのこと。なお『生物なまもの』など限定でお願いします』とのこと。まあ挨拶代わりにリスナーにプレゼントをって感じかな?」

「だいたい番組コンセプトってなんだよ?」

「代替番組だからねえ。長く続くのかどうか、人気次第だね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます