あと96日。 《下》



「え、外食じゃないの!?」



 私が夕食の準備をしようとキッチンに立つとリビングから不満そうなトウヤ先輩の声。



『は?夕飯は奢る罰ゲームにはノったけど外食限定とは言われてないもん』


「俺、ハルのそういう妙に頭が働くところ、嫌いじゃないよ」


『はいはい。ありがとね。カレーでいい?』


「俺、人参とジャガイモ苦手〜」


『分かった。それらを大盛りにすればいいのね』


「おかしい!!!!!」



 そう言って駄々をこねるトウヤ先輩を横目に私はあまり得意ではない料理を始める。

 引っ越したての頃は寮暮らしで全くと言っていいほど自分で作るという事をしていなかったためか、外食が主なメインだった。

 しかし一人暮らしを始めてしばらくしたら時、じわじわと感じる光熱費や家賃などで殆どの給料を持っていかれる恐怖。それからすぐに外食などできるほど裕福な状態ではなくなってしまい、最近では自分で作る事にしている。



「ハルって料理できるの?」


『一人暮らしをするまで全くしてなかった』


「バイトじゃ普通だけどなぁ」


『だってやり方書いてあるじゃん。それに簡単だからね、カラオケ店のフードなんてさ』


「そっか」



 トウヤ先輩はそれだけ言うと勝手にテレビのリモコンをつけてニュースを見る。


 そのニュースは私もよく見るニュース番組であった。聞き慣れた声ではない女性のアナウンサーが司会をしていた。



『あれ?そのニュースのアナウンサーの人、変わったの?』



 私はカレーに入れる用のジャガイモの皮をピーラーで薄く剥くが、これがなかなか難しい。

 そんな事を思いながら私はトウヤ先輩にそう聞く。



「え?俺、前からこれ見てたけどこの人だったよ?」


『嘘っ。ショートの女性だよね?』


「いや、髪縛ってるからロングの女性だよ?」



 …何かがおかしい。

 アナウンサーの女性が可愛かったため、今度の美容室では同じくらいの短さに切ってもらおう、と思っていたから覚えている。



「ねぇ、なんかウィルス流行ってるらしいよ〜」


『インフルエンザじゃなくて?』


「うん。新型ウィルスで、原因不明だって〜。やばいね、日本」



 トウヤ先輩のその言葉をふぅん、と思いながら私はスルーしてジャガイモを向いてるピーラーに意識を向ける。やっと2/3が終わったところだ。

 すると私の返事がなかったのを不審に思ったのか、トウヤ先輩がキッチンにやってきた。



「……遊んでたの?」


『理由は聞かなくないけど、一応聞こう。…どうしてそう思った?』


「え、だってピーラーで剥くの下手過ぎ…っ、くくっ、」



 トウヤ先輩は控えめに笑いながら、お腹を抱える。

 そんなトウヤ先輩を私はじぃっと見ながらトウヤ先輩のカレーには一切肉は入れずに野菜だけにしようと固く心に誓った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます