世界滅亡まであと何日?

えむあーるえー。

あと97日。


 私は、普通だと思っていた。

 よくアニメで見る類まれな才能とか、誰にも負けないものがあるとか、才色兼備な美少女とか、そんなものとは一切無関係だと思っていた。

 いわゆる、「おはよう」とかクラスの雰囲気を明るくするためのガヤガヤボイスを担当する生徒Cくらいの立場だと、自負していた。

 自分はこのまま、普通に付き合って、普通に結婚して、普通に生涯を終えるのだと、思っていた。


 今、自分の視界いっぱいに浮かんでいる97日という数字がなければ、の話だが。


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 私の視界におかしな数字が浮かんできたのは3日前。つまり当時だと100日と出ていたわけだ。

 最初は変なものでも目に入ったのかな、なんて思いながらバイトの支度をしてそのままバイト先へと向かったのだった。

 だがしかし、バイト中もその文字は消える事なくあろうかとか、カウントダウンまで始めるという始末…。

 解せぬ…。


 目の病気か何かかと思い、かかりつけの眼科へと足を運んだが、目が傷ついているとか、重い病気とか、そういうものは一切なく、異常は見つからなかった。

 病院の先生が言うには大学を中退したせいでストレスがかかり、目になんらかの影響を及ぼしているのではないか、と。

 まぁストレスがあるのは否定するまでもない。実際、今も駅内にある心療内科にお世話になっているのだから。…でも、だからといって私は自分自身の体に負担がかかるほど精神的にストレスを感じているわけでも、ましてや病んでいるわけでもない。

 ストレスがかかっているな、と分かるならとっくに処方された頓服薬を飲んでいる。


 まぁ、いずれはなくなるだろう、と思っていた。

 結果、3日経った今でもその文字は消える事はなく、私の視界を埋め尽くしている。



『…ハァ』



 私が大きめにため息をつけばシンクに寄りかかりながら携帯をいじっていたトウヤ先輩がこっちを見る。



「あれ?ハル、まだ消えてなかったの?」


『うん〜、残念ながら』



 トウヤ先輩はバイト先で知り合った私より5つ年上の25歳のフリーターさん。

 私の病気の事や視界の事、大学の事、なんでも相談できる唯一の先輩だ。

「5歳年上だからって敬語はなんか堅苦しいからタメでいいよ」と言われてからずっとトウヤ先輩と話す時はタメである。



「それ、本当に大丈夫なわけ?病院、行ったんだよね?」


『行った〜…、けど、異常ないってさ』


「……ヤブ?」


『な訳』



 そんな風にいつも通りの会話をしているとフロントの方から従業員を呼ぶ時の少し高めのチンッ、という音がする。



「俺行くよ」



 私が行こうとしたのが分かったのか、携帯を右ポケットにしまいながらトウヤ先輩はそう言った。



『あ、ありがとう』



 トウヤ先輩はこういう時、凄く紳士的で優しいと思う。



『……』



 私は何気に視界を制している数字を掴むかのように宙へ手を伸ばしてみる。しかし、当然の事だが、その手は宙を掠めるだけで数字にはなんの影響も及ぼさなかった。



『……早く、消えてくれないかな…』



 私はそう呟いて目を閉じた。



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