第118話 老婆

 古い日本家屋…埃っぽい寝室。

 私の横には見知らぬ老婆が横たわっている。

 眠ってはいない…。


 とても不快だ。


 なにやら私に手を伸ばす。

 私はまだ子供のようだ。


 汚い布団、暗い部屋。


 老婆の手が私に触れる。

 とても硬い…まるで老木のようにねじ曲がり、動くのが不思議なくらいに硬い。


 暗がりでよく見れば、目は窪み、深い穴のように黒い。

 肌は褐色でシワだらけ、なにやらギクシャクと蠢くように近寄ってくる。


 怖くなった私は、部屋を飛び出して、1階へ走る。

 1階には母親と妹が寝ているはず、その部屋に飛び込んで、布団に潜り込む。

 ギシッ…ギシッ…と階段の軋む音がする。

 老婆が追ってきている。


 障子戸の向こうへ月明かりに投影された老婆の影が見えた。

「桜雪はココにいるかね…」

 老婆は障子戸を開けずに母親に声を掛ける。

「いえ…来てませんけど…」


「桜雪は…いるね?」

「いえ…」


 母親の声が震えているのが解る。

 妹は泣きだしそうだ。


 私は、布団をはぐって、障子戸の方へ歩く。

 母親が私の着物の裾を引っ張って首を横に振る。


(死ぬな…きっと…)


 私は死を受け入れた。

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