第113話 リンドウ

 美術学校なのだろうか?

 私は習字の課題で頭を悩ませていた。

 他の学生は、すでに次の課題へ進んでいる。


 食事休憩、私の前に若い学生が座る。

「あぁ早くリンドウを描きたい、なんで別の校舎に戻れないんだ?」


 私は席を立った。

 私の課題が終わるまで、彼らは校舎の移動が出来ないのではないか?

 そう思ったからだ。

 私に教師らしき女性が話しかけてきた。

「桜雪くん、焦らなくていいから…自分の納得したモノを描きなさい」


 食事が終わると私は、なぜか海岸にいた。

 険しい岩場、到底、手が届きそうもない場所に紫色の花が咲いている。

(子供の頃に見たような…崖の途中に咲いていた花?)


「僕が習字の課題を終わらせないから…」

 私は習字などやりたくない。

 やらなければ皆が迷惑しているのだから…。

 でも…

 描きたい花は手が届かない場所に咲いている。

 気付くと紫の花は枯れていた。

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