第112話 道場
お寺のような建物。
私は、通い慣れているといった足取りで扉を開ける。
畳敷きの道場のようなところ。
隅に老人が座っている。
紺色の胴着を身に付け、背筋を伸ばして正座している。
「机を片付くなさい」
静かに語りかけるような口調で私に片づけを促す。
私はおとなしく従う。
30畳ほどの道場、気づくと老人は道場の真ん中で私に向かって構えている。
私と目が合うと、老人は私に向かってくる。
早く鋭い突き、蹴り、私は後ろに下がりながら、老人の手足をさばくのが精一杯。
老人の動きがピタッと止まり、老人の強烈な右正拳突き、私は両手で遮ってしまった。
(やられる)
両手を塞がれた形になった私はノーガード。
両手がビリビリと痺れている。
私は膝からガクンと崩れ落ちた。
全然敵わない…。
こんな老人に?
いつの間にか道場には、まばらに人が集まってきた。
「見ないでくれ…」
無様に崩れ落ち、立ち上がることすら出来ない自分の情けない姿を見られたくなかった。
後ろに私の乗ってきた車が停めてある。
ボロボロの軽自動車?
「あれ…僕の車は?青いスポーツカーのはずじゃ?」
あれ?…アレ?…あれ…。
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