第95話 奥歯

 親戚が集まっていた。

 相変わらず居心地が悪く、私は部屋の隅にいた。

 何を思ったのか、私は自分の奥歯を右手で抜こうとしていた。

 虫歯でもなんでもない歯。


 なぜ自分でそんなことをしているのか、さっぱりわからない。


 なかなか抜けずに四苦八苦しながらも私は奥歯を歯茎から引き抜いた。

 ドクン…ドクンと脈打つ歯茎から大量の血が口の中へ溢れだす。

 血を吐き出しながら、私はその歯を誰かに渡そうとしていた。


 私は、ようやくわかった。


 私は、大きなナニカを失って、それを誰かに差し出そうとしている。

 確信があった。

 その誰かは解らないが…確信があった。

 この歯を差し出す相手、それは私から大切なナニカを奪った相手。


 私の歯がコンパスのように教えてくれる。

 私が殺すべき相手を…。

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