第86話 読めない小説

 自分の書いた小説を読みかえしている。

(これは私が書いたものなのか?)

 文章は支離滅裂、ひらがなばかりで読みにくく、句読点が異常に多い。

 読むのが苦しい、私は本を閉じて、スマホを開く、過去のメールを読み返している。

 これも読めない。

 文字間に空白が多く、文章になっていない。


 文字を追うことが苦痛に感じる。

 本棚に並ぶ本、漫画、雑誌、絵本、DVDのタイトル、あるゆる場所に文字が並ぶ…。

 それが、とても奇妙で、目で追えない…まるで読めないのだ。

 いや正確には読めるのだが、なんの本なのか解らない。


 吐き気が襲い、私は目を両手で覆う。


 目を閉じても、まぶたの裏に文字が焼きついて離れない。

 読めない、理解できないことが、とても恐ろしいことだと思った。

 ここから逃げたい…どこかへ逃げたいと、それだけを考えていた。

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