第52話 猫

 飼い猫が病気に掛かった。

 治すには、抗体を持つ他の猫を食べさせるしかない。


 目の前には弱った飼い猫、そして抗体を持つグレーの子猫。


 私は迷っている。


 飼い猫を助けるためには、子猫を殺さなければならない。

 飼い猫は老猫だ。


 不自由な2択を前に私は悩んでいる。


 鍋にはお湯が煮立っている。

 どうやら煮なければならないようだ。

 両親、従弟、友人が入れ替わり、台所へ出入りして私を責めるのだ。

「飼い猫が大事じゃないのか?」

「子猫の方を飼って助けるべきでは?」


 私は気が狂いそうだった。

 棚の上でこちらを見て弱々しく鳴く飼い猫。

 足元には擦り寄ってくる子猫。


 私は子猫を抱き上げて…湯が煮立った鍋に…。


 鍋の蓋を閉めて飼い猫を抱きしめた。

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