第168話

「どうしても……行くというのですか……」




「私がこれから何をするか……わかりますね、リンスロット……」


 厳しい視線でエレノアがリンスロットに問う。


「はい……わかっていますわ……御姉様……」


 その結末を知るリンスロットの声は沈み、心は「重く」鈍い気を放つ。


「わかっていますわ……それでも、わたくしは」


 感情、想いの全てを伝えたい……その有り余る衝動が、リンスロットの瞳を潤わせ、言葉を詰まらせる。


「それ以上言わないでリンスロット……私もあなたともっと姉妹らしい事をしたかった……遊んだり、買い物したり、恋の話をしたり……たまに喧嘩したり……」


「御姉様……わたくしも御姉様ともっともっと語らいたかった……一緒に街を歩きたかった……わたくしだって喧嘩したり、笑って仲直りしたかった……そして……甘えたかった……」




「リンスロット……」


 リンスロットはもう、はばかりなく瞳を濡らし、エレノアの胸元に顔を埋める……。


 りおんが、アンテロッティ、ローグ、コステリッツ、ひばり、そしてキャサリンが、彼女のいつもと違うこの年頃の「幼い」仕草をどう感じ、思おうと恥じる事などない……その「誇り」にも似たリンスロットの情念が、目に見えない膜を形成し、ふたりを包む……。


 嘲笑する者など、いない……寧ろふたりが醸し出す「異空間」に感化され、執拗に攻撃を続けているス一パ一ダ一クエネルギ一の脅威をすっかりと忘れ、姉妹の美しい「演目」に快楽さえ覚え、楽しんでいる……。




 魂が「麻痺」している……。




 しかし、現実は「残酷」……。




「時間よ……リンスロット……」


 自身に収まっていたリンスロットの躰を解き、清らかにエレノアは言った。




「……御姉様……」


「いいですかリンスロット……あなたは、あなたです……私の後ろを追う必要などないのです……ロナール家の様々なしがらみは、私が全て背負います」


「だから、リンスロットはもっと自由に生きて、あなたの年頃の女の子のやりたい事を思う存分、楽しみなさい……その為の道筋は、これから私が創ります……」




「嫌です……嫌です……行かないでください……御姉様……」


「まぁ、ねた表情を初めて見せましたね」


 エレノアの指先が、リンスロットの頬をつたう涙をしなやかに拭う。




「御父様ですのね……こんな事を企て、御姉様を追い詰めたのは……そうなのでしょう……」




「そうに違いありませんわ……」

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