第159話
「りおんさん……あなたは……」
「わたしも、したい事たくさんあるし、恋も甘酸っぱい恋愛も経験したい……エレノア先生みたいな綺麗な女性に憧れ、そうなりたい……」
「私は、世界を救えなかった哀れな女ですよ……そんな私に憧れるというのですか……」
「はいっ……憧れますよ……だってエレノア先生は全てを持っているんですから……世界なんか救えなかった事なんて、どうでもいいんです……全部、わたしの母のせいにしていいんですよ……」
「って、凄く適当ですよね……エレノア先生が苦しむ要因を……どうでもいいなんて……」
「…………」
「エレノア先生が苦しむ必要なんてないんです……だから、銃なんて野蛮な物に縋っている姿は、エレノア先生らしくありませんよ……」
「私を許す……のですか……あなたの御母様を見捨てた私を……」
「許すもなにも多分、わたしの母も適当だったんですよ……まさか、還ってこれないなんて考えてもなかったと思いますよ……だから、エレノア先生がそんなに苦しまなくていいんです……リンスやみんなもそうだと思いますよ……だって、エレノア先生はわたし達の先生なんですから……人として、魔法少女として……女として……」
「…………」
「ま、まぁ……適当なわたしが言っても説得力はありませんけど……」
「それじゃあ、わたしは行きます……撃つ、というのなら、確実に急所を狙って下さい……痛いのは嫌ですから……」
「あなたも、リンスロット達も……多分還っては……それでも……」
「ふふっ……女は度胸ですよエレノア先生……ここにいても、リンス達と戦っても、なるようにしかなりませんから……」
微笑みの背中に、エレノアは「負けた」……。
それを感じたりおんは、置き手紙とメモリを更に強く握り締め、再び歩を進め、停滞していた空気の膜を切り裂く。
「行ってきます……」
教室を出てゆくりおん。
エレノアはただ、黙ってりおんを見送る……。
消えるりおんの背中越しに、閉ざしていた記憶が蘇る……りおんの母との「思い出」が……。
「それじゃ、ちょっと行ってくるわね……」
「あ、あのぅ……」
「まぁ、なるようにしかならないから……」
それが最後の言葉……。
「もう……あなたは……るおんさんそのものですよ……りおんさん……」
構えた姿勢を解き、そう呟いたエレノアの魂と表情は、憑き物が剥がれ、女としての尊厳を取り戻し、晴れやかだった……。
教室に新鮮な空気が流れる……。
裏腹に外の世界はどんよりと曇り、雪が激しく降り始めて、地上に白い層を重ねてゆく……。
エレノアは窓辺に佇み、降る雪と「対話」し、自身のこれからのゆく末を想い……しなやかな指先で煌めいた髪を愛おしくたくし上げ、美しく微笑んだ……。
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