第117話
「あのね、サンプル動画3番は闇に葬るとして、サンプル動画2番なんだけど……」
「…………」
「あれって、実在する人物なの……?」
「んんっ……?」
「えっと、残虐少女……」
「りおーんっ、世の中には知らなくてもいい事もあるぞ……」
冷や汗を流すステッキさんを見て、りおんは察し、それ以上の深追いは避けた。
「んーっ、腑に落ちない点は色々あるけど、今日のところは棚上げしておこう……」
「すまんな、りおん……」
「それにしても、10月から鏡花先生は産休に入って、後任はいつも授業を中断させられていたおじいちゃん先生が就くなんて、なんかテンションが下がるなぁ……」
「そう言うな……あの爺さんも少なからず監理局とは因縁があるからな……心配はないだろう」
「ちょっと厳しかったけど、鏡花先生の方がいいなぁ……」
「ごねるなりおん……ここは鏡花の出産をみんなで喜ぶべきところではないか」
「そうそう……それでクラスのみんなで千羽鶴折ったり、寄せ書きでもしようかって話になってるんだよ……」
「それは素晴らしいではないか……きっと鏡花も喜ぶぞ……」
「だよねぇ、んじゃこの計画、ひばりとリンスに進めようって明日言おうっと」
「そうだな……」
りおんの魂の高揚に反応してか、雲の切れ間から太陽の閃光が照射され束の間、この世界の不安定で不純な「感情」を蒸発させた……。
9月は早くも下旬に入る。
この間、ダークエネルギーの襲来は幾度かあったが、りおんの出撃はなく、申し合わせた様に新興国、途上国出身の魔法少女達が「お相手」をして、壊滅した……。
こっそりと、鏡花サプライズ計画は進行している。
この頃になると、鏡花の驚いた表情をそれぞれが想像して、鏡花を見る度に「くすっ」と心の中で笑う……。
はたして鏡花は……
笑うのか……?
涙を流すのか……?
それとも……。
その日が迫る度に魔法少女達の魂は「純粋度」を増し、折られる鶴の数とともに清められてゆく……。
そして今日も、鏡花のホームルームが始まる。
あと数日でしばしの別れ……。
寄せ書きは完成……千羽鶴も明日には数が揃う。
汐らしく着席し、心の快楽と高揚感を抑え、鏡花を待つ……。
チャイムが鳴ると同時に引き戸が開けられた。
正確無比な鏡花の日常……。
いつもの様にすっと教壇に上がり、教卓の前に立つ……。
しかし、少女達の魂で優しく柔らかく醸造された温かい教室内の温度と香りは冷め、失われてゆく……。
「お、御姉様……」
無意識に支配された躰は立ち上がり、言葉を呟き、リンスロットの誇り高き魂は震え、自慢の金髪は色褪せ……彼女の存在に動揺する……。
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