第81話
「いやぁホントだよぅ……まさかアイドルが万引きするわけにいかないし……」
「それは人としてダメだよっ……!」
アリスを諭すりおん。
「いやいやりおんちゃん、万引きなんてしないよ……でも今、マジで怒ってくれて嬉しかった」
無垢で素直で可憐な少女の側面を見せるアリス。
純粋なヴェールを纏い、自分を見つめるアリスに、りおんの心と魂は夢見心地だ。
この段階で、りおんはアリスの手玉に取られている。
「あっ、44階だよ……」
上昇が止まり、扉が開く。りおんとアリスの躰が交差し、扉の内と外で再び対峙する。
「いつでもメールしていいからね」
閉まろうとする扉を押さえながらアリスが微笑み、言う。
「うん……」
「それとさりおんちゃん、自分は適当だって言うけどさ、適には、叶う……当には、そうあるべき事っていう意味合いもあるんだよ。だから、りおんちゃんが何に悩んでいるか知らないけれど、あるべき道に叶う為に自信を持って歩んでゆけばいいんじゃないかな……アリスはそう思う」
「そうだね……」
簡素な返事だったが、ふたりにはそれでわかりあえる。
「じゃあね……」
アリスが手を放し、扉が閉まってゆく……。
しなやかなアリスの笑みを残し、エレベーターは上昇してゆく。
りおんの魂は浄化された……アリスによって。
我が家へと歩を進めるりおん。
「ステッキさん、ちょっと聞きたいんだけど」
「何だ、りおん……」
胸ポケットから「顔」を出すステッキさん。
「わたしの勘だけど、エレベーター中だけ時間、止めてたよね……」
「んっ……? まぁその辺はいいではないか……新しい友を得たのだ。今はこれ以上の喜びはないだろう」
「またそんな事言って誤魔化して……まぁ、いいや」
のらりくらりのステッキさんを軽く指で弾き、玄関に辿り着いたりおんは、ドアノブの施錠解除ボタンを押そうとした時、ふと気づく……。
「あれっ……」
「どうした、りおん……」
「アリスと初めて逢ったのに、わたしの名前、どうして知ってたんだろう……?」
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