第80話

「実はさぁ、こういうネタにつき合ってくれるメンバーがいなくて、ちょっぴり寂しかったんだ」


「わ、わたしで良ければいつでも……って、お忙しいですよね」


「そんなかしこまらないでよ、りおんちゃん。アリスでいいよ……んじゃ、メルアド交換しよっか」


「ア、アリス……それじゃあ」


 遠慮がちに言い、りおんは鞄からスマホを取り出し、アリスに渡す。


 アリスもポケットから端末を取り出し、りおんのそれと突き合わせる。


「ガラケー……」


 驚くりおん……使い込まれ、風格さえ漂うアリスの携帯。


「アリス、スマホって苦手なんだよね。文字が打ち辛くってイライラしちゃう……やっぱり文字打ちはガラケーの物理キーに限るよねぇ〜」


 苦手と言いつつ、りおんのスマホ器用に操作するアリス……右手に自身の携帯、左手にりおんのスマホ。




「コネクティブ・アリス……」


「アクセプション」


 アリスのひとり芝居でメルアド交換が終了。


 りおんは、アリスのネタに反応が遅れた事を後悔する。


「これでわたし達、カップラーになったね」


 遅れを挽回するりおん。




「だね……」


 アリスが微笑み、りおんにスマホが戻る。


「アリス、りおんちゃんと友達になれて嬉しいよ。勿論、メンバーや他のアイドルやアーティストにも仲の良い人達がいるけど、プライベートな友達ってひとりもいなかったから……」


 更に増した笑顔を惜しげもなくりおんに照射するアリス。


 りおんは読み解く……


 憂い、寂しさ、葛藤。笑顔の瞳の奥で蠢く、深層のアリスの本質を。


「それでアリス、何だか急いで駆け込んで来たけれど、どうしたの……?」


 自分のアリス観を悟られぬ様に訊いた。


「いやぁほらさ、近くのコンビニにプレミアムロールケーキ・ジンギスカンクリーム味が期間限定で売ってるでしょ」


「あ、あぁ、あれね……」


 眉をピクつかせ、戸惑うりおん。


 興味本位で買ってはみたものの、ひとくち食べて速攻で生ゴミに出した忌まわしいスィーツ。


 あの得体の知れないクリームの味と風味が、りおんの内部で騒ぐ。


「アリスさぁ、ハマっちゃってさぁ、あの毒々しい味に……」


「そうなんだ、あはは……」


「これからちょっと忙しくなるから、買いだめしようと思ったら財布忘れたのに気づいて、マンションに戻ったらグッドタイミングで高層階エレベーターに乗るりおんちゃんが見えたから、これを逃したらしばらく降りて来ないって思ったら……えへへ」


「それは良かったね」

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