第76話

「わかりましたわ……シルフィ、あの規模でしたら出力は50パーセントで問題ありませんわね……」


「はい……」


「では、参りますわよ……」


 シルフィを天頂に掲げ「旋律」を舞うリンスロット。


 美しい旋律に吸い寄せられ、シルフィの先端に集積する宇宙空間に漂う目には見えないエナジー。


 虹色に輝き、膨張してゆく宇宙の意思……りおんはそれに見惚れ、一瞬意識が曖昧になる……。


 だが、煌めく旋律もリンスロットの能力の半分に過ぎない……。


 これが欧州カルテット、そしてリンスロットの実力。


 適当な動機と適当な技で、適当に物事を「投げた」りおんは、諌める様に下唇を噛む……。


 その後の事は……あまり憶えていない……「何とかフロージョン」とリンスロットが言い、虹色の帯をダークエネルギーに放ち、崩壊してゆく過程……。


 壊滅の置き土産で「彼ら」が成仏する時に見せる宝石にも似た煌めきが瞬間、宇宙空間を明るく照らす「景色」だけが、りおんの意識に深く浸透している……。




「さぁ、帰りますわよ……りおん……」


 りおんの「適当」を遥かに凌駕するリンスロットの「誇り」が、少女と女の境界線で佇む瞳とともに迫り、圧倒する……。






「はぁ……明日からどうしようかなぁ……」


「何をさっきからぐじぐじ言っている、りおん」


「もうさぁ、お試し期間終了って事で、夢オチ設定にしてよ、ステッキさん……」


「勝手な事を言うなりおん……既に賽は投げられた……今更夢オチなんてご都合主義設定は通用しないぞ」


「だよねぇ〜」


 項垂れるりおん……深まる夕日……置き場所のない気持ち……。


 いつまでも歩いていたい想いを塞ぐ、タワーマンション。


 別にしなくてもいい会釈を、常駐するドアマンに「演じ」エレベーターホールへ向かう……。


 こんな時に限って「素直」な高層階専用エレベーターに乗り、りおんはセキュリティカードをセンサーにかざす……。


 44階のランプが点灯し、ゆっくりと扉が閉まってゆく……。




「ちょ〜〜っと待ったあ〜〜!」


 そう叫びながら、閉まる扉を威嚇し足をねじ込む人物……。


 閉まりかけた扉が開き、弾ける躰をエレベーター内に入れる。


 突飛な出来事と迫力に押され「奥」に追いやられるりおん……。




「ふうぅ……ギリギリセーフっと」


 独り言の様に言い、閉まってゆく扉の前に堂々と立ち、独特の雰囲気を醸し出す何処かで見た女性。


 彼女の背中を見つめるりおん……明らかに一般人とは異なる風情とオーラを際限なく放ち、りおんに照射する……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る