第70話

「それと……隠れていないで出てきなさい……」


 鏡花がりおんの鞄を見つめ、中の「住人」に言った。


「久しいな鏡花……相変わらず手厳しいな……」


 鞄から「顔」を覗かせ、在りし日の鏡花をステッキさんの声が懐かしむ……。


 しょうのない人……そんな風情の眼を解き、鏡花はりおんを見据える……。




「魔法少女発動停止1週間が、今回の件で監理局が下した処分です」


「わかりました……」


 想定外の「軽い」処分に、りおんの言葉は脱力する。


「ではポーターさん……」


「うむ、仕方がないな……」


 促され、鞄から出たステッキさんが、鏡花の手に収まる……。


「全く……あなたにも責任はあるのですよ……」


「面目ない……」


 軽快な操作でタブレット画面を呼び出し、暗号めいた文字や数字を入力しながらステッキさんをたしなめる鏡花……。


 やけに素直に従い、鏡花に身を任せているステッキさんを見ていると、何か弱みでも握られているのかと勘繰るりおん……。


 同時に、自分が「存在」すらしていない若き日の鏡花とステッキさんの手練れた関係……その幕の後ろにうっすらと見え隠れする「女」の姿……。


 鏡花も、自分と同じ歳の頃はひょっとして……それと……。


 少女特有な嫉妬心のフィルターを追加したりおんの瞳が、子供の様に「可愛がられて」見えるステッキさんを捉え、訝しむ……。




「では、現時刻から1週間です……」


 プロテクトを施されたステッキさんが、鞄に戻る。


「まぁ、停止中にダークエネルギーが出現し、りおんさんに出撃要請が必ずしもある訳ではありませんから、実質的には無罪放免という事でしょうね」


「鏡花先生……本当にこんな軽い処分でいいのでしょうか……これで2回目ですよ……正直、退職なんて事も覚悟していたんですけど……」


「…………」


「なのに……事実上の無罪放免……それに、デブリの時だって転校、引っ越し、高層マンションの上層階へのグレードアップと名門校に転入……そして、あっさりと、とんでも事態を受け入れる父……」




「なにか……わたしに隠し事があるんじゃないですか……」


「りおん……もういいだろう」


 鏡花があざとさを含め言い、りおんが「反抗」し、ステッキさんがたしなめる……。




「そうですね……では少し補足しましょうか……」


 鏡花がやや語気を強め、りおんに応じる。


「もう知っていると思いますが、りおんさんが今回破壊してしまったのは、アメリカ合衆国、国家安全保障局が所有、運用する軍事衛星のひとつです」

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