第67話

「何も言われないね……ステッキさん……」


「そうだな……りおん……」


 あれからもう1週間が経つも、無言を貫く監理局。


 いつもの様に登校し、いつもの様に席に着き、無意識に放出される吐息……。


 クラスメイトとの挨拶、たわいのない会話……。


「りおん、お店の新商品の試作、食べてみて……」


「よっ、クラッシャーりおん……細かい事は気にすんなって……」


「ま、まぁ、わたくし達にも責任はありますから、監理局が何か不当な事を言ってきたら一応は助けて差し上げますわ……」


 ひばりは気遣い、キャサリンはあの件を豪快に吹き飛ばし、リンスロットは優しさを隠す様に自身の品位を見せつける……。


 そんな、インターナショナルクラスが燻らせる仄かな優しさが、りおんの心を癒す……。




 5時限目……。


「先生、よろしいですか……」


 引き戸から顔を覗かせた鏡花が、巡航速度に乗っていた初老教師の授業を強制停止させた……。


 曇りのない笑顔を装備して。




「はぁ、わかりました……」


 笑顔に抵抗しない初老教師は、教科書を閉じ「今日はここまで」と諦め、言い、教室を出てゆく。


「すみません……」


 すれ違い様に鏡花が少し色気を含ませて言い、教卓に向かう……戸が閉まり、鏡花は教卓で初老教師の気配が完全に消えるまで沈黙する……。


 少女達の躰から、熱が沸いている……りおんはそう感じた……。


 彼女らの感覚は研ぎ澄まされ、鏡花が何を言うのかをもうわかっている……。




「ダークエネルギーの接近が観測されました……」


 魔法少女としての「本能」が彼女達から沸騰する。


「魔法監理局の要請に基づき、出撃メンバーを発表します……」


 時給や名誉に飢えていた少女達の思いは、身を焦がす熱となって先走り、教室を温める……。


 誰が選ばれるのか……獲物を狩る鋭く変貌した瞳達は、鏡花を見つめる……。


 穏和なひばりは、その「濃度」が薄まり、ましてりおんなど積極的に獲物を狩るという「野生」が芽生えている筈もない……。




「今回は、欧州カルテットの皆さんに出撃してもらいます……」


『あぁ〜〜っ……』


「ちっ……」


「ほっ……」


 クラスメイト達が切なく声を漂わせ、キャサリンが悔しがり、ひばりは「安堵」する……。




「それから……」


「りおんさん……あなたもです……」


「へえっ……?」


「お願いしますね……」


「は、はぁ……」


 鏡花の、監理局の意図がわからず、気乗りしないりおん……。


 クラスメイト達もりおん同様、懐疑な念を個々に発する……そこには何故りおんが……という思いも含まれる。

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