第63話

 覚悟が決めたステッキさんにとってはこれが「日常」なので、心情は穏やかだ……。


 スラッシュ弾が、衛星に接触する……。


 黒い球体に巻き込まれる様に衛星は歪み、互いに絡み合い、やがて収縮してゆき、静かにあっさりと跡形もなく消えた……。


 ド派手な爆発も、輝きもなく、さらりとした消失劇。


 冷えた宇宙が恐れを演出し、密度を上げる。




「シ、シルフィ……あの衛星は何処の国のものですの……」


「あれは……」


「あれは、ウチの国家安全保障局の軍事衛星だな。やっちまったな……」


 少し動揺したリンスロットがシルフィに問い、答えようとした時、ハンセンが心情をあからさまに滲ませて言い、自国の衛星である事を吐露する。


「ヒューッ!……ファンキーだね〜、りおん……」


 衛星、しかも自国の軍事衛星の事など知った事か……リンスロット達の懸念を吹き飛ばすキャサリンの陽気な反応……。


「あなた、マスターにこんな事をさせてしかも、あなたも同調するなんて……これは相当な処分が下されますよ。最悪の場合……わかっているのですか」


 いつもは冷静沈着、淑やかなシルフィが、感情と声を荒げ、ステッキさんを問いただす……。


「あぁわかっているさ……覚悟の上だ……」


 魂を据え、言ったステッキさん……。


「りおん、8分前だ……お弁当は無理だな……」


「そうだね……まぁ、またやっちゃったから、魔法少女も今日で終わりかな……」


 寂しさと切なさ、清々しさが溶け合うりおんの想い。


「さぁどうかな……世界は複雑だからな、色々と」


 含みを持たせるステッキさん……。




「さぁて、最後だからド派手にやっちゃいますかって事で、リンスっ、キャシーっ、今からお仕置きするからね……」


 既にステッキさんの先端には、ピンク色の球体が形成され、膨張している……。


「退職ついでに、技の名前も盛るからね……」


 意味深にニヤつくりおん……身構えるふたり……。




「ム〜ンクリスタルヒーリングセレニティ、リリカル、超電磁ぃ〜ハングマン、はぐれスラッシュ純情派でぇ〜、汝のあるべき姿に戻らなくてもいいから、月に代わって引き籠ればいいんじゃねぇ、みたいなぁ〜、ブルーウォータージャラスティックハレ〜〜ション〜〜〜〜っ……!」


 直径5メートル程のスラッシュ弾改め、ハレーション弾を両手で天頂に掲げていたりおんは「適当」に盛った技を叫び、リンスロットとキャサリンに向けて全身を駆使して桃色球体をリリースした……。


 尋常ではない塊が、ふたりに迫る……。

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